第32話 あれ、ガチ勢ニキ??
「———本当に誰もいないね〜〜」
「まぁわざわざ校舎裏なんかに来る奴なんて、よっぽどのぼっちか嫌われ者だけだろ」
悲しいことに俺は後者だが。
あんなに頑張ったのにな。
なんて俺が悲しい気持ちになっていると……マイカが近くのベンチに座る。
ほんと何でこんな場所にベンチを作ったのか甚だ疑問だが、もしかしたらこの学園を設計した人はボッチだったのかもしれない。
まぁ俺にとってはありがた———あ。
俺のベンチに向かう足が止まる。
そんな俺を不思議そうにマイカが見つめた。
「……どうしたの? 座らないの〜〜?」
「あ、いや……俺は立って食べるから大丈夫」
「?? まぁアルトがそれがいいならそれでもいいけど〜〜」
「は、ははっ……」
イマイチ理由が理解できていないらしいマイカに俺は乾いた笑いを浮かべながらも内心ホッと安堵のため息を吐く。
さっきまで何も気にしてなかったけど……普通にこんな場所で男女が隣り合って弁当食ってたらアウトだわ。
傍から見たら完全にカップルのイチャイチャだわ。
あぶねぇ……あと少しでレティシアにどやされるところだったぜ。
ただ、今回は何とかそれに気付くことが出来たのでレティシアにキレられることはないだろう。
ギリギリの所で危機を回避した俺は立ったままおにぎりを食べる。
勿論おにぎりは自作だ。
レティシアが家の料理長に作らせようかと提案してきたが、あまりにも目立ちそうだったので丁重にお断りしておいた。
「それにしてもアルトって何であんなに恐れられてるの〜〜? 私、魔法授業の時休んでたからわからないんだよね〜〜」
「確かにマイカの姿は見てないな」
まぁ本音を言えばそんなことを気にする余裕が無かったのだが。
「そうそう! だから闇の精霊さんを見てみたいな〜〜って」
「まぁ別にいいけど……」
「ほんと!? やった〜〜!!」
無邪気に喜ぶマイカがキラキラと目を輝かせて俺を見る。
その視線からとんでもない期待を感じ取った俺は、俺の中にいるはずのヘカテーへと呼びかける。
『おーいヘカテー、出てきてくれー』
「…………何?」
「おお〜〜……お?」
「……どしたん?」
俺の呼びかけに応じて出てきてくれたヘカテーだったが……何故か酷くテンションの低いことに俺は少し心配になって尋ねる。
マイカも始めは喜んでいたが、どんよりとしたヘカテーの姿に首を傾げていた。
「ねぇ、アルト……彼女はずっとこんな感じなの〜〜?」
「いや、普段はもっと五月蝿くてウザい」
「…………酷いな、契約者君は……」
「ヘカテー!? おい、普段のあの五月蝿くてウザいトンデモテンションはどこに行った!? 本当に何があったんだ!?」
こんなのもはやヘカテーじゃないだろ!?
え、俺が何かやってしまったのか!?
俺がそう考えていると……ヘカテーがこくんっと頷いて俺を恨めしげに睨みながら口を開く。
「———……契約者君とレティシアの情事を余すことなく見せられたボクの身にもなってみなよ……」
…………あっ。
俺は目を見開いて俺を見るマイカと責める様なヘカテーの視線を受け———。
「あとはお二人でどうぞっ!」
即座に戦略的撤退を選択した。
「…………ふぅ、何とか気まずくなる前に逃げれたけど……弁当どこで食べようかな」
俺は1人で学園内を歩きながら呟く。
今頃ヘカテーとマイカが2人きりで気まずい空気が流れているかもしれない。
まぁ2人ともコミュ強だし何とかなるだろきっと。
全部丸投げした俺の耳に、今が昼休憩と言うのもあり、ワイワイガヤガヤと至る所から生徒達の楽しそうな笑い声や話し声が聞こえてきた。
それは、ぼっちの俺に1番効く。
「良いなぁ……男の友達欲しいなぁ……」
マイカとは友達になったが……正直女の子だと気を遣ってしまうので、やはり馬鹿話の出来る男友達が欲しいところだ。
まぁ恐れられてるから出来そうにもないけどな。
「それにしても……本館は誰も居ないな」
この学園には、本館・旧館・学生棟×3・研究棟・教員棟・魔法競技場などなど……様々な施設がある。
そしてこの本館は大人数で座学をする時に使う講堂が幾つかあり、入学式もここの講堂の中の1つで行った。
他には学園長室や度々お世話になっている生徒会長室がある。
ただ学園長や生徒会長がいるせいか……休憩時間は特に、滅多に普通の生徒は近付かないのだ。
………………。
「…………ここで食べれば良くね?」
何なら、レティシアに一緒に食べようと言われた時もここを使えば余計に騒がれる心配もない。
俺は何て素晴らしい場所を見落としていたんだ……!
