第12話:ダウナーちゃんと帰り道

 それから数分が経過した頃。美玖ちゃんの涙が止まった所を見計らって俺はもう一度話しかけていった。


「あ、そうだ。そういえば美玖ちゃんのご両親とかは一緒じゃないの?」

「え……? あ、う、うん……お母さんと一緒に来てたんだけど……でも急にお母さんが居なくなっちゃったの……」

「そっかそっか……うん、それは辛いよね。よし、それじゃあ俺達が美玖ちゃんのお母さんが居そうな場所に案内してあげるよ。……なぁ、迷子センターってどこにあったっけ?」

「あぁ、えぇっと……確かこの通りを真っすぐ歩いて行けばすぐにあった気がするよ」


 俺は坂野にそう尋ねてみると、すぐに迷子センターのある場所を教えてくれた。


「そかそか。よし、それじゃあ早速そこまで行ってみようか。ほら、それじゃあ美玖ちゃんも一緒に行ってみよう!」

「え……?」


 俺はそう言いながら片手を美玖ちゃんの方に差し出していった。すると美玖ちゃんはおずおずとした態度を取りながらも……。


「う、うん、わかった」


―― ぎゅっ……


 そう言って美玖ちゃんは俺の手をぎゅっと握りしめていてくれた。


「うん、それじゃあ早速行ってみよう。あ、そこまでの道案内頼めるか、坂野?」

「うん、わかった。それじゃあこっちよ」


 という事で俺は美玖ちゃんの手を優しく握っていきながら、坂野の道案内で迷子センターに向かって行った。


 迷子センターに到着すると俺達の予想通り美玖ちゃんのお母さんがそこで既に待っていてくれていた。


「……美玖!」

「あ、お母さん!」


 美玖ちゃんのお母さんは美玖ちゃんを見つけた事で本当に良かったという表情を浮かべ始めていった。もちろん俺と坂野もそんな二人の光景を見て本当に良かったとホっと安堵していった。


◇◇◇◇


 そしてそれからの帰り道。


 俺達は美玖ちゃんのお母さんからの謝辞を受け取った後は、そのまま美玖ちゃんに軽く挨拶をしてから別れていった。


「はは、それにしても良かったな。すぐにお母さんが見つかってさ」

「うん、そうだね。お母さんが居なくなると子供は不安になるものだし……うん、本当にすぐに見つかって良かったね」

「……ん?」


 俺は帰りの道中でさっきの出来事の話をしていくと、坂野は何だか含みのある返事を返してきた。


(うーん、もしかして坂野も子供の頃にお母さんとはぐれちゃった経験でもあるのかな?)


 でもその表情からしてあんまり深く聞いたらいけないような気がしたので、俺はそれについて尋ねる事はしなかった。


 という事で俺はそのままさっきの美玖ちゃんの話に戻っていった。


「あ、そういえばさっきは迷子センターまでの道案内ありがとな。本当に助かったよ」

「いや、私はそれしかしてないけどね。というか健人の方こそ、すぐに美玖ちゃんの元に駆け寄ってあげるなんてカッコ良かったよ。ふふ、それにしても健人はいつも優しいよねー」

「え? い、いやまぁ、優しいとかカッコ良いとかは自分じゃよくわかんないけど……でも、誰かが泣いてる所とか悲しそうにしてる所は見たくないじゃん? やっぱりどんな人であっても泣いてる所なんかよりも笑ってくれる方が嬉しいだろ?」


