第24話 やらかし王VS王子&貴族筆頭

 ———【闇のコート】。

 俺が唯一使える魔法で、術者の身体能力を高め、ある程度の魔法をレジストしてくれる中々に優秀な魔法。

 しかし———。


「———熱っっ!?!?」

「ふっ、無駄だ。その程度の魔法でこの魔法を無効化など出来るはず無いだろ?」


 どうやら精霊王と最上位精霊の魔法をレジストできる程の性能は流石に無かったようだ。


 現在身体能力爆上がり中の俺のパンチは手を火傷する代わりに一瞬炎嵐に穴を開けるも、実体がないがゆえに直ぐに元通りになってしまった。

 そして再び周りを巻き込みながら此方に接近してくる。


 おいおい……これじゃあ火傷の割に合わねぇよ。

 ……あ、そうだ。


 俺はふと思い付いたことを試すべく特別製のスマホを操作して売れ残った大量の爆弾を取り出す。

 そして———次々と炎嵐へと投げ込んだ。


「これでも食らいやがれ!」


 ———ドガガガガガアアアアアアアンッッ!!


 爆弾は炎嵐の内部から連鎖的に爆発していき、爆風が炎嵐を乱して消滅させた。

 その一部始終を見ていた王子殿下が驚愕に目を見開いて声を漏らす。

 

「な……ッッ!? ば、馬鹿な……本気の魔法だったんだぞ……? 何故受け止められる?」

「そりゃあ俺の20万マニ分の爆弾だからな。威力にだけは自信があるんだ」


 まぁ正直上手くいくとは思ってなかったけどな……。


 内心ホッと安堵に胸を撫で下ろす。

 俺にとって半ば賭けのようなものだったが……何とか上手くいってくれてよかった。


 ただ———これで爆弾は尽きた。


 あとは自力で何とかしないといけない……。

 その為にはまず———接近する!


 俺は魔法を撃たれる前に全力で地面を踏み込む。

 地面が少し陥没すると同時に、弾丸のように一直線に猛スピードで2人の下に飛んで行く。


「……っ、【炎王の息吹】ッ!! セノンドールも撃て!!」

「はっ! ———【精霊の風じ———」

「———遅いわッッ!!」

 

 俺は飛んで来た炎の塊をパンチで弾き飛ばし、セノンドールが魔法を放つ前に懐に忍び込んで拳をセノンドールの腹目掛けて振り抜く。

 セノンドールは焦った表情で咄嗟に腕でガードするが……残念ながら俺と彼とでは身体能力に差があり過ぎた。


「グハッッ!?」

「セノンドール!?」


 ゴキッッ!! っという骨が砕ける音と共にセノンドールがスーパーボールの如く吹き飛び、壁に激突してめり込む。

 周りから悲鳴が聞こえてくるので、相当深い傷を追っていると思われる。

 そんなセノンドールの方に顔を向けて叫ぶ王子殿下の懐に入った。


「余所見はいけませんよ……王子殿、下ッッ!!」

「っ、舐めるな!!」

「!?」


 俺が勝負を決める気で振るったパンチを、全身に濃密な黒灰の魔力を纏った王子殿下がまさかの一歩も引かずに受け止めた。

 しかも俺の拳を掴んで俺を投げ飛ばしてまで来たではないか。

 これには流石に驚きを禁じ得ない。


 いやいや……アンタ完全に魔法使いだったじゃん。

 いきなり俺のアイデンティティを消さないでよ。


「さぁ……どこからでも掛かってこい」

「くそっ……これは長引きそう……だな」


 全身に黒灰色の魔力を纏うだけでなく髪や瞳までもが同じ色に変化した王子殿下が余裕げな笑みを湛えて俺を見据える。

 そんな殿下の姿に……俺はジンジンと痛む右手を押さえ、冷や汗をかきながら愚痴った。









「———はあああああああああ!!」

「くッ!? がああああああああ!!」

「ぐあっ……!!」


 私———レティシア・フリージングの視界で、漆黒のロングコートに身を包んだアルトとくすんだ灰色の揺れ動く魔力を全身に纏った殿下が激戦を繰り広げている。

 2人の攻防は、もはや少し腕に自信がある程度の精霊使いでは全く入り込めない境地に達していた。


「———【炎虎咆】ッッ!!」

「くっ……ぁぁぁぁあああああ———ッッ!?」


 しかし、少しアルトが押されている気がする。

 

