27:魂の輝き
雷球のエネルギーは拓矢のものとなった。もはや上空に脅威は無いため、蘭と鶴田も間合いを詰める。しかし、稲妻と化した拓矢に近付けば放電によるダメージは必至。余計な手を出せば高速移動をする拓矢に当たるかもしれない。太一もふくめた三人は、攻防を見守ることしかできなかった。勝てるかもしれない、そんな希望が芽生えてきたところで鶴田は気付く。
「エネルギーの発散が激しい。そろそろ電力を使い切ってしまう」
拓矢の猛攻をしのぎ切られてしまう可能性に備え、三人は次の一手のために動き出した。
拓矢はというと、まとった
「ありがとう、やはり自分一人での実験では気付けないこともあるものだ。キミの無謀な思いつきは秘術の研究を一歩前進させたよ。抗うのをやめたら秘術寺院の門を叩くといい、高い位階から通過儀礼を行えるよう私の権限を使ってあげよう」
上機嫌でそんなことをのたまう。言い終えるころには拓矢の動きは尋常な秘術を行使した時のものに戻っていた。
「拓矢くん後ろに跳んで!」
蘭の声に従い、距離を取ると同時に、サン・ジェルマンの周囲に氷壁が出現する。ぐるりと取り囲まれたところに高く跳ね上がった太一が上から
高温を閉じ込めるための氷壁を維持するには限界がある。秘術の氷とはいえ秘術の炎が相手では霊力を
「炉が壊れるわ、万が一、奴が生きてた時に備えて!」
全員がひとかたまりとなって太一の大盾を先頭に構える。
「中心で霊力が高まっている、信じられん」
鶴田の霊視が敵の生存と反撃準備を確認した。次の瞬間、触れたものをすべて分解する死の光がサン・ジェルマンから一直線に放たれる。幅三メートルはあるその光線は地面を
十秒ほどだろうか、もう少し長かっただろうか、自称最初の
「素晴らしい、個々の力は弱くとも、団結すれば加算ではなく乗算で力を増す。人間の良い部分をこれ以上にない形で示してくれた」
響き渡る拍手。うれしそうな顔で手を打ち鳴らすサン・ジェルマンの泰然とした姿は絶望が人の形をとったかのようだった。
「まだ、余裕ありそうだな、サン・ジェルマン」
荒い息を吐きながら太一が苦い顔で言う。拓矢も酷使した全身の筋肉が痛んでいる。
「あんなやつ、倒せるんですか……」
「以前倒した時と違って本気を出してる」
次に何をすべきか必死に考える蘭もいつも以上に険しい顔をしている。だが、鶴田には
「落ち着くんだ。奴の霊力は枯渇寸前、霊力を補充される前に叩けばいける」
その言葉に勇気づけられ、拓矢が痛む体に鞭を打つ。足に稲妻をまとわせて駆け出した。蘭がサン・ジェルマンの体を急速に冷却していく。だが、太一は走らない。走り出せない。
「まずいなぁ、俺は自我を保つので精一杯だ、動けそうにない――うっ」
彼の中の記憶たちが、自分が主導権を握ろうと争っている。太一は盾を取り落とすと、頭を押さえて叫び始めた。
「俺は誰だ? 俺はオレだ、私は、俺は、私は、オレがっ」
「太一さん!」
気を取られた拓矢がサン・ジェルマンの放った爆炎で吹き飛ばされる。追撃を防ぐため、蘭が光線を放つ。
「拓矢くん! 今はサン・ジェルマンを!」
鶴田が右手のナイフの
「太一くん、キミは九品仏太一だ。聞こえるか? 太一くん」
「オレは……俺は……」
膝をつき、地面に腕を叩きつける。
「楽になりたまえ、
サン・ジェルマンの甘言を黙らせようと拓矢が斬りかかる。蘭が空気中の水分を凝結させ氷の槍を投射する。右手で剣を、左手で槍を止めたサン・ジェルマンはなおも続ける。
「キミが苦しむ必要はない。キミが誰であろうと本質は変わらない。抗う必要はない。否定していた自分を受け入れるんだ」
太一がゆらりと立ち上がる。鶴田はナイフを腰だめに構えた。
「俺は……」
顔を上げ、キッとサン・ジェルマンを睨みつける。
「俺は太一、ヒーローになる男だ!」
盾も拾わずに駆け出し、腕に炎をまとわせた。拓矢の刃が、蘭の氷が、サン・ジェルマンの動きを妨害し続ける。太一が腕を振り上げ、燃え盛る拳を敵の顔面に叩き込んだ。爆風とともに、あれだけ強固だったサン・ジェルマンが障壁を砕かれ吹き飛ぶ。
よろけながらも
「……最後の輝き、馬鹿にする者は多いが、私は好きだよ。有限の生にしがみつきながらも、他者のためにそれを燃やし尽くす。素晴らしいじゃないか」
サン・ジェルマンの体の中心で霊力がふくれ上がるのを鶴田は見た。ナイフを捨てて彼は走り出す。
「ジャック・ザ・リッパー、魂の輝きが見たいんだろう? 大盤振る舞いだ、目に焼き付けるといい」
「キミはヒーローっすよ」
太一は拓矢の肩をつかんで引き倒し、体の上に覆いかぶさる。
「太一さん!」
サン・ジェルマンは自分の命をささげて、切り札をもう一度放った。すべてを塵へと変える光線が一帯を薙ぎ払う。太一の体が消滅していく。最後の抵抗として張った光の壁が拓矢を守り抜いた。
薙ぎ払われた光線は、当然後方の蘭と鶴田も襲う。駆け出していた鶴田が蘭の前に立ちふさがった。
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