公式の何気ない言葉が、超弩級呪物を生み出した。

kayako

ヘイト創作を超えちゃった何か。


 人間誰しも、数十年生きていれば黒歴史の一つや二つあるもの。

 かくいう自分も勿論、一つや二つどころではない数の黒歴史があります。

 自分で思い返すと恥ずかしいけど、第三者から見ればなんてことのないものだったり。

 ガチで絶対思い出したくないし、第三者から見てもドン引き、ヘタしたら炎上というレベルのヤバイものもあったり。

 一言で黒歴史と言っても、ピンからキリまで様々です。


 今回はそんな自分のあらゆる黒歴史の中で、創作に関わるある黒歴史を紐解いていこうと思います。

 いわば懺悔のようなものです。決してこの二の舞とならぬよう、少しでも皆様のお役に立てば幸いです。



 そう――あれは何十年前になるかも分からぬ昔のこと。

 当時、私が滅茶苦茶夢中になった作品がありました。

 作品名は伏せますが、魔物と戦うお話です。

 内容と登場人物は……念のためかなりフェイクをかけますが、大体こんな感じです。


 ストーリー:聖女と騎士とその仲間たちが魔物軍団と戦う冒険譚

 登場人物:

 ・ヒロインで主人公の聖女Aさん。清く明るく元気よくがモットーの少女

 ・その騎士役のB君。寡黙で人間嫌い

 ・脇役の武闘家少女Cちゃん。勝気で男勝りな元気っ娘

 ・脇役の神官D君。気弱なれど情報戦に強いいわゆるオタキャラ。Cちゃんとは凸凹コンビ的な仲

 ・その他、聖女の仲間が何名か

 ・敵役は魔女Xさん。もう一人のヒロインでもある。冷静で真面目、Aさんとは対照的な性格

 ・ラスボスは魔王Y君。Xさんとは母子であり夫婦であり主従でもある宿命の関係



 こんな感じの作品と考えていただければ結構です。

 そして私はこの中で、武闘家Cちゃんと神官D君のカップリングに壮絶にハマりました。

 それまで単独のキャラにハマったことは何回かありましたが、いわゆるカップリングにハマったのは初めてと言っても過言じゃありません。

 作品内で戦いが激化していくうち、お互い最初は反目しあいつつも惹かれていくCちゃんとD君。

 メインで描かれていたのは当然主人公たる聖女Aさんと騎士B君でしたが、私は完全にそっちは無視してCちゃん&D君にハマりまくっていた。

 人気的にもAさんとB君のメインCPがダントツで、その他はキャラもCPもほぼオマケみたいな感じでしたが、それでも私はCちゃんとD君を無我夢中で推していました。


 終盤に来て意外な弱さを見せたCちゃんと、そんな彼女を守り支えるD君の姿は愛と希望の象徴だった。宗教画だった。マジで。


 そして本編は無事、主人公側のキャラは全員生き残り、メインのAさんとB君だけでなく(個人的にメインの)CちゃんとD君、それ以外のカップリングもめでたくくっつき、ハッピーエンドで終了。

 敵として立ちはだかったXさんとY君はAさんの愛により和解し眠りにつき、世界は平和に。


 ストーリー的には少々物足りなさは残ったものの、カップリング的にはこれ以上を望めない幸せなエンディング。私がメインのAさんB君そっちのけでCちゃんとD君のストーリーをいくつもいくつも妄想しまくったのは言うまでもありません。

 それだけでも結構な黒歴史が成立するほどの量なのですが、しかし。

 問題はここからだったのです……



 しばらくして、平和に終わったはずのエンディングからの続編が登場。

 本編で無事結ばれたはずのCちゃんとD君は、その続編で、なんと



 意味不明に別れておりました。



 ちなみに続編開始時点で既に別れていたという。

 理由の詳細は作品内では殆ど説明されず、「凸凹コンビで盛り上がってたけど、いざ恋人同士になったら性格や環境の差とか色々と問題が発生して云々」的な言及が解説冊子か何かであったような。

