第25話 アルトのやらかしは———。
———【
俺は初めて感じる感覚に身震いを覚える。
まるで世界が止まっているかのように錯覚するほどに全てがゆっくりと動くのだ。
それに相手の次の動きが何故か何となく分かる。
感覚が研ぎ澄まされているのか知らないが……今は何も聞こえない。
先程まではそんなことは無かった。
確かに段々相手の動きがよく見えてきたなぁ……程度には感じていたけど、ここまでじゃなかった。
全て———【
この魔法は、殿下の少し先の動きの全てがハッキリと見える———そう感じた瞬間、知らないはずなのにまるでふと思い出したかのように自然と口に出ていた。
同時にこの魔法の効果も理解した。
そしてあまりのチートぶりにドン引きしている真っ最中である。
———身体能力の神域化に、同じ精霊神の魔法以外を無効化する漆黒の軍服。
この厨二病が考えたみたいなぶっ壊れ効果が【
……うん、キモい。
普通にチート過ぎてキモい。
何て我ながらドン引きしていると……王子殿下が全身に金色の炎を宿して此方に必死な顔しながら歩くくらいの速度で向かってくる。
その様子に思わず、おっそいなぁ……とかチート使ってる塵が言ってはいけないことを呟きながら、俺はこの身に纏っている軍服の性能が知りたくて試しに王子殿下に触れてみた。
瞬間———俺が触れた場所の炎が消滅する。
「ば、馬鹿な!?」
王子殿下が驚愕に目を見開いてゆっくりとバックステップで下がる。
あ、どうやら声は普通の速さで聞こえてくるらしい。
何でかは知らん。
魔法の世界だし何でもアリなんだろきっと。
考えるのが面倒になった俺は、さっさとこの心底俺に損しか無いくだらない戦いを終わらせるべく、一歩で数十メートルを移動し、王子殿下の目の前に現れる。
「なっ!?!?」
「へいへい殿下ぁ〜〜そんな程度なんすか? お助けキャラの最強格ならもっと頑張ってほしいなぁ」
「だ、黙れ……!!」
驚きに身体を硬直させる王子殿下だったが、俺の煽りに先程よりも少し速度の上がった拳を俺の顔面に叩き込んでくる。
直後、とてもじゃないがパンチが当たったようには思えない破裂音が響き渡り、風圧だけで生徒達を吹き飛ばす。
「う、うわぁあああああああああああ!?!?」
「に、逃げ———」
「いやあああああああああああああッッ!!」
か、可哀想に……。
俺が吹き飛ばされた生徒達に同情していると———いつの間にか王子殿下が上空に停滞し、直径100メートルはありそうな超極大の金色の炎球を創り出していた。
これには、先程まで逃げ惑っていた生徒達も言葉を失って上を向いている。
そして創り出した張本人の王子殿下は……完全にキャラ崩壊を引き起こしていた。
「ふははははは!! どうだアルト・バーサクッッ!! これでレティシアを守る貴様は逃げられまい! それに貴様が逃げれば大勢の生徒が死ぬぞ!! さぁいい加減死ねぇええええええええええええええええッッ!!」
そう言って放たれた炎球が、ゆっくりと落下してくる。
そんな光景を眺めながら……俺は1人反省会を行っていた。
流石に煽りすぎたかな……。
というか俺が頭のおかしいことするからこんなことになったのか?
いや流石にそんなわけ……わけ…………全部自業自得で草。
1回しっかりと考えてみたが……もやは言い訳不可能なくらいに俺のせいでしか無かった。
何ならこれでよく人のせいにしようとしてたな俺……と自分にドン引きするほどである。
……よし、これからは絶対にやらかしなんて行わないようにするぞ!!
適当にトラブルは起こさず学園生活を過ごして、その後はレティシアと結婚して平穏なイチャイチャ生活を送るんだ!
「———そのために死んでたまるかっ!! それと本当にごめんなさい!!」
「ええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?」
俺は地面を蹴って跳躍すると、漆黒の手袋がはめられた拳で炎球を殴る。
すると、まるで風船が破裂するように炎球が消滅した。
これには高笑いしていた王子殿下も、目が飛び出るんじゃないかと思うくらいに目を見開いて驚き、呆然と虚空を眺める。
よ、よし!
何か物凄くショック受けてるみたいだし……今のうちに王子殿下を気絶させよう!
もうズルなどお構い無しにとどめを刺すべく拳を振り抜こうとして———。
「——————え?」
突然———闇の軍服が光の粒子となって消え、身体から力が抜ける。
それと時を同じくして重力が何百倍にも増したかのような倦怠感に襲われ、耳鳴りと視界の歪み……果てには全身に激痛が走り始めた。
「う、嘘だろ……かはっ……ごふっ……」
一際大きな痛みが電撃の様に全身を走ったかと思えば、吐血。
更には口や鼻だけでなく、耳や目からも血が溢れ出した。
あー……これは分かるぞ。
完全に駄目なやつだ。
間違いなくアカンやつやん……!
「ど、童貞のまま死ぬなんて……い、嫌だ……」
もはや自分がどうなっているのかも分からないまま、最後の言葉にしてはクソ情けない遺言を残して俺の意識は暗転した。
「———…………し、知らない天井だ……!」
俺は———目を覚ますと知らない部屋にいた。
だからついついオタクなら誰しも1度は言ってみたい言葉を口にしてしまうくらいは許してほしい。
てか、よく生きてたな俺。
普通ならあんな激痛走って血を吹き出したら速攻でお陀仏だろ。
やっぱ魔法で治してもらったんかな?
俺の治してくれた人には死ぬほど感謝しないとな。
何て思いながら、相変わらず身体は重いので、首だけでぐるっと部屋を見回してみる。
こういうのに有りがちな、美少女がベッドの隅に椅子に腰掛けて寝ている……とかいうことがあるかもとの淡い期待からだ。
しかし残念なことに……誰もいないどころか、俺の寝ているベッドと横の机以外何もなかった。
何なら時計もないので、今が何時かも分からない。
「随分と殺風景な場所だな……いや寧ろラッキーか? これなら流石にやらかす心配なんてないわけだしな。よーし……これからはもう絶対やらかさな———」
「……んんっ……」
「———……ん?」
俺が寝ている間にやらかしてないと確信して安堵したその時……ふと、女性のくぐもった声が聞こえた気がした。
それだけでなく、俺に掛けられた布団が僅かに動いた気もする。
……そ、空耳と幻覚だよな……?
き、きっとそうだよな……!
だって誰かがいた痕跡なんて無い……ないよな?
…………い、一応……もしもなんか無いだろうけど……まぁ一応確認しておこうかな……。
俺はきっとさっきのは幻覚と空耳だと自分に言い聞かせて覚悟を決めると……思いっ切り掛け布団を捲った。
すると———。
「……んんっ……あると……」
「…………」
———一糸纏わぬ姿で、シミ一つ無い綺麗な肌を晒したレティシアが、同じく裸だったらしい俺の上で気持ちよさそうに寝ていた。
…………は、ははっ……嘘だ……。
俺はどうやら———意識がなくてもやらかす人間らしい。
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アルトのやらかしは終わらない……。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!
モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!
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