第16話 国王と転生者と精霊神とやらかし
「———ごめんなさい。もう2度と契約者君を貶めるようなことはしません」
「だよな? それが当たり前だよな? 俺にオマケという名目で自分を呼ぶ専用の精霊石を渡し、俺の許可無しに勝手に契約したんだもんな?」
「う、うぅ……本当にごめんなさい……」
俺は現在国王陛下が準備中とのことで、応接間にて待機していた。
今の俺の身体には何も取り付けられていないどころか、国王の最重要客人として、最高の扱いを受けている。
何でも———宮廷精霊使い達が俺を捕まえて縄で縛っていたことに激怒し……お詫びとして自分がこの部屋に向かうから食べ物や飲み物などを執事に頼みながら待っていて欲しい、とのことらしい。
ふぅ……良かったぜ……国王は宮廷精霊使いとは違ってマトモそうだな……。
案外話が合うかも?
そんなことを思いながら、俺の目の前で正座をしているヘカテーに視線を移す。
そして少し前からずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「……なぁ、ヘカテー」
「な、何かな、契約者君……?」
ヘカテーが俺に名前を呼ばれ、ビクッと体を震わせると、恐る恐るといった風に此方に視線を向ける。
ホント、黙っていれば超絶美人なのにな。
「さっき俺って30メートルくらい下に落ちただろ?」
「そうだね」
「…………何で無傷なんだ?」
幾ら池といっても、俺は思いっ切り全身から池に落ちたので骨くらい折れてそうなものだが……不思議なことに全くの無傷。
感覚的には硬いベッドで飛び跳ねてる感じに近い。
……30メートル下の水に着水したのにな。
そこで俺は1つの仮説を立てた。
「もしかして———俺の身体ってお前との契約で強化されたのか?」
「うん、そうだよ」
「え、そんなあっさり?」
俺は案外軽いノリで口にするヘカテーに肩透かしを喰らう。
しかしヘカテーは何てことない風に言った。
「精霊神とか精霊王とかの精霊の中でも強力な個体と契約した人間はね、あまりの魔力の多さに身体が耐え切れないんだ。だから魔力を受け取る器を強くする———身体が強化されるんだよ」
「へぇ……てか身体が強化されないと爆発するのか?」
「うん」
「え、怖っ!? お前やっぱり厄病霊じゃないか!!」
「それは聞き捨てならないよ契約者君! ボクは神! 決して厄病霊なんかじゃないの」
そんな子供レベルの言い合いをしている俺だったが———。
「……ごほんっ。……あ、あー……少し時間良いだろうか?」
国王陛下が気まずそうに扉の前に立っていたのを見て、速攻で頭を下げた。
「———先ずは、余の部下達が其方らに非常に無礼を働いたことを謝罪しよう。本当に申し訳ない。全員1年間の減給と今後其方達に一切近付けないようにさせる」
「あ、わ、私はあまり気にしてないので別に謝って貰わなくても……」
金髪碧眼でアルベルトに良く似ているがアルベルトより精悍で修羅場を幾つも潜っている軍人の様な怖い顔立ちのイケおじが頭を下げる。
そんな国王陛下にビビった俺は、始めこそ文句の1つでも付けてやろうと息巻いていたが……速攻でやめた。
だって怖いんだもん。
しかし……そんな国王陛下に全く動じない者が1人。
「えー、それだけ? アイツらボクの契約者君に魔法を撃ってきたんだよ? せめて慰謝料くらい踏んだくら———痛ぁっ!?」
「おい……少し黙ってろこの馬鹿! は、ははっ、申し訳ありません。まだ契約したばかりで生意気なんですよ……ははは……」
俺は対面に座る国王陛下に爪先を向ける様に足を組むヘカテーの頭を叩いて頭を下げさせる。
しかし、予想外に抵抗された。
「ちょ、ちょっと契約者君! 何でボクが頭を下げないといけないのかな? ボクは精霊神だよ? この世界の神と契約者君以外には絶対頭は下げないからね」
「ご、強情な奴めが……!!」
「良いんだ、アルト君。全ては余の部下の不始末なのだからな。精霊神様の言う通りに慰謝料も払おう」
本当に申し訳なかった、と一端の弱小貴族に頭を下げる国王陛下。
……めちゃくちゃ良い人やん。
ヤバい、この世界に来て1番の人格者かもしんない。
俺が感動していると……国王陛下が恐る恐る口を開く。
「と、ところで……アルト君は余の息子に会ったことはあるのか……?」
息子……?
国王陛下の息子はアルベルト———。
「あるも何も、今度戦わないといけなくなったんですよ」
「な、何だと!? あ、あの馬鹿者が……」
俺がレティシアの争奪戦ということは伏せて話すと、国王陛下が眉間に手を当てた。
「はぁ……本当に身内の者が申し訳ない。教育には力を入れたつもりだったが……余の思い過ごしだったようだ。王子という立場を使って下の者に戦いを強要するなどあってはならないとあれほど言い聞かせておいたつもりのだが……」
「あ、国王陛下が気に病むことでは……」
「そんなことはない。息子の暴挙を止められなかった余の責任だ。後でやめさせるようにキツく言っておく」
「あ、ありがとうございます……」
……た、大変そうだなぁ……自分は何も悪くないのに謝ってばかり……。
……そうだな、何か1つくらい頼み事でも聞いてみても良いかもな。
俺はあまりにも国王陛下が可哀想になって来たのでふと言ってしまった。
「あの……私に出来ることでしたら1つか2つくらいなら頼み事があれば……」
「ほ、本当か!? あ、いや……すまない。つい興奮してしまった」
ソファーから立ち上がった国王陛下は、少し恥ずかしそうに咳払いをしながら元の席に戻る。
「本当に良いんだな……?」
「勿論です! 任せて下さい!」
「な、なら2つあるのだが……」
「何ですか?」
「う、うむ……1つ目は精霊の森の反対にある魔物の森の魔物をボスは殺さず適度に狩ってほしいのだ」
魔物の森……なんとなく分かるけど詳しくは知らないな。
まぁこっちにはヘカテーがいるしなんとかなるだろう。
「良いですよ。もう1つは?」
俺がそう訊くと、国王陛下が嬉しそうに告げる。
「是非とも———我が愛娘と結婚してくれないか?」
「もちろ———ん??」
「本当か!? 感謝する、アルト君!」
俺の言葉に国王陛下が「アルト君の様な心優しい子に嫁がせられて良かった……」と嬉しそうに目を細める。
そして執事を呼び、今から王女を呼んでくるとまだ言い出した。
………………———あぁ、拙い。
これはもう断る期間が終了してるな……。
俺は、レティシアが居ながら別の女との結婚を承諾するという……全身からダラダラと冷や汗をかきながら己の大失態を悟った。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!
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