聖女の噂

今日は、上層会議がある日である。上級魔法使い達が招集され、急ぎ対応しなければならない問題について話し合う場だ。


資料準備があるため、早めに会場へ来てほしいとナタリーは言われていた。


アッシュよりも一足先に会場入りしたナタリーは、先に到着していた人物に声をかけた。


「ウィリー!お疲れ様です。」


ウィルは、人好きのする笑顔でよっと手を上げ、ナタリーに挨拶した。


「ナタリー!待ってたよ。いつも手伝ってもらっちゃってごめん~。」


ウィルは、サラサラの金髪と、女性のように華奢で、きれいな顔の美少年だ。歳は18歳くらいだろうか。


水属性の家門出身の彼は、一番年下だという理由で、よく雑用をやらされていた。


人懐っこく、おしゃべりな彼は、ナタリーが心を許す魔法使いの1人だった。魔法使いには珍しく、ナタリーを魔力無しだと、特別な目で見ない彼は、弟みたいにかわいい存在だった。


「お互い苦労するよね。魔法使いってほんと、性格悪くて人使い荒いやつばっかりだ。」


ウィルは冗談交じりにため息をつき、ナタリーは苦笑した。


「あら、ウィリーも苦労してるの?こっちは、王様の気まぐれに振り回されてばっかりよ。子どもの時からずっとね。」


ウィルはプッと吹き出し、それは言っちゃダメと口元でしーっ!と合図をした。


冗談もそこそこに、2人で資料をまとめ、準備を始めた。


魔法使いばかりいるくせに、こういうところはなぜアナログなんだろうかとナタリーはいつも思う。事務処理をすべてやってくれる魔法があれば便利なのに。


それから、上級魔法使い3人と、有力貴族数人が続々と到着し、それぞれ席に着いた。


ナタリーとウィルは記録係として、会場の端の方の席に座った。


開始時間1分前に、アッシュが到着し、堂々と席に着いた。ナタリーは、先に会場に行くことをアッシュに伝えていなかった為、少し睨まれた気がした。


会議は進行していき、火属性の上級魔法使いの1人である、ジークリート・ハインリヒがアッシュに報告した。ジークリートは、背中まである黒髪を1つに束ねた、精悍な顔立ちをした美丈夫だ。


ジークリートは、魔法使いのみで構成された軍を率いる司令官であり、各地に出没する魔獣を討伐する為の指揮を任されていた。


常に冷静沈着で、部下に厳しいことから非常に恐れられていた。


ナタリーも、ジークリートが苦手であった。アッシュへの報告事項がある際、時々話すことがあるのだが、笑顔がなく、いつも仏頂面だ。それなのに、


「顔色が悪い、ちゃんと食べているのか。」

「大魔法使い様におかしなことをされていないか。」


など、会う度にまるで父親のようなことを聞いてくる。何を考えているのか分からない人物だ。


「報告します。西部地方で強力な魔獣12体が出現しました。今までに、このレベルの魔獣が5体以上出現する前例がなかった為、苦戦しましたがなんとか制圧することができました。」


「12体を制圧?すごいじゃないか」


風属性の上級魔法使い、イース・エイドリアンが言った。


イースは、金髪に青い目をした、奔放な雰囲気をした青年で、いつも飄々とし、掴み所がない。噂によると、女性遊びが激しいらしかった。


「幾度にわたり、魔獣の出現を予言した聖女が現れました。今回も、その聖女の予言通りに魔獣が出現したため、対処することができました。」


『聖女の出現』という言葉を聞き、その場にいた一同は驚きの声を上げた。


「その聖女ですが、今度は国内数十ヵ所で、大規模な魔獣の出現があると予言しています。」


ジークリートは言葉を続けた。



「その予言が当たった場合、魔獣によって、国が滅ぼされる危険性があると私は考えています。」


アッシュは顔を上げ、鋭い目でジークリートを見た。


「聖女か。教皇以来の予言者がでてきたと?胡散臭い話だが、信憑性は?」


「今までに、3度に渡り予言を的中させました。出現場所、個体数も当たっています。この予言により、大多数の命が助かりました。信憑性は高いと考えます。」


ナタリーは、

『 国存亡の危機を予言する聖女 』

の話を、神妙な面持ちで聞いていた。


アッシュがどう判断するか、皆が固唾を飲んで見守った。


「・・・聖女とやらに、会う必要があるな。俺もこの目で、本物の予言者かどうか確かめたい。」


アッシュの言葉により、聖女はセントラルへ召還されることとなった。





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