第5話:ダウナーちゃんと試験勉強

 その日の放課後。


 今日は坂野と一緒に試験勉強をするために学校の図書室にやってきていた。


「さぁ、テスト勉強頑張っていくぞー」

「えぇ……いや流石に頑張る気が起きないって……」


 俺達の通っている学校ではもうすぐ定期試験が始まるので、その試験勉強をするために俺達は図書室にやってきたんだ。


「いや無理矢理にでもやる気を起こしてくれよ。もしも赤点とか取ったら土日休みに補講が入るんだぞ? そんなの絶対に嫌だろ?」

「そりゃあ休みに補講が入るなんて絶対に嫌だけどさ……でも勉強を率先して頑張ろうとは絶対に思えないよ……はぁ」

「あ、お、おい……」


 そう言いながら坂野は図書室の机にぐでーっと突っ伏しながら坂野は頑なに勉強をしたくないと抵抗してきた。


 まぁでもぐでーっとしてる坂野も何だか可愛らしくて良いな……って、いや違う違う! そんな事を考えてる場合じゃないって!


「お、おいおい……そんなやる気がないようだと俺は勉強を教えないぞ? それだと坂野だって困るだろ?」

「う……それは、まぁ……うん、そうなんだけど……」


 俺がビシっとした態度でそう言っていくと途端に坂野は暗い表情をしだしていった。実は坂野は勉強があまり得意な方ではないんだ。


 だから俺はテスト期間が近くなるとこうやっていつも坂野を誘って一緒に勉強会を開いているのであった。ちなみに俺の学力は上の下といった所だ。


「だろ? だからテストが終わるまでは頑張って一緒に勉強を頑張っていこうぜ?」

「うん、わかったよ。でもさ、頑張るからには何かご褒美とかが欲しいよー」

「え? ご褒美って……例えば何だよ?」

「んー? まぁそれはやっぱり高級焼肉とか?」

「いやそれは豪華過ぎるだろ! もっと安いご褒美にしてくれよ!」

「はは、冗談だよ冗談。うん、それじゃあ自販機に売ってる紙パックのココアでいいよ。それさえあればやる気が物凄く出るからお願いー」


 坂野は机に突っ伏しながらケラケラと笑いながらそんなお願いをしてきた。


「はぁ、全く、もう……あぁ、わかったよ。まぁ坂野はいつも休み時間にお菓子とかくれたりするし、今日はそのお礼も兼ねて帰りにココアを奢ってやるよ。だから今はとりあえず勉強会を頑張っていこうぜ?」

「おっ、やったね。うんうん、それじゃあ頑張って勉強していこっかー」

「はは、相変わらず坂野は現金なヤツだよなー。あぁ、それじゃあ頑張っていこうぜ」


 という事で俺は今日の勉強会終わりにココアを奢るという約束を交わした。そしてそれからすぐに今日の勉強会がようやく始まっていった。


 ◇◇◇◇


 それから一時間くらいが経過した頃。


 さっきまでお互いに黙々と勉強をし合っていたんだけど、でも流石にちょっと疲れてきたので、今はお互いに軽く雑談をしながら勉強をしていっていた。


「あ、そうだ。そういえばさ……」

「? どうしたの、健人?」

「ちょっと坂野に聞きたい事があったんだけどさ、坂野って結構笑う方だよな?」


 そしてそんな雑談の最中に、俺は今日の昼休みに友人と話したあの件を思い出したので、それについて坂野に尋ねてみる事にした。


「んー? まぁそうだね。お笑いのテレビ番組とかめっちゃ好きだし、結構笑いの沸点は低い方だと思うよ。でもなんでいきなりそんな事を聞いてきたの?」


 俺が唐突にそんな事を聞いたせいで、坂野はキョトンとした顔で首を傾げてきた。


「あぁ、やっぱりそうだよな? いや実は俺の友達がさ、坂野はいつも無表情でミステリアスな感じの女の子だとか言っててさ。その言葉が俺にはちょっと意外すぎたから本人にも直接聞いてみたんだよ」

