絵空事の夢
相川美葉
序盤
海は幼い頃から歳の離れた兄のする化粧が大好きだった。
兄は化粧をする仕事に就いており、小学生の時に『家族の仕事について』というテーマの作文では『お兄に化粧されたおばあちゃんは、幸せそうな顔をしてた』と自慢げに発表していた程に大好きだった。
親戚の中で兄の化粧を体験したのは祖母だけで、六歳の九月頃だった。
祖母は海達兄妹に「おじいちゃんみたいに早く逝くんじゃないよ」と口酸っぱく言っている人で、その台詞が海の覚えている唯一の言葉でもあったのだ。
普段は化粧など全くしていない祖母が兄に化粧をされると、今は眠っているだけですぐに目を覚ます、と錯覚する程に美しい出来栄えだと海は感動し、凄い凄いと目を輝かす。
十年近く経ったのに、あの日のことは鮮明に覚えている。
触れても触れても、戻ることのない体温。
父と母は苦い顔で「そうだね」としか言い様がなかった。
自分もしてほしいと思う気持ちは年々強くなる一方、どうしても兄はそれを拒む。
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