 いやそんなところ妙にリアルにしなくてもいいじゃないですか! 夢くらい見せろや!! とは今でも思う。

 あと、本編では固い絆で結ばれたはずのAさんとB君の関係も、続編では不安定になっていた。CちゃんとD君の(意味不明な)別れもあってAさんがさらに不安になるという演出もあったり……

 つまり、「AさんとB君の愛と絆の再確認ドラマを盛り上げる為だけに、CちゃんとD君は意味不明に別れさせられた……ってコトぉお!?」

 と、当時の私が邪推しても仕方がない状況。


 続編のラストでCちゃんとD君は何とか元鞘に戻ったものの、一度意味不明に別れさせられた事実は消えません。

 さらにトドメとなったのが、

「CとD? アレって吊り橋効果でしょww」という旨の公式スタッフ発言。

 つまり私がこよなく愛した彼と彼女は、恐怖に満ちた緊急事態の中だと男女が異常に強く惹かれ合う、よくある一時的現象にすぎない……というのが公式の認識だったと!?


 私が盛大にキレまくったのは言うまでもありません。

 この事態に一瞬で魔女化した自分は、遂に超弩級呪物となる二次創作を生み出してしまいました。



 そして……

 そんな二次創作で自分がやらかしたことがこちら!


 ・本編の幸せエンディングはまやかしだ! 真の敵が目覚めて世界をぶっ壊し始めた!!から始まり

 ・世界崩壊の原因は聖女たるAさんがB君とセッ(ry

 ・Aさん、魔女認定されて仲間たちもろとも世界中から追われる

 ・謎のオリキャラ(某綾波似)登場。本編でラストまで生き残った仲間キャラをあっさり首チョンパでぶち殺す。ついでとばかりに続編のゲストキャラもぶっ殺す。つまりオリキャラ最強無双開始

 ・原作では一番人気のB君、オリキャラによって精神汚染されまくった挙句ぶっ壊れ、全く無関係の仲間女性キャラ(人妻で子持ち)を無理矢理×××

 ・明るく元気で芯が強かったはずのAさんも、B君の×××がきっかけとなりぶっ壊れのメンヘラと化す

 ・この状況を何とかしようとしたD君、モブ男どもに集団×××されてぶっ壊れて自信喪失、Cちゃんから逃げ出す(ちなみにCちゃんとD君の間には娘(オリキャラ)が生まれている)

 ・D君との離別をきっかけにCちゃんもぶっ壊れ始め、D君のことを認識できなくなっていきやがて超絶メンヘラ化

 ・色々あってD君は何とか戻ってくるものの、CちゃんはやがてD君を完全に認識できなくなり暴走開始、自ら世界をぶっ壊し始める

 ・Aさん、B君ショックによりD君とお互いに傷のなめ合い……してたところを敵に囲まれる。結果D君、旧劇エヴァの某弐号機並みの惨死

 ・D君の死によりAさん完全にぶっ壊れその力が暴走、世界崩壊一直線

 ・原作ラストで無事眠りについたはずの魔女Xさん、覚醒。

 真面目でおとなしめの性格だったはずが、何故か元から超攻撃的な人格という設定になってる(要は綾波に見えてたけど何故かアスカだった感)

 ・他、滅茶苦茶頑張って世界を救ったはずの仲間たち、全員世界の敵認定され迫害され全員ぶっ壊れる

 ・そしてXさんと一緒に眠っていたはずの魔王Y君が、真なる覚醒を……



 これが我が黒歴史、前半部分のストーリーでございます。これでもまだ半分ですw

 もうとにかく、世界とキャラをぶっ壊すことしか考えてない。

 時期的にもちょうど、人類補完がどうの精神崩壊がどうの、溶け合う心が私を壊す的な作品が全盛期だったこともあり、世界をぶっ壊すのカッケェ!とか思い込んでたフシもある。

 公式によるCP否定は、ヘタするとこのレベルの特級呪物を大量生産しますので本当に慎重にしてほしいものですね(他人事)


