終盤

それから三日後、兄は化粧をしていた。


化粧をする手は微かに震え、目尻には涙を浮かべている。それ以外はいつも通り。


その化粧を見ながら、海はいつもに増して興奮していた。「あ!その紅。お兄が育てた花から作ったやつだ!」


唇に紅を引きながら、すすり泣く兄。


それでも化粧をする手は止めない。


「ごめん、ごめんな」と脆く、今にも千切れそうな声で謝罪する。


「泣かないでよ、お兄。ずっと納棺師お兄のする死化粧化粧が羨ましかったんだ」


慰めの言葉をかけるが、海の言葉は届かないし、流れる涙は止まってくれない。


海は自分がしたことについては後悔はしていないが、兄には笑って送り出してほしい。


「やっと私の念願が叶ったんだから、、、泣かないで?」


幸福そのものの笑みを浮かべて、死化粧をされている人に目線を向ける。


その人は真っ白な死装束に身を包み、畳に寝かされている自分の姿。


幼く震える手で彩る死化粧は、もうすぐ終わりを迎える。


ほろり涙が落ち、色を滲ませる。


口元で弧を描きながら海は意味深に呟いた。


「もっと私を、綺麗にしてよ」




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絵空事の夢 相川美葉 @kitahina1208

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