第14話:ダウナーちゃんと相合傘

 とある日の放課後。


 今日は放課後に部活のミーティングがあったので俺はそれに参加した。ミーティングの内容は備品購入を誰が行くかとか、練習試合の日程とかについての話だった。


 そしてそのミーティングがつい先ほど終わったので、俺はそのまますぐに帰宅するべく下駄箱の方へと向かって歩いて行っていた。しかし……。


―― ざーざー……ざーざー……


「しまった……今日って雨降るのかよ……」


 しかし帰ろうとしたタイミングでちょうど大量の雨が降り始めていってしまった。朝のテレビ番組の天気予報では雨なんて降らないって言ってたのになぁ……。


 だから当然なんだけど今日の俺は傘なんて持ってきてなかった。しょうがないので学校の購買にも行ってみたんだけど、そこでも傘は全部売り切れてしまっていた。


「はぁ……それじゃあ今日は雨に打たれながら帰るしかないか……」

「んー? あれ、健人じゃん?」

「……え? って、坂野?」


 俺がため息をついていると唐突に誰かに声をかけられた。なのでそのまま後ろを振り返ってみると、そこには友達の坂野が立っていた。


「あれ、珍しいな? 坂野がこんな時間まで学校に残ってるなんてさ」

「あはは、確かにね。まぁでも今日は思いっきり寒かったからさー、だから部室のストーブを付けてぬくぬくと読書してたんだよね」

「あぁ、なるほど。坂野も今日は部活の日だったのか」

「うん、そうだよー」


 どうやら坂野も俺と一緒で今日は部活のある日だったらしい。坂野は前にも言ったように文学部に所属している。


「それで? 健人は空を見上げて何してたの?」

「ん? あぁ、いや……今雨めっちゃ降ってんじゃん? 俺今日は傘持ってきてないんだよ……」

「んー? って、あぁ、本当だね。めっちゃ雨降ってるじゃん」


 俺がそう言うと坂野も外の方に視線を送っていった。


「でも健人が傘を持ってきてないなんて意外だね? 健人って毎日ちゃんと朝の天気予報とか見てるのにさ」

「いや、今日もしっかりと確認してきたんだけどさ、でも今日は雨は降らないっていう天気予報だったんだよ」

「あー、なるほどね。まぁ“予報”だから毎回当たるとは限らないもんね。あ、そうだ。それじゃあさ……良かったら私の傘を使う?」

「……え? 坂野は傘を持ってきてたのか?」

「うん。まぁ持ってきたというよりも置きっぱなしにしてただけなんだけどさ」

「あぁ、なるほどな」


 どうやら坂野は置き傘をしてくれていたようだ。いやそれは非常に助かるな。


「まぁでも一本しか置き傘をしてないからさ……駅まではその一本の傘で一緒に帰る事になるけど、それでも良い?」

「あぁ、もちろ……って、え!? 一本の傘? そ、それってつまり……」


 そ、それってつまり……相合傘ってこと!?


「え……い、いやそんなのもちろん良いに決まってるけど……で、でも坂野こそそれでいいのかよ?」

「ん? 別に良いでしょ? 逆に何か問題あるの?」

「い、いや、何も問題なんてないんだけど……そ、それじゃあその……一緒に使わせて貰っても良いか?」

「うん、良いよ。それじゃ一緒に帰ろっか」

「あ、あぁ……ありがと……」


 という事で急遽、俺は坂野と相合傘で帰る事になったのであった。いやめっちゃ緊張するんだけど!


◇◇◇◇


 それから数分後。


 俺達は傘を差しながら駅前まで一緒に歩いて向かっている所だった。


 ちなみに坂野の傘は差しているんだけど、でも坂野を雨で濡らすわけにはいかないので、俺は極力坂野に近づきながら傘を差していった。


「あ、そうだ。そういえばさ……」

「うん、どうしたよ?」


 ふと帰り道を歩いている途中で坂野は何かを思い出したように俺に話しかけてきた。


「同じクラスの美也ちゃんがさ、隣のクラスの宮下君と付き合い始めたらしいよ」

「ふぅん、そうなん……えぇっ!? ま、マジで!?」

「うん、まじまじ」


 倉瀬美也は俺達と同じクラスメイトの女子生徒で、坂野とはかなり仲の良い女の子のはずだ。ちなみに隣のクラスの宮下は俺の友達でもある。


 いやまさか俺達の友達が恋人同士になってるなんてなぁ……。


「……って、そんな大事な話を俺にしちゃっても良いのかよ?」

「うん、美也ちゃんが普通に周りに言ってたから全然大丈夫でしょ。ってか健人はその事を知らなかったんだ? 宮下君と友達なんでしょ?」

「あ、あぁ、そうなんだけど……でも最近はお互いに忙しくて全然会えてなかったからさ……だからマジで知らなかったわ……」


 でも宮下以外にも周りの生徒でお付き合いを始めてる人はチラホラといるんだよなぁ。いや本当に羨ましい限りだよ……。


「……あれ? でも二人はどうやってお付き合いを始めたんだろ?」

「あぁ、何でもバレンタインの時に美也ちゃんがチョコを送って告白したらしいよ」

「へぇ、そうなんだ。はは、それはめっちゃ羨ましい最高のシチュエーションだなー」

「ふぅん、そうなんだ? やっぱり男の子からしたら女の子にチョコを貰いながら告白をされるのが良いの?」

「え? い、いや、まぁその……まぁそういうシチュエーションも羨ましいなって思っただけだよ。でも坂野だって何か理想のシチュエーションとかあったりしないのか?」

「え? 私? うーん、そうだね……」


 俺が何となく聞いてみると、坂野は腕を組みながら思いっきり考え事をし始めていった。


(……あれ? でもこの質問って結構良いかもしれないな)


 個人的には坂野に告白をしたいと考えている身なので、何かしら坂野のキュンキュンとさせるシチュエーションを教えて貰えたらそれを実行出来るかもしれないしな。


「……うーん、ごめん、やっぱり全然何も思いつかないかなー」

「あ、そうなのか?」

「うん。そもそも私は今までに一度もお付き合いとかした事がないからさ、あんまりそういう事を考えた事もないんだよね」

「……えっ!? あ、あぁ……そ、そうなんだ」


 坂野の口から理想のシチュエーションは無いと言われてしまったんだけど、でもそんな事よりも俺にとってはもっともっと重要な事を坂野から教えて貰う事が出来た。


(そ、そうなんだ……坂野は今までに誰ともお付き合いをした事がないんだな……)


 やっぱり好きな女の子の今までのお付き合い遍歴とかは気になってたので、坂野は今まで誰とも付き合った事がないという話を聞けて俺はホッと安堵していった。


 という事でその後も俺達は他愛無い雑談を続けながら駅前へと向かって行った。

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