侍女ナタリー2

アッシュとナタリーが暮らしているこの塔は、上級魔法使い達の居住地とも隔離されており、最低限の警備をする魔法使い数名と、料理や雑務を担当する侍女数名しかいなかった。


大魔法使いなのに、警備は薄いのかと気にはなるが、アッシュの魔力はそもそも桁外れのため、他の魔法使いが何人いようと、それほど変わらないのである。


アッシュは、よく知らない人間が自分の周りにいるのを極端に嫌うため、直接アッシュとやり取りができるのは、魔法使いでもない普通の人間のナタリーだけであった。


会議など、特別な時以外は、アッシュはほとんど魔法使い達と関わりを持たなかった。


そうはいっても、大魔法使いとしての仕事は山のようにある為、連絡の橋渡し役として、ナタリーが補佐をしている形である。



朝食を食べながら、ナタリーが文句を言った。


「アッシュ様、前から言っていますが、補佐役を1人、いや1人と言わず、3人くらい増やしてください。国中で起こっている問題が山のようにあるんですよ。私1人じゃ、アッシュ様と貴族魔法使い達の連絡係としては十分じゃありません。」


アッシュは、黙々と朝食を口に運びながらつっけんどんに言った。


「不要だ。」


「それは貴族の魔法使いの連中が、大魔法使いが対応しなくていい事案まで挙げてきているからだろ。俺が動くのは、国家存続の危機がある時だけ。それ以外は俺でなくても解決できるはずだ。」


アッシュは、きっぱりナタリーの提案を断った。ナタリーはそれでも、「しかし。。。」とゴニョゴニョ言っていたが、聞き入れてはもらえなかった。


人員が欲しかった理由は、近年、魔法使いを輩出している貴族同士の、派閥争いが激化しているからだ。


通常、魔法使いは貴族から輩出されることが多い。アッシュのように、平民から魔力を持つものが出てくる場合もあるが、その時は有力貴族が後ろ楯となり、養子に入ることがほとんどであった。


姓も、後ろ楯も持たないアッシュが、魔法使いのトップにいることで、現状、権力が分散して保たれているような状態であった。


大魔法使いの権限と権力は、派閥争いに大きな影響を与えるため、味方に付けよう、相手を出し抜こうとバチバチにやりあっている状態なのである。


ナタリーは魔法使いでないため、魔法使いからは 『魔力無し』と見下されており、アッシュヘ取り次げ、意見を通せ、秘密裏にあれをしろこれをしろと、無理な内容を押し付けられることが多いのである。



アッシュは最年少ながら、実力のみで大魔法使いの職に就いている。


風変わりなのは昔から変わらず、派閥争いも、富も権力も、我関せず。という様子だった。



自分の置かれている状況をアッシュヘ伝えることができず、ナタリーは内心ため息をつくのだった。











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