第22話 ごめーんねっ?

「…………」

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ?」


 魔法競技場。

 学園の中で1番巨大な建造物で、今年度に入学をした全生徒が入学式以来初めて一同に集まる魔法の授業の開催場所。

 サッカーの競技場のコートの部分が砂に変わったような感じで、観客席には何百もの上級生が見に来ていた。


 そんな場所の一角で、終始ぎこちない動きで黙り込む俺を励ますように、レティシアが優しい言葉を掛けてくれる。

 しかし、俺がこうなっているのには何も緊張だけではなかった。


「……れ、レティシア様……」

「? どうしたの?」

「い、いや……ま、周りの視線が……」


 可愛らしくコテンと首を傾げるレティシアに、俺は自分でも分かるほどに挙動不審に頻りに辺りを見回しながら小声でボソッと耳打ちする。

 そんな今この瞬間も、何百もの同級生上級生関係なく、多くの生徒が俺達の方に注目を向けていた。

 更に……。


「お、おい……あ、あのレティシア様が男と……?」

「馬鹿っ! あれはきっと男装している護衛かなんかだよ! ……多分な」

「でも何で男装を……」

「「さぁ……?」」


 とか。


「う、嘘ですわ……私達の気高いレティシア様が……あ、あんなパッとしない冴えない無名の男に……」

「ほ、本当にパッとしないですわね……」

「あんな男がレティシア様の側にいてはいけませんわ……!!」

「皆さん、いいですか? 即急に私達、令嬢の憧れであるレティシア様に纏わりつく害虫を排除しますわよ!」

「「「はいっ!!」」」


 とか……っておい。

 現実世界ではそこらの俳優よりも大分イケメンな俺の顔で『パッとしない』とか『冴えない』とか『害虫』と呼ばれるのには流石に遺憾なんだが!!

 確かに王子殿下とかセノンドールに比べたら劣るけどさ!


 俺は内心で令嬢達のあまりにも酷い俺の評価に憤慨する。

 そもそも王子殿下とかセノンドール並の超絶イケメンなんて、それこそ乙女ゲー世界でも攻略キャラくらいしかいない。

 

 それにしても……本当にレティシアって超有名人だな。


 ただ、少し考えればその程度容易に分かる。

 何せレティシアは、この国の貴族筆頭であるフリージング公爵家の令嬢でありながら最上級精霊契約者、更には入学と同時に副生徒会長を任された超絶有名人だ。

 しかもどんな男子をも寄せ付けず、全ての告白を切って来た冷酷無比の令嬢として無理矢理結婚を強いられる令嬢にとっては希望の光になってたらしい。

 

 …………本当に何で俺はこんな人と婚約できたんだ??


 割と本気でレティシアがどうして俺を好きになったのかが理解できなくて首を傾げていると……先程俺を『レティシアに纏わりつく害虫』と称していた令嬢達が此方にズンズンと歩いてくるではないか。

 しかも決して俺の勘違いではなく……バッチリ目が合っている。

 何なら親の仇みたいに睨まれている。


 こ、怖ぇぇぇぇぇ……!

 モブキャラであんなに怖いとかこの世界終わってるよ……。


 俺がこの世界の恐ろしさに身震いをしていると、令嬢達がレティシアに緊張した面持ちで話し掛ける。


「———れ、レティシア様っ! 少しお尋ねしたいことがありますの!」

「……? あぁ、カーラね。どうしたのかしら?」


 レティシアは俺と初めて出会った時のように冷徹な令嬢の姿でカーラと呼ばれた金髪の令嬢に首を傾げる。

 カーラと呼ばれた令嬢は、レティシアに気圧されながらも口を開いた。


「れ、レティシア様……その男とは離れた方が……」

「……は? ごめんなさいね、もう一度言ってもらえないかしら??」


 絶対に聞こえているはずなのに敢えて聞き返す鬼畜なレティシアは、目の笑っていない黒い笑みを浮かべる。

 そんな笑みに完全に呑み込まれたカーラは目をぐるぐると回しながらヤケクソ気味に大声で言い放った。


 

「———そ、『そこの男は一体何者なんですの!?』と言ったのですわ!!」


 

 核心を付くカーラの言葉に更に生徒の注目が此方に集まり、俺は普通に緊張で気絶しそうになる。

 周りの奴らは『あの子勇気あるな……』とか『流石侯爵家の令嬢だぜ……』とか言ってカーラを尊敬の目で見ていた。


 いやカーラって令嬢、公爵の1個下の侯爵家だったのかよ……。

 俺が何言われても言い返せんし、言い返した時点で処刑にされるくらいの大貴族じゃないですか。

 

 衝撃的な事実により心臓の鼓動が早くなる俺を他所に、質問を受けたレティシアは全く動じることなく……それどころか黒い笑みを消し、少し頬を紅潮させてチラチラ俺を見ながら恥ずかしそうに言った。




「か、彼は……———私の婚約者なのよ……っ」




 全く大きくなかったはずのレティシアの声が———魔法競技場全体に届いた。

 その瞬間に俺の全身からとんでもない量の冷や汗が噴き出してきた。

 遠目から王子殿下とセノンドールが驚愕の表情を浮かべている。


 あぁ……拙いよこれは……いや事実だけど……!

 確かに条件もクリアしたし正式に婚約者になったけどさ!

 でもまだ王子殿下とかセノンドールとかとも話が付いてないのに流石にまだ早かったんじゃ……。


 そう俺が狼狽えるのと時を同じくして静寂が空間を支配し、完全に空気が凍る。

 カーラとかいう令嬢なんて……あまりの衝撃のせいか、立ったまま白目を剥いて気絶していた。

 そんなカーラを見ながら、レティシアが耳打ちする。


「ごめんね、あなた。どうせこれからあなたの精霊を見たらどっちにしろこうなるから先に言っちゃったわ」

「い、言っちゃったかぁ……」

「うん、我慢できなくて」


 テヘッと小さく舌を出してウィンクをするレティシアは大変可愛い。

 しかし、それじゃあしょうがない———なんてことになるわけなく、沈黙の時間が少し続いた後———。



「「「「「「「「「「「「「「「「「「な、なああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」



 魔法競技場を大混乱が襲った。


「は、ははっ……あーはっはっはっはっ……はぁ……どうしよ」


 俺は即座に現実逃避と相談のためにスレを開いた。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!


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