「ふぅん、そうなんだ……って、え? 私ってそんなにミステリアスかな?」


 坂野はまさか自分が周りからミステリアスな女の子だという評価を貰っているとは思ってなかったようで少しだけ意外そうな表情をしていった。


「うーん、いやミステリアスっていうか、休み時間にいつも机に突っ伏して寝てるからそう思われてるだけじゃないのかな? あとは起きてたとしてもいつも寝不足で気だるそうな感じにしてるよな? それも相まってミステリアスっぽい雰囲気に見られてんじゃね?」

「あー、まぁそれは確かにね。というか今も余裕で滅茶苦茶に眠いしね。ふぁああ……ふぅ……」


 そう言うと坂野はいつも通りの気だるそうな感じで大きな欠伸をしだしていった。


「いやそんなに日中に眠くなるんならさ、夜更かしなんてしないでもっと早い時間に寝るように心掛ければいいんじゃないか?」

「えー……いやそれはちょっと無理かなぁ。だって深夜にポテチとコーラを嗜みながらダラダラとテレビとか本を読むのが最高なんだよ? そんな素晴らしくて最高の生き方を捨てるなんて私にはちょっと無理だねぇー」

「いや流石にそれは自堕落過ぎる生活を送りすぎだろ……」


 毎日夜遅くまでそんな事をしてるヤツが周りの生徒達からは深窓の令嬢だと噂されてるなんて……いやはや噂というのは何とも怖いものだな。


「ま、まぁ別に良いけど……でも深夜にそんな甘い飲み物と油っぽいお菓子を食べてたら太っちまうと思うぜ? はは、だからちゃんと食生活には気を付けろよー?」


 という事でいつも坂野に笑いながらからかわれているんだけど、でもたまには俺の方から坂野の事をからかってみる事にした。


 だけど俺が笑みを浮かべながらそんな感じにからかっていくと、坂野は変わらず気だるそうな雰囲気のまま……。


「えー? いや私そんなに太らない体質だから大丈夫だと思うよ? それにほら、私って全然太ってないでしょ?」


―― ペラッ……


「え……って、え!? あ、ちょ、ちょっとっ!?」


 坂野はそう言いながら唐突に自分のシャツを持ち上げて俺にお腹周りを見せつけてきた。そのおかげで坂野の可愛らしいおへそ周りの素肌が俺の目からしっかりと見て取れた。


(って、えっ!? め、めっちゃ細っ!?)


 そして本人の言った通り坂野のお腹周りはとてもほっそりとしていた。しかもお腹周りもかなりの美白だったので、もう何というかモデルさんなのかと思うくらいに凄かった。


 まぁでも……俺は坂野のお腹周りをじっくりと眺められる程図太いメンタルを持ち合わせてはいなかったので、俺は慌てながら坂野にこう言っていった。


「わ、わかった! わかったって! 坂野は全然太ってない! 全然太ってないから……だからさっさとお腹を隠してくれ!」

「だよね? 私って全然太ってないでしょ? ふふん、だからこれからも深夜にコーラとポテチを決めちゃっても大丈夫だよね?」

「あ、あぁ、もちろん良いよ。こ、これからもその……沢山食べてくれて大丈夫だよ……」

「あはは、それなら良かったー、って、あれ? どしたの健人? そんなに顔を真っ赤にさせちゃってさ?」

「え……えっ!? あ、い、いや何でもないって! だからあんまり顔を近づけないでくれ!」

「んー?」


 俺は顔を真っ赤にしながら俯いていると、坂野はキョトンとした表情で俺の顔を覗き込んできた。


 なので俺はより一層に顔を真っ赤にしながらも、坂野には何でもないと言って慌てながら誤魔化していった。


(う、うぅ……でも何で俺だけしか恥ずかしがってないんだよ……)


 俺がこんなにも顔を真っ赤にしながら狼狽えているというのに、坂野は顔色一つも変えずに俺の事をジっと見つめてきていた。その様子から坂野は俺の事を男だなんて微塵にも思ってくれてないようだ……。


 果たしてそんな坂野に俺が一人の男であると認識して貰える日が来るのか若干不安に思いつつも……それでも俺は気を取り直して坂野との勉強会を全力で進めていった。

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