 原作キャラの性格捻じ曲げ、オリキャラの過剰な無双、原作リスペクトのなさ(というか愛が反転した憎悪)、頻出するエログロ描写、メインキャラの容赦ない死亡などなど……

 多分二次創作でやっちゃいけないこと、ほぼ全部網羅してると言ってもいいでしょう。

 いわゆるヘイト創作という言葉は当時ありませんでしたが、典型的なそれ。いやヘイト創作でもここまでやらないというレベルでやっちゃってます。


 これだけでも十二分すぎるレベルでヤバイですが、前半で壊れに壊れた物語を回収しようとした後半が


 ・AさんとXさん、実はCちゃんから生まれた

 ・B君とY君、実はD君から生まれた

 ・というか世界はCちゃんとD君の手で生まれた

 ・世界は巨大なループの中にあり、何万年単位でCちゃんとD君が崩壊と再生を繰り返しうんたらかんたら

 ・前半で無双してたオリキャラは実はCちゃんとD君の娘と同一人物


 ……という、ガチの電波ゆんゆん物語に。

 改めて申し上げますが、原作の主人公はAさんとB君のコンビです。CちゃんとD君はAさんやB君とは血縁でも何でもない、あくまで脇役の仲間です。

 当然CちゃんとD君は普通の人間です。優秀ではありますが。



 極めつけが


 ・世界がループするきっかけはCちゃんとD君の痴話喧嘩

 ・武闘家元気キャラだったはずのCちゃん、何故か母親に捨てられた設定。そして育ての母が毒親だったせいで隠れメンヘラ化した設定に(※Cちゃんの両親は原作ではほぼ出てきませんし育ての母設定も皆無)

 ・武闘家のはずなのに何故か王立図書館勤務にさせられさらにメンタルヤバくなりD君に依存していくCちゃん

 ・気弱なれど誠実だったはずのD君、何故かCちゃんに対してモラハラ気味に

 ・そこから延々と、互いの首絞め内臓ぶっ刺し心臓抉り脳みそ啜り合いの凄絶なグログロ殺し合い痴話喧嘩が始まり世界崩壊。そこからの歴史逆戻りのやり直しループが発生、分裂した心がAさんとXさん、B君とY君を生み何千年何万年単位でうんたらかんたら

 ・ループの種類もひとつじゃなく、Aさんが生み出したループやらCちゃんが生み出したループやら何種類かあってややこしすぎて自分でも理解不能

 ・夫婦喧嘩に巻き込まれたCちゃんとD君の娘は何万年もの無限地獄ループを繰り返して最強のオリキャラ娘と化した



 ……え、わけが分からない? 自分も分かりません(マジで)

 何故自分はどこかでオカシイと思わなかったのか。

 いや、思わなかったから黒歴史が成立しているんだけども。


 多分書いていた当時の自分が、プライベートでも大病したり学校で色々あったりかなりヤケクソ気味になっており、それを主にCちゃんの環境と性格に(ほぼ無理矢理)反映させた結果です。

 皆さん、キャラ(特に原作のキャラ)はイコール自分じゃありません。忘れないようにしましょう。



 改めて思いますが、当時ハーメルンとかpixivとかがなくて本当に良かったです。

 この超弩級黒歴史で、あえて一つだけ良かった点をあげるとすれば、何とか完結できたということくらいでしょうか。

 非常に無理矢理な形ではありますが、最終的に地獄の無限ループ世界は解放され、殺されたキャラたちも全員復活。

 AさんとB君、XさんとY君などなど、いがみあっていたキャラたちも和解。

 CちゃんとD君も遂にお互い分かり合った結果、ループの根源たる真の魔女(=Cちゃんの実母。当然オリキャラ)を叩きのめし、世界は真の再生を遂げるというオチ。

 AさんやB君、その仲間たちも過酷な運命から解放され、普通の人間に戻り。

 原作ラストでは眠りについたXさんも普通の少女に戻り、AさんやB君と仲良く過ごすという結末に(強引に)したので、原作でモヤモヤしてた部分も何とかしたぜ!!と、当時は滅茶苦茶満足してました。

 当然ラストシーンは、みんなに祝福されハッピーウェディング姿のCちゃんとD君でシメ。

 いやー本当にマジでヨカッタヨカッタ♪ 当時ハーメルンとかpixivが存在しなくて!!




