第14話 はぁ? 聞いた話とちゃいますがな

「———ねぇ、契約者君契約者君」

「……何だよ性悪店い———ヘカテー」

「殆ど全部言ってるじゃないか」


 性悪店員改めヘカテーが学園に戻る馬車の中で俺の横に座りながら、ぷくーっと頬を膨らませてジト目で見てくる。

 美人がこれをやると物凄く様になるのだから普通にウザい。


「だって事実だろ。俺が他の精霊と契約出来ないって分かってたくせに売っただろうが」

「でも契約者君のことだからどうせ信じないんだろう?」

「勿論」


 俺が自信を持って頷くと、無言でポコポコと手加減して肩を叩いてくるヘカテーには悪いが……正直ちょっと気持ち良い。

 あー、そこそこ、超気持ち良い。

 

「……何かボク、肩叩き機になってない?」 

「俺を勝手に契約者にしてたんだからそれくらいのサービスしてくれたっていいだろ」

「……しょうがないじゃん。それはボクも少し想定外だったんだから」


 そう、俺は何故か呼び出した瞬間にヘカテーと契約を済ませてしまっていたらしい。

 ヘカテーが言うには、俺とヘカテーの魔力親和力がアホほど高かったらしく、勝手に魔力が共鳴して契約を済ませていたんだとか。

 

 ……いや何だよそれ。

 そんなことあっても良いんか?


 因みに、契約して変わったのは———遂に俺にも魔法が使えるようになったことだ。

 この俺が魔法を使えるようになったんだ(大事だから2回言った)。

 まぁ遠距離系じゃないんだけどね。


「契約したら魔法使えるって言ったのにな」

「使えているじゃないか」

「【闇のコート】とか言う身体強化系魔法だけな!」


 違うんだよ!

 俺が使いたい魔法というのは、某アタオカ魔法使いの【エクス◯ロージョン】みたいな放出系とか爆破系の魔法なんだよ!

 

「契約者君は放出系に適性があまりないからしょうがないね。まぁ契約が馴染むまでは分からなかったけどね」

「はぁ? 神なら全部分かっとけよな……」


 俺が呆れたようにぼやくと、ヘカテーが眉を潜めて言った。


「むっ……ボクはあくまで精霊の神だから。この世界の神じゃないんだよ」

「そんなことは知っとるわ」


 俺に転生特典のスマホをくれたのがその神様ご本人だからな。

 色々と制限は掛けられたらしいけど。


 こんな感じで俺とヘカテーが言い合っていると、ずっと静かだったレティシアが感情の読めない表情で俺の袖を弱く引っ張る。

 

「———ねぇ、アルト……」

「? どうしたんですか、レティシア?」


 何故呼ばれたのかさっぱり分からない俺は首を傾げる。

 すると———。


「い、いたひでぇふ……れひぃひあひゃま」

「…………」


 ジト目で俺を見ながらレティシアが俺の頬を引っ張って弄んでくる。

 まるで嫉妬した彼女が彼氏になるような愛情表現に見えるが……その見た目に寄らず予想以上に痛い。

 普通に涙出るんだけど……。


「れ、れひぃひあひゃま……? い、いたひんれすけど」

「ふんっ……アンタのだらしなく緩まっていた頬を元に戻してあげてるのよ」


 レティシアは少し不機嫌そうに憮然とした表情で告げた後、手を離すと直ぐに窓の方を見てまた黙ってしまう。


 ……え、それだけ?

 というか俺がこんな性悪疫病霊を前にだらしなく頬を緩ませるわけがないだろ。

 幾ら美人でも……。


 俺はチラッと隣に座るヘカテーの横顔を眺め……笑顔で頷いた。


「うん、絶対ないな」

「何だろう。今ボクが貶された気がする」


 本当に何でだろう……と首を傾げるヘカテーを横目に、俺は少しでも馬車酔いしないように外に視線を向けた。









「———うっぷ……おえっ……」

「あ、アルト……? だ、大丈夫……?」

「えぇ……契約者君……情けないよ」

「い、いや……これは不可抗りょ……うっぷ……」


 俺が顔色を真っ青にして口元を抑え、ヨロヨロとえずきながら馬車を降りると、ヘカテーが俺を見てドン引きした様子で呟く。

 てか浮いてる奴に言われたくないわ。


 対策はしたのはしたのだが……どうやら完全に酔ってしまったようだ。

 平衡感覚がぐらぐらしていて物凄く気持ち悪い。


「アルト……本当に大丈夫なの?」

「は、はい……た、ただ今日は早めに帰らせてもらいますね……」


 俺は吐きそうになるのを何とか押さえながら……心配そうに眉を下げて覗き込んでくるレティシアに全力で作り笑いをして頷く。


 正直全然大丈夫じゃないが、ここで大丈夫じゃないと言ったら何かヤバい予感がしたのでやめたのだ。

 レティシアが何を言うか分かったもんじゃないからな。


「ち、因みに……ほ、本当に大丈夫なんですよね……?」

 

 勿論大丈夫とは、精霊の森のことだ。

 レティシアが言うには……精霊王を超える存在である2体の精霊神の1柱であるヘカテーと契約した俺を王国が絶対に罰することはないらしい。


 レティシアは俺の質問の意図を即座に理解すると、力強く頷く。


「ええ、絶対大丈夫よ。どんな愚鈍で愚図な王でも……精霊神の契約者を罰するなんて有り得ないもの」


 ほっ……レティシアがそこまで言うなら流石に大丈夫———




「———止まれ、アルト・バーサク!!」




 —————は????

 聞いてた話とちゃいますがな。


 俺は目の前に突如現れて俺の名前を呼ぶ20人前後の王国紋の刺繍の入ったマント姿の精霊使いの姿に、俺とヘカテーはジト目でレティシアを見る。

 2人の視線に晒されたレティシアは少し戸惑いながら俺達の前に立って声を上げた。


「こ、これはどう言うことなのかしら? 幾ら宮廷精霊使いであっても……私、レティシア・フリージングの行手を阻むなんてあって良いわけないでしょう?」

「勿論心得ておりますよ。しかし、そこにいるアルト・バーサクには国王陛下直々に『アルト・バーサクという者を我が下に呼び寄せよ!!』との勅命を受けているのです! レティシア様、ここは大人しくしていただけると……」

「くっ……」


 レティシアが悔しそうに唇を噛む姿を見ながら……俺は小さく手を上げて問い掛ける。


「ち、因みに……何で俺は呼ばれているんでしょうか……?」

「お前には精霊の森の破壊容疑が掛けられている! あの場所は神聖不可侵の領域! それを壊したのなれば死刑は免れまい」


 その言葉を聞いた俺は、震える手で即座にスマホを取り出す。


 …………『【悲報】ワイ氏、国王陛下に呼び出され、現在逃走中な件』でいいか。


「あー……クソッタレ。逃げるぞヘカテー」

「ガッテン承知だよ。楽しい楽しい鬼ごっこを始めよう」

「あ、おい、待て! つ、捕まえろ!!」


 俺は送信を押し、スレ民に助けを求めながらレティシアを置いて全速力で逃げ出した。

 

—————————————————————————

 遅れて申し訳ない。

 気に入らなくて全消ししてたんです。

 次はいつも通り0時に上げます。


 ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!


 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!



 ※追記

 0時に上がれない可能性大。

 ただ、12時までには絶対上げる。

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