 坂野が俺の事をそう評価をしてくれたのは嬉しいけど、でもやっぱり何だか気恥ずかしさを覚えてしまったので、俺は照れ笑いをしながらそんな事を言っていった。


「……ふふ、そっか」

「……あ、あんまり笑われると恥ずかしいんだけど……」


 坂野はそんな俺の様子を見ながらそう一言だけ呟きながらふふっと笑っていった。やっぱり何だかちょっと恥ずかしいなぁ……。


「……うん、やっぱり……昔から変わってないな……」


 そんな事を心の中で思っていたら、坂野は何か小さく呟いていってた。


「……ん? なんか言ったか?」


 でも坂野の声はかなり小さかったので俺の耳には聞こえなかった。だから俺は何て言ったのかを聞き返していった。


「んー? ふふ、何でもないよ。でも何だか健人はさ、正義のヒーローみたいな感じがしてカッコ良いなーって思っただけだよ」

「え、正義のヒーロー?」


 坂野は唐突にそんな言葉を口ずさんできた。あまりにも意外な単語だったので、俺は少しだけ笑ってしまった。


「あはは、何だよそれ。あ、でもそういえば昔はそういう特撮系のヒーロー番組を毎週楽しみに見てたっけな。もしかして坂野もそういう特撮系の番組は見てたのか?」

「んー、まぁ小学生の頃に少しだけ見てたかな。友達に面白いから見た方が良いって熱弁されたから見てた感じだよ」

「へぇ、そうなんだ? はは、俺も小学生の頃はめっちゃハマってたからさ、その坂野の友達とは良い友達になれそうだな」

「ふふ、そうかもね」


 俺も小学生の頃は特撮ヒーロー系の番組はめっちゃ大好きで毎週かかさず見てたな。という感じでそんな懐かしい事を思い出しながらも俺達は一緒に帰り道を歩いて行っていた。


「……あ、そうだ、忘れてた。はい、これ」

「……うん?」


 そんな帰り道の途中で、坂野は思い出したようにしながら手に持っているクレープを俺に差し出してきた。半分は坂野が既に食べているので、ちょうど半分だけ残っているクレープだった。


「え、えっと……いや何これ?」

「何これって、いや限定クレープだよ。今日はこれを食べに来たのに健人は美玖ちゃんに全部あげちゃったでしょ? だからほら、半分残しておいてあげたから私のクレープをあげるよ」

「あぁ、なるほどー、だからさっきから坂野はクレープをずっと半分残してたのか……って、いやいや! それ坂野の食べかけじゃん!!」

「……? 私の食べかけは嫌なの? 丸ごと一個が欲しかったって事?」

「い、いや、だから! 坂野の食べかけが嫌なわけじゃなくて、そ、その……いや……くれるって言うなら貰うっす……」


 好きな女の子の食べかけのクレープなんて俺からしたら最高に嬉しいに決まってるじゃん!


(でも坂野には恥じらう気持ちが一切無いのがなんというかその……やっぱり悲しいなぁ……)


 やっぱり坂野には異性として見られてなくて、仲の良い兄妹みたいな感じに思われてるんだろうな……。


「そっかそっか。うん、それじゃあ、はいどうぞー」

「え……えっ? あ、あぁ、うん……ありがと……」


 俺はそんな事を思いながらちょっとだけアンニュイな気持ちになっていると、坂野はいつも通りの雰囲気でその食べかけのクレープを俺に渡してきた。


 なので俺は顔を真っ赤にしながらもその食べかけのクレープを受け取っていった。


「そ、それじゃあ……いただきます……!」

「うん、どうぞどうぞー」


 という事で俺は坂野から受け取った限定クレープをゆっくりと食べ進めていった。


「どうどう? 新作のクレープは美味しい?」

「……もぐもぐ……あ、あぁ、その……めっちゃ甘くて美味しいよ……」

「ふふ、そっかそっか。うん、それなら良かったよ。いやーそれにしても今日はクレープ食べに来て本当に良かったねー」

「あ、あぁ……うん、本当に良かったよ……」


(い、いやこの状態じゃあクレープの味なんてわからないって……!)


 俺は内心そう思いながらも、坂野に貰ったクレープを食べながらそんな感想を述べていった。まぁもちろん俺の顔がトマトのように真っ赤になってしまっていたのは言うまでもない。

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