第20話:ダウナーちゃんとケーキ屋さん

 それから数日後のとある日の昼休み。


 俺はいつものように坂野と一緒に教室の中で昼飯を食べている所だった。


「あ、そうだ。健人って今日の放課後は暇?」

「え? まぁ今日は部活もバイトも無いから暇だけど?」


 するとその時、坂野が今日の放課後は暇かどうかを尋ねてきたので、俺は暇だと返事を返していった。


「そっかそっか。それじゃあさ、ちょっと行きたい所があるんだけどさ、良かったら一緒に行かない?」

「坂野の行きたい所? あぁ、うん、もちろんいいよ。いつも俺の行きたい所に付き合ってくれてるんだし、今日は俺が坂野の行きたい所に付き合うよ」

「良かったー、ありがとう健人」


 俺は坂野のお願いに対して二つ返事でオッケーを出していった。いつも坂野には俺のお願いを聞いてもらってるんだから当然だよな。


「それで? 坂野行きたい所ってどこなんだよ?」

「あぁ、うん。えっとね、実はここに行ってみたいんだよね。ほら、ここだよ」

「うん? どれどれ……?」


 そう言うと坂野はスマホを取り出して検索を始めていった。そしてその検索結果の画面を俺の方に見せてきた。


「えぇっと……これはケーキ屋さんか?」

「うん、そうそう。最近オープンしたばっかりのお店らしいんだ。何だか評判すっごく良いらしいよ」

「へぇ、そうなんだ。でも坂野ってそんなにケーキとか甘い物ってそんなに好きだったっけ? 坂野の好きなお菓子ってポテチとかそっち系だろ?」


 坂野は毎日深夜までポテチとコーラを飲みながら夜更かしをするのが大好きな女の子だ。だからそんな坂野が甘いケーキ屋さんに行きたいというのはちょっとだけ珍しい感じがした。


「あー、うん、まぁ確かにね。でも健人って甘い物好きじゃん?」

「え? あぁ、うん。まぁ確かにそうだけど?」

「ふふ、だからだよ。ちょっと前に健人は色々とあって落ち込んでたでしょ? だから今日は甘い物でも食べて元気を出して貰おうと思ってさ、私の方で頑張って美味しそうなケーキ屋さんを探しておいたんだよ」

「さ、坂野……」


 俺は坂野からそんな言葉を聞いて何だか心がとてもポカポカとした気持ちになっていった。


(あぁ、やっぱり坂野ってめっちゃ優しい女の子なんだよな……)


 周りの生徒からは表情が掴めなくてミステリアスな感じに思われている坂野なんだけど、でも実際の坂野は普通にケラケラと良く笑うし、困ってる時にはしょうがないといいつつも助けてくれるし、それに落ち込んでる時には全力で励ましてくれるという、本当に優しくて素敵な女の子なんだ。


 だからこそ俺はそんな坂野の事が……。


「うん? どうしたの健人?」

「えっ? あ、あぁ、いや、なんでもないよ」


 急に俺が黙り込んでしまったせいで坂野はキョトンとした表情で俺の事を見つめてきていた。


「……うん、坂野には色々と心配かけちゃって本当にごめんな。よし、それじゃあ今日の放課後はそのケーキ屋さんに行ってみようぜ!」

「ん、わかった。それじゃあ今日は甘い物を沢山食べて元気になっていってね」

「あぁ、うん。ありがとな坂野」


 という事で今日の放課後は坂野が調べてくれたそのケーキ屋さんに行ってみる事になった。


◇◇◇◇


 そしてそれからしばらく経った放課後。


 最近はちゃんとコートを羽織ってくれるようになった坂野と一緒に目的地であるケーキ屋さんに向かった。


「え、えっと……あ、あの……坂野さん……?」

「んー? どうしたの健人?」


 そして俺達は目当てのケーキ屋さんに到着出来たんだけど、でも今日はイベントデーとの事でだいぶ賑わっており待機列が出来ていた。


 なので俺達は店の前でその待機列に並ぶ事になった。いや、まぁそれは別に良いんだけど……。


「あ、あのさ……何だか周りの待機してる人達さ……めっちゃイチャイチャとしてないか……?」


 そう……何だかわからないんだけど、俺達の周りで待機している人達は皆カップルかのようにイチャイチャとした甘い雰囲気をずっと漂わせていた。


「あぁ、そりゃあね。だって今日はカップルイベントらしいし」

「え? あ、そ、そうなん……って、は、はぁっ!?」


 俺は坂野の発言を聞いて思わず大きくのけ反ってしまった。危うく後ろに並んでいるカップルにぶつかってしまう所だった。

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