魔力無しのナタリー
会議が終わると、アッシュはジークリートを個別に呼んだ。
他の出席者はそこで解散となった。
ナタリーとウィルは後片付けをし、帰ろうとしていた時だった。
「ナタリー、ウィル、お疲れ様。」
穏やかに声をかけてくる者がいた。
火属性のジークリート、風属性のイースに続き、3人目の上級魔法使い、光属性のカイザー・オズウェルだった。
カイザーは、黒髪に凛々しい眉、男らしい顔付きで、隆々とした体つきをしている男だ。
ナタリーはいつも、アッシュやウィル、ジークリートなど、どちかというと中性的な美しさのある男性と接しているため、カイザーのように凛々しく男らしいタイプの男性と接すると、なんとなく落ち着かないような、ドキドキするような感覚があった。
「カイザーさん、お疲れ様です。今から帰られますか?」
と聞くと、
「いや、実は探したい資料があって、魔法塔に寄ろうかと思ってな。ナタリーも魔法塔に帰るだろ?せっかくだし、一緒に行かないか?」
意外な申し出に、ナタリーは返事に困った。カイザーのような人と、2人っきりで何を話せばいいのか分からないし、緊張するからだ。1人で帰った方が気楽だった。
すると、ナタリーの表情を見てウィルが少しニヤっとして言った。
「いいじゃん、ナタリー!カイザー様は魔法塔のことあんまり知らないしさ。ついでに案内してあげなよ!」
ウィルが、意味ありげな顔でウィンクしてきたが、ナタリーは意味が分からなかった。助け船でも出したつもりだろうか。
帰り際、カイザーの後方を歩くナタリーの背中を、ウィルが軽く叩いた。
「ナタリー、たまには大魔法使い様以外の男性も見ないと。自覚ないかもしれないけど、君を狙ってる魔法使いは多いんだよ。カイザー様は、アッシュ様と違ってレディには優しいよ。」
ヒソヒソ声でウィルに言われ、ナタリーは意味不明だった。
「ウィリー、冗談よして。私が魔法使いにモテるわけないでしょ?魔力無しなのよ?カイザー様は、そういうつもりじゃないわよ!」
ナタリーが怒って言った。
「だってそれは、君に近づくには、ガードマンがやばすぎるからだよ。炭にされたくないから誰も近づかないのさ。まぁ、とにかく楽しんで!!」
ウィルはそう言うと、手を振り走り去っていった。
ガードマンとは誰のことだと、ナタリーはため息をついた。
ウィルがこう言うのも、理由がある。
魔法使いは男性が多い。女性もいるが、10人に1人くらいの割合でしか現れない。
また、家門の人間全てが魔法使いというわけではなく、ほとんどの人間は魔力がないが、ごく希に、魔力のある人間が出てくる。
魔力のある人間は、大多数の魔力無しの人間から本能的に嫌われてしまう。それは魔力が強いほどその傾向があり、魔法使いは、皆揃って、容姿、能力に優れているが、女性と関わりを持てないことがほとんどなのである。
その為、魔法使いの女性というのは大変モテる。男女の恋人は1対1というわけではなく、魔法使いの女性は恋愛に奔放で、1人の女性に男性が複数人、ということが当たり前になっているのである。
そんな中、魔力無しでありながら、魔法使いになぜか嫌悪感を抱かない、希少な人間が、ナタリーであった。
ナタリーは、魔法使いの女性のように、ちやほやされて当たり前の環境では育たなかった為、わがままで思い上がったようなところがなく、思慮深く気立ての良い性格だった。
おまけに美人だったので、近付きたい魔法使いの男性は多かった。
しかし、何せ大魔法使い専属の侍女ということで、皆アッシュに目をつけられるのを恐れ、表だって近寄ってくるものはいなかったのである。
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