ここなら何かあっても滅多なことがない限りバレないじゃないか……!
ただ、興奮するのもそこそこにして一先ずおにぎりを食べる場所を探す。
まだ30分以上あるとは言え、急がないと食べれずに昼休憩が終わってしまうからな。
「でも正直生徒会長室しか行かねぇから他が全く分からないんだよな……」
何て思っていると……ふと扉が開いている小さな空き教室を見つけた。
広さは前世の高校の教室くらい。
「お、良いところみっけ」
俺は駆け足で空き教室に向かうと、中を覗いてみる。
「うおぉ……な、懐かしい……!!」
如何にも長年使われていないと言った感じの少し埃っぽい場所だった。
椅子や机が無造作に置いてあり、使いかけのチョークが黒板の下側に付いている縁に置いてある。
まるで現代日本に異世界転移したかのような気分を味わえ、少し懐かしい気持ちになった。
「良いじゃん良いじゃん! よし、これからはここで食べるとしよう」
ただ……少々埃っぽいのは何とかしないといけないな。
俺はそう思い、教室の後ろにあるロッカーから箒を取り出そうとして———。
「———ここでいいですわね」
突然女子生徒達の話し声が聞こえてきたため、反射的にロッカーの中に隠れる。
何故隠れたのかは自分でも分からん。
いや誰だよ……タイミング悪いな。
それに隠れちゃった手前、もう出にくいんだけど……早くいなくならないかな。
なんて思っている俺を他所に、教室に3人の貴族っぽい女子生徒達が入ってきた。
そして、一番後ろの女子生徒に引っ張られるように、髪を掴まれた女子生徒が入ってくる。
…………え??
「早く入りなさい!! 誰かに見られるでしょう!?」
1人の女子がヒステリック気味に叫ぶ。
ただ気にしているところ悪いけど……バッチリ全部見てるんだよね。
俺が非常に面倒なことに巻き込まれたな……なんて思っていると、とんでもない一言が飛び出した。
「———最近調子に乗りすぎですわよ、アリア!!」
おっとぉ……ガチ勢ニキ??
3日後までは暴力自体ないんじゃなかったっけ?
めちゃくちゃ髪引っ張られてるんだけど。
突然のことで困惑する俺を置いて、女子生徒の話は続く。
「そ、そんなこと……」
「ありますわ! お前は最近殿下や他の殿方とも交友があるそうですわね!? 私を差し置いて平民如きが殿方と仲良くするなんてあってはならないことですわ!! だから……この私自らお前に罰を与えるのです!!」
「ば、罰……?」
怯えた様子のアリアが呟くと、女子生徒が懐から裁縫か何かに使うであろう裁ちばさみ的なものを取り出した。
「これで……お前の髪をぐちゃぐちゃにして差し上げますわ!」
「や、やめ———」
「いやめちゃくちゃ嫉妬で草」
「なっ!? 一体誰———ひぃぃ!?」
名も知らぬ女子生徒が突然ロッカーから出て声を上げた俺を見て———情けなく悲鳴を上げる。
隣にいた他の2人も同じように顔を真っ青にしてブルブルと震えていた。
いや……そんなに怯えなくても……まぁ今はいっか。
非常に心が傷付くが、今はそれを無視して女子生徒達に告げる。
「———今からレティシア呼ぼうか? それとも……俺にボコボコにされたい?」
いやー、ごめんなガチ勢ニキ。
めちゃくちゃ胸糞過ぎて出てきてしまったわ。
俺は内心でガチ勢ニキに謝りながら、目の前の女子生徒達を睨んだ。
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『乙女ゲーの主人公(美少女)を陰から助けるために最強の組織を作ったんだが、部下に愛され過ぎてしんどい』
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