第19話:ダウナーちゃんにぎゅってして貰う

「うわ、ビックリするじゃん。どしたの健人?」

「え……えっ!? い、いや、そ、それはその……」


 俺があまりにも大きな声を出したので、坂野はキョトンとした顔をしながら俺の方を見てきていた。


「健人が大きな声を出してきた理由はよくわからないけど……ほら、膝枕してあげるって言ってんだから早くこっち来なよ?」

「え……って、えっ!? え、あ……う……」


―― ぽんぽんっ……


 坂野はそう言って近くの椅子に座りながら自分の膝をぽんぽんと叩いてきた。そうすると必然的に俺の視線は坂野の下半身へと移動していってしまう訳で……。


(や、やっぱり坂野の足って……凄くスラっとしていて綺麗なんだよなぁ)


 今日も坂野は黒いタイツを着用してるから生足は見えないんだけど、でもその黒いタイツのおかげでとてもスベスベとした触り心地のような気がした。


 そしてそんなスベスベとした触感で膝枕をして貰えるのなら、それはとても気持ちよさそうだなぁ……って、バカバカ! 一体何考えてるんだ俺は!!


「ほらほら、早く来なよー」


―― ぽんぽんっ……


 でも坂野はそんな俺の葛藤など微塵も感じ取っていないようで、自分のスラっとした足をぽんぽんと叩きながら楽しそうに俺を手招きしてきていた。


「う、ぐ、ぐぐ……い、いや……! そ、それは……遠慮しておくわ……」

「あれ、そうなの? ふぅん、ま、健人が必要ないっていうなら別にいいんだけど」


 でも俺は何とか歯を食いしばって踏みとどまってみせた。坂野の膝枕を歯を食いしばって断ってみせた。


「ぐ……ぐぬぬ……!」


 いやでも本当は坂野の太ももに思いっきり飛び込んでみたいし、癒してもらいたいという気持ちも滅茶苦茶に強いんだけど……で、でもさ……。


「え、健人何だか物凄く我慢してない? 別に膝枕くらいいつでもしてあげるよ? あ、でももしかしてさ……私みたいな女子の膝枕なんて嫌とか? はは、そう思われてんならしょうがないかー」

「ぐ、ぐぬぬ……って、えっ!? あ、いや、そういうわけじゃなくて! そ、その……坂野に申し訳ないというかその……!」

「ん? 私に申し訳ないって……どういう事??」


 やっぱり坂野は俺が色々と葛藤をしていた事なんて全くわかっていなかったようだ。まぁ坂野はいつも無意識にえっちぃ行動をしてくるからな……。


「い、いやだからその……よくわからん男の頭を膝の上に乗っけるなんてさ……それこそ坂野の方が嫌な気分になるだろ?」

「んー? いや別に私は嫌な気分になんてならないけど?」

「い、いや坂野はそういう女子なのは知ってるんだけどさ……で、でもそういう事はあんまり男に無暗にやらない方が良いと思うぞ? も、もしかしたらその、勘違いしちゃうヤツとか出てくるだろうし……そ、それに変な男だったらそのまま無理矢理坂野の押し倒して乱暴な事をするヤツとかもいるかもしんないだろ? だ、だからその、もうちょい坂野は危機感を持って欲しいというかなんというか……!」


