第10話:ダウナーちゃんとクレープ屋さん

 それから数日後の放課後。


「なぁ、坂野。今日は甘い物でも食べにいかね?」

「え? 甘い物?」


 俺は教室内に居た坂野にそう聞いていった。


 ここ最近は放課後に坂野と一緒に勉強会をずっとしていたんだけど、でも流石に毎日勉強ばかりで疲れてしまったので、今日は気分転換にそんな提案をしてみた。


 まぁあとは俺が甘い物が好きだからそんな提案をしたっていうのも若干あるんだけどさ。


「別に良いけど。でも甘い物って具体的に何食べに行くの?」

「あぁ、隣駅のショッピングモールにクレープ屋さんが入ってるじゃん? 実はあそこの新商品が今日から始まるらしいんだ。だから良かったらそれを食べに行ってみないか?」


 という事で俺は普段からよく坂野と一緒に行っているクレープ屋さんに行ってみないかと尋ねていってみた。


「へぇ、新作のクレープが発売されたんだね。……って、いやでもそんな情報をちゃんと調べてるとかさ、健人って本当に甘い物が大好きだよねー」

「あはは、そりゃあ甘い物が世界一旨いって思ってんだからしょうがないじゃん。それで俺はその新作クレープをめっちゃ食べてみたいなって思ってるんだけどさ、良かったら一緒に行かないか?」

「うん、全然良いよ。私も甘い物は好きだしねー」


 俺が坂野にそう聞いていくと、坂野はいつも通りの表情をしながら良いよと言ってきてくれた。


「あぁ、ありがとな。でも坂野はいつも俺の行きたい所に付いてきてくれてるけどさ、たまには坂野も行きたい所とか提案してくれていいんだからな? 俺も坂野の行きたい所とかあったらいつでも付き合うからさ」

「んーまぁ別に私は何処かに行きたい所とか、何かやりたい事とかそういう願望は一切ないからなー。健人が何か提案しない限りは私はひたすらに家に引きこもってるからさ、はは」

「はは、何だそりゃ。いやまぁでもそれも坂野らしいっちゃらしいか」


 坂野は一年の頃からかなり面倒くさがりなタイプだというのは俺もちゃんと理解している。でもそんな性格なのに俺が行きたい所とかを提案すると、いつも良いよと言って付いてきてくれるんだ。俺はそんな所に坂野の優しさをいつも感じていた。


 だから坂野が自分から何か行きたい所とかやりたい事とかを提案してきてくれた時には俺も無条件で同意しようと前々から思っていた。まぁでも今の所は坂野から何かしら提案をしてくる様子は一切ないんだけどさ。


「よし! それじゃあ早速クレープ屋さんに行こうぜ!」

「うん、わかった」


 という事で俺達はその目当ての新作クレープを食べるために隣駅のショッピングモールへと向かう事にした。


◇◇◇◇


 それから数十分程が経過した頃。


「お待たせしました、期間限定の生チョコイチゴスペシャルです!」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございますー」


 という事で隣駅のショッピングモールにやってきた俺達はクレープ屋さんに直行して目当ての期間限定クレープをちょうど購入した所だった。


「うわぁ、これマジでめっちゃ美味しそうだな!」

「うん、そうだね。大きなイチゴも沢山入っていてチョコもたっぷりだし、何だか特別仕様って感じがするね」

「あぁ、本当にそうだよな! いやー早く食べたいな!」

「ふふ、流石に興奮しすぎでしょ、健人」


 坂野は俺の姿を見て笑いながらそんな事を言ってきた。どうやら傍から見てとてもわかりやすいくらいに俺は喜んでいたようだ。


「え? そ、そんなにわかりやすい態度だったか? いやそれはちょっと恥ずかしいな……」

「はは、まぁでもわかりにくいよりかはわかりやすい方が良いんじゃない? 愛嬌があっていいでしょー」

「えー……でも俺的には愛嬌のある男よりも、渋くてカッコ良い感じの男に憧れてるんだけどなー」

「ふふ、そんな甘そうなクレープを片手に持って何言ってんのよ」

「はは、確かに言われてみればそうだな。よし、それじゃあせっかくの出来立てクレープだし早く食べようぜ? 確か中央広場の方にベンチがあったはずだからそっちに移動しようぜ」

「うん、そうだね。それじゃあ……って、あれ?」


 という事で早速ベンチに向かおうとしたその時、ふいに坂野はキョトンとした表情を浮かべながら声を出してきた。


「うん? どうかしたか?」

「ほら、あそこ見てよ……」

「うーん? って、あ……」


 坂野は遠くの方に指を指してきたので、俺はその指の先に視線を送っていくと……そこには小さな女の子が一人でポツンと立って泣いていた。

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