 現に今もアルトは殿下の魔法をモロに受けて炎に包まれながら吹き飛ばされてしまっている。

 対して先程からアルトの攻撃は全くと言っていいほど殿下に当たっていなかった。


 このままじゃアルトが本当に殺される……!

 それだけは絶対に駄目よ……!


「私が絶対に止めてみせるわ……!」


 私は覚悟を決めて2人の戦いに割り込むために精霊を召喚しようとするが……アルトの精霊である精霊神ヘカテーに手を掴まれて止められる。


「まぁまぁ、ちょっと待ちなよ」

「で、でも……このままじゃアルトが……」

「大丈夫だって。……くくっ、やっぱり君を契約者にして良かったよ、アルト」


 ヘカテーはアルトが押されているというのに心底楽しそうに笑う。


 その異様さに、私は気圧される。

 精霊が人間と違うということを改めて思い知らされる。


 私は冷や汗が一気に流れてきたことを自覚しながら、生唾を飲んだ。

 しかし、ヘカテーはそんな私の変化に気付いていないとでも言うように先ほどと全く同じ抑揚で私に問い掛けてきた。


「レティシア、君は気付いているかい?」

「……っ、な、何に……?」

「よーくアルトを見て」


 ヘカテーの言葉に、自然とアルトに目が行った。

 そして目の前の光景に思わず目を見張る。

 

「ふっ……ふっ……ふっ……」

「くっ……馬鹿な……どうなっている……? 何故俺の攻撃が……」


 決してアルトが優勢なわけじゃない。

 今も普通にアルトは攻撃を食らっているし、吐血だってしている。


 しかし———どれだけ攻撃を受けようと、彼は終始無言で一定のリズムで呼吸を刻みながら、まるで没頭するように身体を動かす。


「ふっ……ふっ……ふっ……」

「【炎王の息吹】ッッ!! 【炎王剣閃】ッッ!! ———何故だ! 何故俺の攻撃が効かないんだ……!? 貴様は不死身か!?」


 攻撃をしているのも優勢に見えるのも殿下なのに、殿下の表情には明らかに焦燥の感情がありありと浮かんでいた。

 そんな光景に私は小さく零す。


「これは、もしかして……」

「うんうん分かったかな?」


 お互いにアルト達の戦いを見ながら、私はこの戦いを見て思ったことを告げる。



「……まるで、稽古をしてもらっているみたいに見えるわ……」



 そう———私にはとてもじゃないが、この戦いが死闘には見えなかった。 

 寧ろアルトが物凄い速度で、魔力の使い方を、魔法の使い方を、戦闘の技術を、一瞬の内に理解してより高みへと磨いているように見えたのだ。


 そんな私の言葉に、ヘカテーがパチパチと手を叩く。


「正解だよ、レティシア。流石アルトの婚約者だね?」

「ちょっ———」


 不意に言われたせいで全く心の準備が出来ていなかった私は自分でも顔を真っ赤にしてしまう。

 しかし、彼女はそんな私を慈愛を宿した瞳で見つめた後、ゆっくりとアルトに視線を移し———。



「彼は……アルトは、戦闘の天才なんだ。それもこの世界の過去に類を見ないくらいね。そんな彼の才能が———今まさに開花しようとしてるんだ」



 だからこの勝負……アルトの勝ちだね、と嬉しそうに笑った。

 それと同時に———決して大きくないはずのアルトの声が鮮明に聞こえた。





「———【闇神衣やみのかみのころも】———」





 世界に夜の帳が下りる。




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