第3話:ダウナーちゃんとマフラー

 それから数日後の朝。


「うぅ、さっむ……」


 俺は寒風に身体を震わせながら学校へ登校している所だった。


 ここ最近はずっと暖かい気候だったんだけど、でも昨日の夜に今年初めての雪が降ったせいで今日は滅茶苦茶に寒い一日となっていた。


 という事で今日の俺は学校指定の大きなコートを羽織り、さらにちょっと高めの温かいマフラーと手袋も装着した完全防寒スタイルで登校していた。まぁこれだけ防寒性能を高めても普通に寒いんだけど……。


「……あれ?」


 そんな感じの防寒スタイルで学校へと向かっていていると、前の方でのんびりと歩いている坂野の姿を発見した。なので俺は坂野に挨拶をするべく早歩きをして近づいて行った。


「おはよう坂……って、えっ?」

「んー? あぁ、おはよ、健人」


 という事で俺は坂野に近づいて挨拶をしていったんだけど……でも振り向いてきた坂野の姿を見て俺は驚愕としてしまった。


「え、えっと、その坂野の恰好ってさ……寒くないの?」

「んー?」


 俺は挨拶を返してきてくれた坂野の姿を見て、何だかとても心配になってきたのでそんな事を尋ねていった。


 だって俺はコートとマフラーに手袋まで装着しているのに対して、坂上はコートもマフラーも手袋も何も装着してなかった。まぁ防寒という意味では足にタイツを履いているくらいだった。


「んー……まぁちょっと寒いけどさ、でもコートとかって重くて嫌じゃない?」

「えっ? い、いやまぁ防寒着な訳だから多少は重いかもしれないけど……でも寒い方が嫌じゃね?」

「んー、まぁ確かに寒いっちゃあ寒いけどさ、でも我慢できるくらいの寒さだし大丈夫だよ。あ、それにほらほら。ちょっとこれを見てよ」

「え……って、えっ!? い、いやちょっ!?」


 坂野はそう言いながら唐突に自身の太ももに手を伸ばして自分が履いている黒いタイツをびょんびょんと伸ばし始めていった。


「ほらほら、ちょっとこれ見てよー。これ普段私が履いてるタイツよりも少し厚い生地なんだよ? ふふん、だからこれで寒さ対策はいつもよりもバッチりなんだよー」


 坂野はいつも通りの気だるそうな表情を浮かべつつもちょっとだけドヤ顔を決めてきていた。


 いやまぁ坂野はドヤってるつもりなんだろうけど、でも普通に可愛い仕草に見えて困……って、いや違う違う! そうじゃない!


「い、いや、その……って、ちょ、ちょっと待ってくれよ! と、年頃の女の子がそんな自分の履いてるタイツをびょんびょんって引っ張って遊んでちゃ駄目だろ! し、しかも太ももをそんな風に大胆に見せつけちゃうなんて駄目だって……!」

「え、何で?」

「え……って、えっ!? い、いや何でってそんなの……!」


 そんなのエロいからに決まってんだろっ!!


(だ、だから黒くてツヤツヤのタイツをびょんびょんと引っ張りながら遊ぶの止めてくれよ……!)


 そ、それにそんな事をしちゃってると俺の視線も自動的に坂野の太ももにの方に移動しちゃうからその……目のやり場にすっごく困るんだって!!


(く……くそう……やっぱり坂野は俺の事を異性だなんて全然思ってくれてないんだろうなぁ……)


 もしも坂野が俺の事をちゃんと異性だって認識してくれてたら、こんなにも大胆に太ももに視線を送らせてしまうような行為はしないだろうし、それにタイツで遊ぶなんて破廉恥な事だってしないだろうしなぁ……。


「……くちゅん」

「……え?」


 俺がそんな事を思いながらちょっとだけ気を落としていると、急に坂野は可愛らしいクシャミをしてきた。


「お、おいっ! やっぱり寒いんじゃん!」

「ずずっ……まぁそりゃあね」


 俺はジト目になりながら坂野にそうツッコミを入れていくと、坂野は特に気にせず鼻をすすりながらそう一言だけ呟いていった。


 まぁやっぱり坂野は寒いのをやせ我慢しているだけのようだった。それならちゃんと学校指定のコートとかセーターくらい着てくれば良かったのに……。


「……はぁ、全くしょうがないな。ほら、それじゃあこれ使ってくれよ」

「……え? あっ……」


 流石にそんな寒そうにしてる坂野の事をほっとくわけにもいかないので、俺は自分の首に着けてたマフラーを外していき、そのまま坂野の首元に付けてあげていった。


「……え、いいの? 健人のマフラーを私に渡しちゃってさ?」

「そんなのいいに決まってんだろ。このまま坂野が風邪とか引いちゃう方がずっと嫌だからな」

「そっか……うん、ありがと、健人」

「あぁ、全然気にしないでいいさ。ま、でも明日からはもう少し防寒性能を高めてこいよ?」

「うん、そうだね。流石に風邪なんて引きたくないからそうする事にするよ」


 という事で俺は坂野にそんな注意をしていくと、坂野もわかったとちゃんと言ってきてくれた。


 坂野は普段からかなり気だるそうな感じにしてはいるんだけど、でも俺が注意とかをする時はちゃんと真面目に聞いてくれるので非常に助かるよな。


「よし、それじゃあ外も寒いしさっさと学校に向かおうぜ?」

「うん、そうだね。早く暖房の効いた教室に入りたいよね」

「はは、そうだな」


 という事で俺達はそのまま一緒に他愛無い話をしながら学校へと向かって歩いて行った。しかしそれから程なくして坂野はいきなり……。


「……くんくん……」

「え……えっ!? あ、ちょっ!?」


 その時、坂野はいきなり俺のマフラーの匂いをくんくんと嗅ぎ始めていった。俺はその行動に滅茶苦茶とビックリとしてしまい、動揺のあまり裏返った声を出していってしまった。


「おー、これはすごいね。健人の匂いがいっぱいするよー」

「あ、ちょ、ちょっ……や、やっぱり返せ! 俺のマフラーの匂いなんて嗅ぐんじゃねぇよ!!」


 俺は坂野にマフラーの匂いを嗅がれた事がとても恥ずかしくて、顔を真っ赤にしながら坂野に対してマフラーを返せと言っていった。しかし……。


「ふふ、嫌だねー」


 しかし坂野はふふっと気だるそうな笑みを浮かべていきながらも頑なに俺のマフラーを返そうとはしてくれなかった。


 そしてそんな坂野の笑みはいつもの気だるそうな表情ながらも……何というか小悪魔みたいな悪戯っ子のような笑みにも見えていった。

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