第12話 いでよ精霊! そして契約を交わしたまえ!

「———絶対ここよね」

「……絶対ここでしょうね。ここじゃなかったら普通にキレますね」

「そうよね。他に道はないもんね」


 俺とレティシアは、半信半疑で目の前に広がる透き通る薄い青の泉を眺めて零す。

 その泉には魔力が満ち溢れており、尚且つ底までクッキリ見えるというとんでもない透明度を誇っていた。


 その泉の深さは、見た目こそ数十センチ程度にしか見えないが……実際は多分もっとあるだろう。

 ……どれくらいあるんだ?

 

 俺は少し気になったので、試しに近くに落ちていた拳大の石を投げ入れる。

 すると……。


「……深いわね」

「……深いですね」


 数十秒経ってもまだ落ち続けていた。


 つまり、一度入ったら間違いなく死ぬというわけか。

 何とも恐ろしい泉だな、おい。


 ともあれ、恐らくここがあのガチ勢の言っていた泉だろう。

 ならばここに精霊石を入れれば、結構強い精霊が出てくるはず……多分きっと。


 俺は持ってきていた精霊石を取り出す。

 それを投げ入れようとして……ふと手が止まった。

 ゆっくり逆再生のように腕を元に戻し、ジッと手の中はある青く透き通った精霊石を眺める。


 これ1つが10万……いや半額にして貰ったから5万か……た、高いなぁ……。

 これをこの水の中に入れるのかよ……勿体なさすぎる……どうせなら転売して倍で売れば良かったな……。


 そう思ったところで、あの店員の優しい笑みを思い出して思い留まる。


 いや、転売なんかダメだよな。

 あの店員さんの善意に報いないと流石に俺がクズになってしまう。


「よ、よし……頼む……頼むから1回で終わってくれ———ッッ!!」


 俺は誠心誠意願い、泉の中に1個5万マニの精霊石を投げ入れた。










『———お前とは合わん。別の奴を呼べ』


 俺がぽちゃんっと石を落とすと、全身が炎で出来た人型の精霊が現れる。

 しかし、精霊は俺を少し見て直ぐに見限ったかのように言葉を吐く。

 そんな精霊を見ながら、俺は固く固く拳を握る。



 ……………も、もう我慢出来ん……!!



「———はぁあ?? 巫山戯んじゃねぇよこのクソ野郎!! に、20回目だぞ!? 全く同じ言葉を20回も浴びせられた俺の身にもなってみろよ!! そして少しくらい敬意を示せよクソッタレッッ!!」

『なっ……こ、この上級精霊であるオレにそのような言葉を吐くなど……』

「黙れbot野郎」


 炎の化身のような精霊が俺の言葉に驚いたように言葉を紡ぐが……それを俺は勢いで完封する。


「何で色々な属性の精霊が出たのに皆んな皆んな同じ言葉———『お前とは合わん。別の奴を呼べ』って口を揃えて言うんだよ! 別の奴は呼んだ! 19回な! 良い加減俺と契約しろよくそッ!!」

『ふんっ、無理なものは無理だ。もう2度と会わないだろうが……この私に生意気な言葉を吐いたことは覚えておこう』

「帰るならさっさと帰れゴミが」


 こうして———俺の20回目である精霊との契約は失敗に終わった。

 そして、計100万マニが文字通り水の泡となって消え去った。


 平民10年分、子爵貴族2年分の金額が。


 俺はそのあまりの額の大きさに茫然自失となって視界がぼやけ、その場に崩れ落ちる。

 ガクガクと身体が震え、耳鳴りが激しい。


 う、嘘だ……こ、こんなの……夢だ……。

 ぱ、パチンコやスロットなんかより余程凶悪じゃないか……。

 だって1円も返ってくることなくただひたすらに金だけがなくなっていくんだぞ……。


「……あ、アルト……?」

「…………ははっ、レティシア……俺はもう俺を保てなさそうです……本当に申し訳ありません……」


 あまりの俺の壊れっぷりにレティシアが俺の直ぐ目の前に顔を近付けて心配そうに声を掛ける。


 いつもなら、普通に美少女の御尊顔が目の前に来たことに照れていただろう。

 しかし、今の俺はあまりのショックにそんなことを思う余裕すらなかった。

 

「だって……100万……平民が10年間生活出来るくらいのお金……ですよ? それが僅か数十分の間に全て無に化したんです……」

「……あと1個あるわよ?」


 その言葉に俺の動きが止まる。

 まるで壊れたロボットのように首をレティシアの方に向けると……彼女は精霊石を入れていた袋から他とは違う真っ黒な石を取り出した。


 …………あぁ、そう言えばあの善人の店員からおまけで貰った21個目があったな……。

 100万に気を取られてすっかり忘れてた。


 俺はゆっくりと立ち上がり、レティシアから精霊石を受け取る。

 

「あ、ありがとうございます……」

「それ……本当に精霊石なの? 現存が確認されてるのは青、赤、黄、緑、白の5つだけれど……」

「……でも、優しい店員が精霊石だってくれたので投げてみます……」


 俺は黒の精霊石を握り締め、泉に投げた。



 ———光が溢れる。



 今までとは比較にならない極光が、薄暗い洞窟の全てを外の真昼以上に照らす。

 しかし極光は止まることなく洞窟の天井部分を吹き飛ばし、明るい青空が顔を出す。

 その光の発生源である泉は、徐々に白から黒に塗り潰される。

 全ての水が漆黒に染まると、それは外までも侵食する。

 漆黒に染まった青空は姿を消し———。



 ———満天の星空が姿を現した。



 その時、元々天井があった高さに———。





「———ずっと待ってたよ。1万年振りのボクの契約者君」





 肩の上で切り揃えられた漆黒の髪。

 恐ろしく整った人間離れした美貌。

 漆黒でありながら透き通った瞳。


 闇夜に輝く無数の星のように輝く漆黒のドレスを身に纏った20代くらいの絶世の美女とも呼べる女性が……でもどこか見たことのある顔立ちの美女が、俺にそう笑い掛けた。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!


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