中盤

最初で最期の化粧をしてもらえれば、どんなに幸せだろうか?


泣きせがみながらのお願いも、兄には全く通じず、しょんぼりすることもあったが、その度に兄は「仕事でする化粧はしてあげれないけど、、、」と薄化粧をしてあげるのだった。


勿論、海は喜んだが違う。そうじゃないのだ。


薄化粧でも綺麗なのだが、やはり脳裏には兄が仕事でする美しい化粧。


ある日、ふと庭を見ると、数本の花に目が留まった。


アザミに似た黄赤色の頭花、紅花だ。


紅花は仕事で使う紅を作る為に育てているのを思い出した。


その日の夜、何を思ったのか海は兄の部屋に忍び込み、白粉と紅、紅を塗る用の筆を持ち出した。自分でするつもりだ。


楽しみ過ぎて嬉しそうに弾んでいると、足元に置いてあった通学鞄に足を引っ掛けてしまった。


引っ掛けた拍子に白粉箱をひっくり返して床に中身を撒き散らし、それと一緒に紅も床に落とし、挙げ句の果てに筆は踏み付けて折れてしまう。


その騒ぎで何かあったと駆け付けた兄は悲惨な姿の部屋を目撃してしまい、そのお蔭で普段はおおらかな兄が一時間の説教をするはめになってしまった。当たり前だが持ち出した仕事道具は没収された。


自分でやるのには失敗に終わったので不貞腐れながら布団に潜って、あーでもない、こーでもないと頭を捻っていると、突然、一つの素晴らしい方法を思い付いた。その方法は確実に化粧をしてもらえる。


どうしてもっと早く思いつかなかったんだろう。


化粧をされる対象になれば良かったのだから。


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