37:ようこそ解放戦線へ
先生
我々が思い出してしまう誰かの記憶も、実のところ
キミの中には今後様々な人物の記憶が蓄積されることになるだろう。もしかしたら同じ人物のまったく違う矛盾した記憶を得ることもあるかもしれない。自分の中に見知らぬ記憶があるだけでもつらいが、そこに
初めて
さて、アカシックレコードが矛盾だらけの歪んだ
どれが正しいかは問題じゃない。とんでもない記憶がキミに舞いこむかもしれない。明らかに架空の人物の記憶を得てしまうこともある。
ところで、キミにとって大切なものはなんだ? 大層なことじゃなくていい。たとえば、毎朝飲むコーヒーが欠かせないとか、通勤途中に小学生が元気よく挨拶してくれるのが嬉しいとか、あるいは子供のころに旅行に行った思い出のキーホルダーだとか、渡せずに机にしまったままの手紙だとか。もちろん多くの人にとって家族や恋人も大切だろう。毎週楽しみにしている深夜アニメや、顔も知らない友達がいるネットゲームでもいいだろう。
我々はいくつかの魂の
秘術を行使すれば、キミは力を振るう快感を覚えるだろう。秘術は記憶を通じて手に入れた力だ。過去の記憶に身を委ねれば、もっと力を得ることができる。そんな誘惑に駆られるだろう。これを押さえつけるのは意志の力だ。必然的に、秘術を行使すれば意志力が消耗するだろう。
端的に言おう。この意志を維持するのに必要なのが魂の
考えてもみてほしい。大切なものを守りたい一心で秘術を行使した結果、その大切にしていたものに対する感情を失うんだ。これを悲劇と言わずして何と言う?
意志を削り、大切なものへの想いを犠牲にしなければ
魂の
最後の
大切なものへの想いを抱いたまま死ぬ。実際、悲劇でしかないよ。そうやって死んでいく抵抗者を見てきた。そして、力に魅了されそれを手放してしまった者もね。どのみち自分という存在は死んだも同然になるというのに。
これは同胞としてのお願いだ。最後の心の
……帰らない、ということは覚悟を決めてくれるということでいいかな? もちろん、今すぐにでなくていいんだ。でも、戦おうという意志があるのなら、我々はキミを歓迎しよう。
――ようこそ、人類解放戦線へ。
月虹イングレイヴ 泉井夏風 @izuikafu
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