 という事で俺は顔を真っ赤にしながらもそう言って坂野の事を注意していった。だってやっぱり好きな女の子が俺以外にもこんな事をしたりなんてして欲しくないしさ。


「……ふふ。そっかそっか。うん、そうだよね」

「え……な、なんだよ? いきなり笑いだしてさ?」


 すると唐突に坂野はふふっと楽しそうに笑いだしてきた。俺はいきなり笑われた理由がよくわからず、顔を赤くしたままその理由を尋ねていった。


「ううん、なんでもないよ。でも健人はどんな時でもやっぱり健人なんだなーって思っただけだよ」

「……? な、なんだよそりゃ?」


 結局坂野に聞いても笑ってきた理由ははぐらかされてしまった。まぁそこまで気になったわけじゃないから別に良いんだけどさ。


「まぁ別に気にしないで良いよー。あ、そうだ、それじゃあさ……ちょっとだけ後ろを向いてくれない?」

「え? ま、まぁ別に良いけど?」


 すると坂野はそんな事を言ってきた。意図はよくわからないけど、まぁ後ろを振り向くくらい別に良いかと思って俺は椅子から立ち上がって後ろを向いていった。


「これで良いか?」

「うんうん、オッケーだよー。よし、それじゃあ……」

「え……って、えっ!?」


―― ぎゅっ……


 坂野は俺の方に近づいてきたと思ったら……そのまま唐突にぎゅっと俺の事を抱きしめてきた。


「え、ちょ、ちょっと!? さ、坂野さんっ!? な、何してんのっ!?」


 俺はあまりにもビックリしてしまい、また素っ頓狂な声を上げてしまった。


「ほら、触れ合うんだったら私の方からぎゅっとした方が手っ取り早いじゃん? だからこれで幸せホルモンを沢山出していきなよー?」

「え……えっ!? い、いやちょっと待って!」


―― ぎゅぅ……


 そう言って坂野はさらに力を込めて俺の身体をぎゅっと抱きしめていってくれた。しかも思いっきりぎゅっとしていってくれてるおかげで、そ、その……!


(あ、当たってるって……! 坂野の胸が……俺の背中にめっちゃ当たってるって!!)


 俺は心の中でそう叫んでいっていた。坂野の胸はマシュマロのように柔らかい触感だった。でもそんな触感をじっくりと堪能出来る程俺はムッツリ野郎じゃない……。


「だ、だからその……! そ、そう言う事は無暗に男にやっちゃ駄目だって……!!」


 という事で俺は顔を真っ赤にしながらもそんな事を坂野に伝えていった。


「んー? はは、大丈夫だよ。だって私はさ……こんな事は健人にしかやらないよ」

「え……えっ?」

「ふふ、だから安心しなよー?」

「え……あ……」


―― ぎゅっ……


 そう言って坂野はふふっと笑いながら俺の事を優しくぎゅっと抱きしめていってくれていた。


 当然、俺の顔は真っ赤になってるのは言うまでもないんだけど……でも俺は坂野に抱きしめられてるこの時間は確かに幸せな気持ちに包まれていたと思う。


◇◇◇◇


 それから数分後。


「どうだった? 健人は幸せホルモンは沢山出せたかな?」

「えっ? あ、そ、それは……は、はい……沢山出たと思います……あ、あはは……」


 坂野の熱い抱きしめから開放された俺は坂野と向かい合いながらそんな事を喋っていた。でも俺の顔は坂野に開放されてからもずっと真っ赤な状態のままだった。


 だって俺は同級生の女の子にぎゅーっと抱きしめられたのなんて初めての経験なんだよ。しかも同級生のおっぱいがずっと当たってたんだからな……。


(で、でも坂野って……意外とおっぱい大きかったんだなぁ……)


 坂野の見た目はスラっとしたスレンダー体型なので、大きくてムニュっとしたおっぱいの感触が衝撃的すぎて俺はとても幸福な時間を過ごす事が出来た。


 まぁでももちろんこんな事は本人には絶対に言えないよな。ってかそんなのがバレたら坂野に変態のレッテルを貼られてしまうかもしれないよな……。


 うん、だから今日のおっぱいの件については一生の秘密にしておこう。


「うんうん、それなら良かったよ。あ、それじゃあ今日はゆっくりと寝られそうかな?」

「え? あ、あぁ、うん……もうバッチリと寝られそうです、ハイ……」


 坂野にそんな事を尋ねられたので、俺は若干カタコトになりながらも坂野に向けてそう返事を返していった。


 でもそういえば俺はさっきまでのメンタルの落ち込みはもう感じられなくなっていたし、頭の中もかなりスッキリとしていた。まぁ顔は未だに滅茶苦茶に熱いんだけど。


「そっかそっかー。よし、それじゃあ健人も復活した事だし、今日はそろそろ帰ろうよ?」

「え……? あ、あぁ、うん。そうだな。それじゃあその……一緒に帰ろうか?」

「うん、もちろん」


 そう言って俺達はそのまま一緒に学校から帰宅していった。


 という事で昨日に色々とあって酷く落ち込んでいた俺だったんだけど、坂野のおかげで立ち直る事が出来たのであった。

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