第69話 220階層へ。みんなで行けば怖くない
「宝箱だ! 先に取られてしまう!」
誰かが叫んだ。
これだけ深く、かつ、階層主がいる階層だ。宝箱なんてめったにお目にかかるものではなく、見つけたら狂喜乱舞するほどの発見だ。
ここにいるハンターたちが目の色を変えるのも無理はない。
ミリアに魅了され、目をピカピカさせていても自我はちゃんとある。
ゾンビのように意思がないわけはなく、ミリアの操作がなければいつもと変わらず普通に行動ができるし、話すこともできる。
この場にいるのは男性ハンターが8割。
2割くらいが女性ハンター。
討伐隊は全部で1200人ほど。
219階層に全員が入り切れるわけではないので、まだ上の階層にいる人もいるかもしれない。
階段は4個所あるが、この場所に百人以上がひしめき合っている。
とにかく人口密度が高いことには変わりはない。
ユカリスさんのドローンの映像は注目を集め、階段の入口周辺は人がびっしりと集まってしまっていた。
「おい、階段を開けろ」
「早くしないと宝箱が」
「早いものがちだろ?」
「違う、みんなで分配だ」
「いや、出し抜くやつが絶対に出てくる」
「ちゃんとルールを決めよう」
「いいから、下へ降りさせろ」
「こいつ、邪魔だ。このでかい鎧」
「
「おい、押すな」
「押すなって」
「おい、こらー」
「押すんじゃねえーー!」
「うわあああ」
私は押され、階段を頭から突入。
そのまま、ずどどどど、と段差を滑り落ちた。
壁がぎりぎりだったので、鎧とこすれてキィィィィィ!と黒板を爪で引っ掻いたような嫌な音が響いた。
「うわああああ、ユカちーーーん!」
私は絶叫しながら、220階層へと落ちてしまう。
ドガン! と大きな音を立てる。
ハンターたちが堰を切ったように階段を降りてきた。
だが、通路は私の巨体で塞がれていて、誰も先へ進めない。
密集したハンターをかき分けるように、小さな駆体が姿を表した。
「ユカちん!」
身体に7つのデバイスを装着したユカリスさん。
四つん這いではいはいをするように、ハンターたちの足元をくぐり抜けてきた。
「皆のものおおおお。これは遊びじゃないのじゃ! 命がけの戦闘なのじゃ! 宝箱に目が眩むなど、敵の思う壺じゃあ!」
ユカリスさんの言葉に、ハンターたちが静まる。
「宝箱はユカちんが発見したのじゃ。全部ユカちんのもの! ユカちんのものなのじゃ!」
ユカリスさんの宣言に、ブーブーと文句を言うハンターの声。
「ユカちんのものだから、ここにいる全員で分配! それでいいか! みなのものお!」
全員に分配されると聞き、歓声が上がる。
だが、すぐにユカリスさんは唇に指を立てて、
「階層主に気づかれるのじゃ! 静かに、じゃ!」
しー、という声にハンターたちは口を閉じる。
「じゃあ、筑紫春菜。行こうか。冬夜隊長たちに宝箱を取られる前に確保じゃあ」
そういってユカリスさんは私の背中にぴょんと飛び乗り、しがみついた。
相撲取りのような巨体の首にユカリスさんはしがみつく。
「この巨体はちょうどよい。ハンターたちの先頭を行くのじゃ。ハンターが前に出られないので、完璧じゃあ。ユカちんの行動は全部うまくいくのじゃあ」
私が先頭になり、通路を進んでいく。
通路の広さは私の巨体が都合よく塞ぐことができるちょうどよい広さだった。
誰も私の脇をすり抜けて前に出るなんてことはできないだろう。
そんな状態で、黒光りのする巨大な鎧を先頭に、ハンターたちがぞろぞろとついてくる。
「ギガント重装鎧の防御力は最強じゃあ。仮に階層主に襲われたとしても、耐えるじゃろう。筑紫春菜の保護にはこれ以上の防具はないのだあ」
確かにユカリスさんの言うとおりだ。
どんな階層主が現れたとしても、この頑丈な鎧が守ってくれるはずだ。
ユカリスさんは自由帳を開き、地図を確認する。
ダンジョンデバイスを見ればいいことなのだが、手書きの地図にこだわりがあるようだ。
「この先を左じゃな」
ユカリスさんの指示に従い、曲がり角を垂直に曲がる。
少し先に宝箱が見えた。
「ひひひ。何が入っておるか……」
ユカリスさんのドローン、
5機の丸い機体が宝箱の周囲を旋回する。
「よし、宝箱を開けるのじゃ」
首にしがみついた状態でユカリスさんは宝箱へと人差し指を向ける。
私は宝箱の蓋に手をかけた。
後ろからはハンターの囁きが聞こえてきた。
「念の為、罠の確認をしたほうが……」
だが遅かった。
蓋を開けてしまった私は……
バクン!
宝箱は口を大きく膨らませ、鋭い牙で噛みつく。
まるで丸呑みするかのように、巨大な口が私の上半身を咥えた。
ユカリスさんは宝箱が口を開く直前、私から飛び降りていて無事だった。
「あぶな! 危なかったのじゃ!」
宝箱は軟体動物のように体を反らせ、私はまるでサメに噛みつかれた魚のようになっていた。
頭から肩にかけて宝箱に喰われており、でかい口が私の巨体ごと逆さまに持ち上げた。
頭が下になっているので血がのぼってくる。何もできず、ただ手足をバタバタとさせる。足は天井を向き、逆立ち状態だ。
「食われた!」
「筑紫春菜が食われたぞ!」
「巨体の頭が食われている!」
「鋭い歯で噛み切ろうとしている!」
「なんだこいつ!」
「ミミックだ!」
誰かがダンジョンデバイスで解析を行ったようだ。
その内容を読み上げていく。
――――――――――――――――
名称:ミミック(階層主その1)
推定レベル211
推定能力 宝箱に擬態
ドロップアイテム なし
討伐履歴・なし
――――――――――――――――
見える視界は真っ暗。
これほどに暗い世界がこの世にあったのか。
「暗い……。怖い……。なにこれ……」
ミミックは私を噛み切ろうと、ぎりぎりと音を立てながら鎧に歯を立てる。
歯は鎧に食い込みはするが、噛み切ることまではできない。
「さ、さすが……ギガント重装鎧なのじゃ……。なんとか耐えているのじゃ……」
真っ暗だよー、誰か、助けてよー。
私はもがくように手足を動かす。
「な、なんで……。みんな……攻撃してくれないの……?」
今がチャンスなのではないのか?
は、早く……。攻撃して……。
「だ、だって……噛みついてこないか?」
「怖えーよな?」
「歯が鋭すぎ」
「最凶、最悪のミミック」
「俺達じゃ無理じゃね?」
頼む……。早く倒してくれ……。
私が噛みつかれているあいだに……。
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