第5話 口裂けの言い分
「あのー、私奇麗?」
その人物はおもむろに、ゆっくりと、マスクを取った。
顔の上半身はメイクに映えた奇麗な目をしているが、下半身は口が裂けており、真っ赤な唇が長く伸びていた。。
間違いない、これは口裂け女だ、本当にいたのだと三人は思った。
「!」
しかし、何より三人を驚かせたのは、その長く伸びた唇の周りには、髭が生えており、男だったのである。
そして、強烈な口臭に襲われた。
風船が破裂するように、三人は一斉に駆け出した。
「わー! 出たー口裂け女だー!」
「というより口裂け男だぁ!」
「というか・・・口が臭ェェ!」
男から放たれる強烈な匂いに驚愕しながら叫ぶ。
「逃げろ~!」
「ポマードポマードポマードォォ!」
「ヘアバームゥゥゥ!」
三人は男の存在を確認しようと振り返ると、追ってきてはいなかった。
口裂け男はその場にうずくまっていた。
三人は顔を見合わせ、ゆっくりと口裂け女に近づいていく。
どうやら泣いていることに気が付く。
「おい、何で泣いてんだよ?お前口裂け女だろ? いや、男か。どうして俺たちを襲わないんだよ」
ダイキが泣く口裂け男に声をかける。
「そうだけど、皆がみんなそうじゃないんだよぉ」
「・・・面白そうだな。ちょっと話聞かせてもらおうか」
ダイキは疑問を口にした。
「どういうことだよ。襲い方も聞いてた話と違うし、お前、口裂け人間じゃないって
ことか? 本物ならマニュアル通りにやってくれないと困るんだよな」
「マニュアルって・・・」
口裂け男はグズグズと音を立て泣きながら自分について話し出した。
「! えぇ~、お前それでまだ一五歳なのか!?」
三人は彼の年齢に驚愕した。
「そうだよ。お母さんは本物の口裂け女だよ。僕はその息子さ。僕の家系は、人を襲うことはないんだ。襲っていたのはほんの一部なんだよ」
「なるほど、全員が全員悪さをするわけじゃないってことか。人間と同じだね」
ヒカは「なるほど」とうなずく。
「何でお前は化粧してんだよ? 女でもないんだろ?」
「だって僕だって奇麗な格好をしてみたいんだよ」
「なるほどね」
「今じゃ男も化粧したりする時代だからなぁ」
「マスク姿ならまだしも、マスクの下がこんな格好とはな。髭まで生えてるし」
「顔の上半分は化粧で印象を変えやすいからね。その代わり下半分は生まれつきのもの丸出しなんだ」
そこで口裂け男はさらに泣き出した。
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