 書き上げた当時は、自分だけは非常に満足していたものですが。

 反応はほぼ皆無と言って良かったです。公開していた範囲自体もかなり狭かったですが、それにしても絶無だった。いやこんなん晒してれば当然ですし、表立って叩かれなかっただけでも運が良かった(&頑張って読んでくださっていた方々が滅茶苦茶人格者だった)と言えるでしょう。


 その他細かいところでは、当時の有名作品の台詞や状況まんまパクったりとかもあったりもして……思い出すだけでもイタイ。嗚呼イタイ。

 あと全編にわたり、改行もろくにない(あっても1行か2行)文字ぎっしり。画面自体が呪いかよと今にして思う。


 中でも、推しだったはずのCちゃんとD君に何故そこまで壮絶な喧嘩をさせたのか。

 今書いてて自分でも疑問に思いましたが、多分「ここまで絶望的な亀裂が生じても、それでも二人は最終的に絆を取り戻せるんだ! それほど二人は究極の真実の愛で結ばれてる運命のカップルなんだ!! 吊り橋カップルなんてもう言わせねぇ!!」と思い込んでいたせいでしょう。

 推しキャラを傷つけたり汚したり、推しCPを一時的にでも引き裂きたがる習性は昔からです。治りません。



 それでも、この黒歴史。

 今では反省も後悔も死ぬほどしていますが、存在自体を否定はしていません。

 何故なら、他の無数の黒歴史と同様、この黒歴史もまた、今の自分を作り上げたものの一部。

 このドス黒い歴史があるからこそ、今の私の作品は、そこそこ読めないこともない日本語で何とか成立しているのです。時にはありがたい感想もいただけるほどに!


 そしてこの黒歴史を思い返して、改めて思ったことがもう一つあります。

 それは、何かを書いてまともな作品として成立させる為には、『書く』だけでなく『読む』ことも重要だということ。

 上記の黒歴史作品を書いている間の自分は、他の作品はほぼ読むことなく、自分だけの世界に閉じこもっておりました。

 理由は恐らく『不要な情報を入れて自分の世界が汚されるのが嫌だから』。

『正しい情報を入れて自分の妄想がぶっ壊されるのを無意識に恐れたから』と言い換えてもいいでしょう。


 その結果、最初から最後までこの作品はろくに進歩しませんでした。

 書き上げた当時は、「書き始めの頃と比べると、文章うまくなったなぁ~!」と自画自賛したものですが、人様の作品をきちんと読むようになってからの進化と比べると雲泥の差。

 やはりアウトプットのみならずインプットも積極的に行い、『自分の世界だけに引きこもらず』『読者の目を意識する』ことは重要です。



 今の自分も決してそこまでの作品を書けているわけではないし、もしかしたら今の自分が生み出している作品もやがては黒歴史化する可能性もある。

 ですが、過去の作品を思い返して「恥ずかしい! 死にたい!! まさに黒歴史!! 穴があったら入りたい!!!」と思えるということは、それだけ自分が成長した証でもあると思っています。

 だから黒歴史は「消したい歴史」ではあるけれど、決して「消してもいい歴史」ではない。いやシャレじゃなくて。

 むしろ現在の自分の糧、自分の進化の証明ともなる歴史でもある。

 過去の酷い過ちを反省し、決して惨劇を繰り返さぬよう、改めて姿勢を正して作品づくりに挑みたいものです。



 最後に、制作者の皆様。

 作中でハッピーエンドを迎えたカップリングを意味不明に続編で別れさせることは非常にリスクを伴います。出来れば回避の方向でお願いします。

 どうしてもやらなければならない場合は慎重に慎重を重ねてください。公式スタッフの発言等々含めて!



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