【KAC20246】コンクールに向けて

八月森

写真部の活動は二人一組

「そろそろ次のコンクールに向けて被写体を決めようと思うわ」


 写真部の部室にて。

 部長の新条しんじょう秋菜あきな先輩が遅れてやってきて発した一言に、あたし、風見かざみすいは不満を隠さず返事をする。


「やっとですか」


 うちの部活は上級生と下級生が一組になって技術を教えていく方針で、新入部員のあたしは秋菜先輩とコンビで活動することになっていた。始めのうちは部長に教えてもらうことに緊張していたのだけど……


 この先輩、とにかく私生活がだらしない。

 遅刻や早退は当たり前だし、忘れ物は多いし、気分で物事を決めるし、被写体を見つけたら糸の切れた凧のようにふらふらどこかに行ってしまう。

 今回も、コンクールのテーマを決めずにずるずる日にちが過ぎていたため、何度も発破をかけていたのだが、ようやく今日になって動き出したというわけだ。不満も出ようというものだ。

 

 他の部員たちはとっくにテーマを決めており、今日も被写体を求めて撮影に向かっている。部室に二人きりなのでなおさら遠慮もなくなっていた。


「ええ、やっと決めたわ。今回は鳥をテーマにします。そのための準備もしてきたわ。というわけで早速外に向かいましょうか」


 そう言って愛用の一眼レフカメラを手にし、すぐさま部室を出る彼女を慌てて追いかけ、あたしたちは学校を出た。

 その足は、住宅街まで伸びたところでようやく止まる。ここらに目当ての被写体がいるのだろうか?


「それで、準備って何をしてきたんですか?」


「これよ!」


 彼女が自信満々にこちらに突き付けたのは……この辺りの簡略的な地図に、コミカルな鳥の絵や短いコメントが描き込まれたもの。

 もしかして、これを作るために時間がかかっていたのだろうか。


「とりあえず、『鳥会え図』と名付けたわ」


「むしろ会えずじまいになりそうですが、そのネーミング」


「そんなことないわよ。見て、地図のここ。あの家の軒先なんだけどね。あそこにはツバメが巣を作ってて、よく出入りする様子が見られるの」


 そう話す合間にも、一羽のツバメが巣から飛び立って視界の外に消えていく。


「ね?」


「……今、シャッターチャンスだったのでは」


「……あ」


 遅れてそれに気づいた先輩が小さく声を上げ、気を取り直したようにまた地図を指し示す。


「ま、まぁ、そういうこともあるわよ。次は、ほらここ。通気口にスズメが棲みついていて――」


 パタパタパタ――


 またしても、被写体候補が目の前で飛び去って行く。


「……」


「……もう、始めからカメラ構えてたほうがよくないですか?」


 言いながら、あたしもスマホを取り出しカメラモードに切り替えておく(一眼レフに憧れはあったが高くてまだ買えてないのだ)。


「うう……せっかく描いたのに鳥会え図……」


「そのネーミング気に入ってるんですか」


「……でも、そうね。予めカメラを構えてたほうがいいのかもね。思わぬ被写体が飛び込んでくることだって――」


 ファインダー越しに空を見上げていた先輩の動きがそこで止まる。次いで、角度を変えながら連続でシャッターを切る音。


 あたしも釣られて上空を見上げる。翼を広げ滑空する姿。ピィーヨロロと響く鳴き声。トンビだ。しかも珍しく低空を飛んでいる。


 そうして被写体が飛び去っていくまで、先輩はシャッターを切り続け……やがて顔を上げ、こちらにニっと笑いかける。


「ね? とりあえずカメラを構えておけば、飛び込んでくることもあるでしょ?」


 ここまでの不手際も忘れ、満面の笑顔を見せる先輩にあたしは苦笑する。色々不満もあるけれど、とりあえず運はいいし笑顔が可愛いんだよなこの人……





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