第16話:放課後に学校で落ち込んでいると……

 翌日の放課後。


 いつもならこの後に坂野と一緒に勉強会をしているんだけど、今日は俺に用事があるという事でその勉強会は中止にさせて貰った。


 そして今日はもう授業も終わってからだいぶ時間が経っているため、多くの生徒は既に帰宅している。そんな状況の中で未だに教室に残っているのは俺だけだった。


「はぁ……」


 俺はそんなガラガラの教室の中でため息をつきながら机に突っ伏していった。早く帰ろうと思っているんだけど、でも中々身体が思うように動かなった。


「なんかしんどいなぁ……」


 それだけ俺は昨日の悪意の塊のクレーマーに心がグラっときてしまっていたようだ。


 まだ俺はたったの十七年しか生きてきてないけど……でもあんなにも理不尽に怒り狂われたのは初めての出来事だったんだ。


 だから俺はまだ昨日の出来事から立ち直れずにいた。


「はぁ……そろそろ帰らないとなぁ……」


 でも流石にずっと教室にいるわけにもいかない。しんどいけど早く帰らないとな……。


 という事で俺はそんな自分の今の状況を情けなく思いつつ、頭を押さえながら机から立ち上がっていった。しかしその時……。


「どうしたの?」

「……え?」


 しかしその時、俺は突然と教室の扉付近から誰かに声をかけられていった。それは女子の声だった。


 俺はその声を聞こえた方向に顔を向けていくと、そこには坂野が立っていた。坂野は自販機で買えるパックジュースを飲みながら教室の中に入ってきた。


「……あ、あぁ、なんだ、坂野か」

「……なんだって、えらい言いぐさね? まぁいいんだけどさ」

「……はは、悪い悪い」


 俺は坂野に暗い顔なんて見せたくないと思ったので、少しだけおちゃらけた雰囲気でそう言っていった。


「はは……って、あ、あれ? そういや坂野はなんでまだ学校に残ってんだ? 今日は勉強会はしないって言ったじゃん?」


 でもよく考えたら坂野がまだ教室にいるのはおかしいと思って俺はそう尋ねていった。だって今日は事前に勉強会はしないって言っておいたのにさ。


「んー? いやそんなの決まってるじゃん、健人が心配だったからだよ」

「……え?」


 坂野はさも当然といったような感じで俺にそう返事を返してきてくれた。まぁ表情はいつも通り気だるそうな感じだったけど。


「え、えっと……いや、それってどういう事だよ?」

「どういう事って……いや流石に隠し通すのは無理でしょ?」

「え……えっ?」


 坂野はそう言いながら自身の目をツンツンと指差してきた。そしてそのままパックジュースを飲みながら淡々とこう言ってきた。


「健人さ、今日朝からずっと死んだ魚のような目をしてたんだよ? もしかして自分でも気づいてなかったの?」

「え、あ……本当か……?」


 どうやら坂野が指摘するくらいには、俺の顔は今朝からずっとヤバイ事になっていたようだ。


「それに今日は用事があるって言ってたのに、まだ帰ってないじゃん? だからもしかしてさ……何か嫌な事でもあった?」

「え……」


 坂野はそう言いながらいつも通り気だるそうな表情のまま俺の顔を見つめてきていた。


「それは……まぁ、なんというか……」

「うん」


 でも俺はそんな坂野に見つめられながらも何て答えようかを考えていってしまった。


 だって個人的にはあんまり自分のダサい所を好きな女の子に見られたくないって思うのも当たり前の気持ちだよな……。


「それは、その……えぇっと……」

「……」

「えぇっと……って、え……?」


 だから坂野にあんまり言いたくないなーと思いながら言葉を濁していたんだけど……そうしたら急に坂野は黙ったまま俺の方にゆっくりと近づいてきた。


 そして坂野は俺の目の前にまでやってきたと思ったら、手に持っていたパックジュースを近くの机に置いていき、そしてそのままいきなり……。


「とりゃっ!」

「えっ……って、うわっ!?」


―― むにゅっ……!


 そしてそのままいきなり坂野は俺のほっぺを思いっきり掴んでグイっと口角を上げてきた。


「にゃ、にゃにすんだよ!?」

「ぷはは! そんな暗い顔してたら幸せな事がすぐに逃げていっちゃうよー? ほらほら、とりあえず笑っときなってー」


―― むにゅうっ……!


 坂野はさらに俺のほっぺを上に引き上げて無理矢理笑っているような感じにしながらそう言ってきた。


「あはは、それに健人は笑ってる方が似合ってるんだからさ、だから辛くてもとりあえず笑っときなって。それでもやっぱり辛くて笑えないって言うんならさ……ま、そん時は私がずっと傍に居といてあげるから、だから辛い事があるなら私に言いなよー?」


 坂野は俺の頬をむにゅっとやったままそんな事を言ってきてくれた。ちょっとふざけたようなシチュエーションかもしれないけど……でも今の俺にとってはとても嬉しい言葉だった。


(でも……何で坂野はそんな言葉を俺に投げかけてくれるんだろう……?)


「……そ、その……ど、どうして……坂野はそんな事を言ってくれるんだよ?」

「んー? ふふ、まぁそれはあれだよ。健人は前に悲しい顔よりも笑顔で居てくれる方が好きだって言ってたじゃん? だから私も同じでさ、健人の笑ってる顔の方が大好きってだけだよ」

「……え……?」


 坂野はそう言いながらふふっと楽しそうに笑ってきてくれていた。

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