第4話:友人と昼飯を食べていく

 その日のお昼休み。


 今日は友人の神原翔太と一緒に食堂で昼飯を食べていた。翔太は俺と同じくサッカー部に所属しているので、割と一緒に行動する事が多い友人の一人だった。


「あ、そういやさぁ……」

「うん? どうしたよ?」


 昼飯を食っている途中で翔太は唐突に何か尋ねようとしてきた。なので俺は何だろうと思いながらも聞き返していった。


「そういやさ、健人って坂野さんとめっちゃ仲良いよな?」

「ん? あぁ、まぁそうだな。坂野との仲は良い方だと思うけど……って、いや何でそんな事を急に聞いてくるんだよ?」


 翔太に尋ねられた内容はまさかの坂野の事だった。まぁ坂野と仲が良いのは事実だけど……でも何で急にそんな事を尋ねて来たんだろう?


「いや、今日も朝に二人で一緒に登校してる所を見かけたからさ。何か二人っていつも仲良いなーって思っただけだよ」

「ん? あー、なるほど。そういう事か」


 どうやら朝に坂野と一緒に登校していた所を翔太にも目撃されてしまったようだ。


 まぁでも普段から坂野とは一緒に飯を食ったり下校したりもしてるから別に今更そんな所を見られても気にはしな……って、いや待てよ!?


(あ、も、もしかして俺が顔を真っ赤にしてた所も見られてたのかよ!?)


 今日の朝は色々とあって俺は顔を真っ赤にしてしまったという珍事があったわけだけど……もしかして翔太にはその様子も見られてたのか!? も、もしそうなら滅茶苦茶に恥ずかしいんだけど……。


「あ、あのさ……えっと、翔太が朝に俺達を見かけた時にさ……何か変な感じとかしたか……?」

「変な感じ? いや、いつも通り仲良さそうだなーって思っただけだけど?」

「あ、そ、そっか。まぁそれなら良かったけど」


 どうやら翔太は俺が顔を真っ赤にしていた瞬間を目撃してはいなかったようだ。とりあえずその場面だけは見られてないようなので俺はホっと安堵していった。


「あ、でもさ、そういえば坂野さんってあんまり話してる所とかは見かけないよな。なんか休み時間とかいつも物静かにしてる気がするよな」

「あー、うん、まぁそれは確かにな……」


 俺は翔太の言葉を聞いてとりあえず頷いていった。まぁでも……。


(まぁ坂野は物静かっていうか、いつも眠たそうにしてるだけなんだけどさ……)


 坂野は毎日夜遅くまで夜更かしをしてるせいで学校ではいつも眠たそうにしてるだけなんだよな。だから実際に机に突っ伏して寝ている事の方が多いしさ。まぁそんな事実は誰も知らないんだけど。


「……あ、そうだ。そういえば前々から気になってたんだけどさ、健人って坂野さんと普段どんな会話をしてるんだよ?」

「え? どんな話って……めっちゃ普通の話しかしてないぞ? 昨日の晩飯は何を食ったかとか、面白いテレビ番組とか小説とかをオススメし合ったりとか、テスト勉強めんどいよなーっていう愚痴を溢し合ったりとか……まぁ普段俺が翔太と話してるような会話しかしてないぞ?」


 急に翔太からそんな事を尋ねられたので、俺はそこまで特別な会話なんてしていないと返していった。


「へぇ、そうなんだ? 意外と坂野さんも普通の話をするんだなー」

「普通な話って……いや、坂野だって普通の女子だぞ? そんなに特別な女の子なんかじゃないからな?」


 どうやら翔太は坂野が普通の雑談をするなんて思ってもいなかったようでビックリとした表情をしてきていた。


(まぁ、でもそうだよな……坂野って色々なヤツから勘違いされてるもんなぁ……)


 周りの生徒達は坂野の事を“深窓の令嬢”だと勘違いしてるんだけどさ、でも坂野は全然そんな御令嬢っぽい感じの女の子じゃないからな。


 普通の人と変わらない生活をしているのに、その儚げな見た目とあまり喋らない様子から深窓の令嬢だと勘違いされてるだけなんだ。


 というかその儚げな様子だって、別に体調が悪いとかそういう訳じゃなくて、ただ単純に毎日夜遅くまでポテチを食いながらテレビを見たり本を読み漁ったりするような自堕落な生活を送ってるからってだけだしさ……。


「えー? いや、そりゃあ仲の良い健人からしたら普通の女子だって思うかもだけどさ、でも坂野さんって結構無口だし、それに普段から無表情な事も多いじゃん? だからそんな普通の話をしてるのはちょっと意外だなって思うのも当然だろ?」

「……え? 普段から無表情?」


 すると急に翔太はそんな事を俺に言ってきたんだ。でも俺はその言葉を聞いた瞬間にキョトンとした表情を浮かべてしまった。


 いや、まぁ普段から坂野が無口だって言うのなら全然理解出来るよ。だって坂野は毎日夜更かししているから学校では眠たそうにしてる事が多いし、実際に机に突っ伏して寝ちゃってる事も多いからな。だけど……。


「……いや、坂野ってそんな無表情じゃないぞ? 割とコロコロと表情を変えてる方だとは思うけどな」


 だけど坂野が無表情というのは少し違うと思ったので俺は翔太に向けてそう言った。


 まぁ確かに儚げな雰囲気は醸し出してるけど、でも話してみると意外とノリの良い事をしてくる事もあるし、感情だってちゃんと表に出している気がするんだよな。


「え、そうなのか? でも俺は坂野さんが笑ってる所とか見た事ないぞ?」

「え……って、えっ? いや坂野って普通に笑ってる所はかなり多いぞ?」


 翔太がビックリとしながらそんな事を言ってきたので、俺もビックリとしながらそう返事を返していった。


 というか俺的にはケラケラと笑ってる坂野の事を一番多く見てる気がするぞ? 今日のマフラーをくんくんと嗅がれた時とかみたいにさ……。


「へぇ、そうなんだ? いやそれも俺にとってはめっちゃ意外な話だな。何だか俺の坂野さんのイメージとは全然違うんだよなー」

「ふぅん? ちなみに翔太の坂野に対するイメージってどんな感じなんだ?」

「えっと、まぁやっぱり……ミステリアスで神秘的なお嬢様っていう感じかな? あとはめっちゃ可愛い!」

「あ、あぁ……まぁ、その……可愛いってのは同意するけどさ……」

「あ、やっぱり健人も坂野さんの事は可愛いって思ってんだな? はは、それじゃあ早く行動に移した方がいいぞ? 坂野さんって男子人気が物凄いんだからさ?」

「う……そ、それは……うん、頑張るつもりではいるよ……」

「あはは、そっかそっか! あぁ、頑張っていけよ!」


 翔太はあははと笑いながらも俺に檄を飛ばしてきてくれていった。うん、でも翔太の言う通りだよな。これからは俺の方からしっかりと行動に移していかなきゃだな!

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