第68話 玉玉玉玉玉が映し出す光景

 ユカリスさんが送り込んだ5機のドローン。

 通称:玉玉玉玉玉。

 読み方は『たまご』


 玉玉玉玉玉たまごは軽快に宙を浮きながら220階層のダンジョンを進む。


 220階層は床にタイルが敷かれ、壁と天井はレンガになっている。


 通路のような道がまっすぐに伸び、曲がり角は直角だった。


 ユカリスさんのドローンはダンジョンデバイスとは連携されていないため、エリアのマッピングは自動で行われない。


 ユカリスさんは地面の上にノートを置き、手書きで地図を書いていく。

 ノートはジャポ●カ学習帳だ。真っ白な自由帳。

 絶対小学生だよね? この子。

 討伐隊の年齢制限は18歳のため、ユカリスさんも18以上のはずなのだが、見た目はまったく小学4年生の9歳。のちに私よりも年上だと判明するのだが、このときは小学4年生だと信じ込んでいた。


 私は階段の前で仁王立ちしながら、目だけ視線を下げてユカリスさんを見ている。


 ユカリスさんはつぶやく。


「モンスターもなにもいないのお……」


 つぶやきながら地図を書き続けている。せっかく他のハンターに気づかれないようにドローンを送り込んだのだが、配信をしているので気づかれてしまう。


 まわりには人だかりができていて、ユカリスさんの様子とデバイスに映るドローンの映像に注目が集まった。


 仁王立ちする私に注目が集まらないのは、それはそれで助かる。


「道はそれほど複雑ではない。しかし……」


 まわりのハンターも不思議そうに首を傾げる。


「ずっと通路ばかりが映ってるな」

「世界初の、地味な映像」

「5機のドローンが別の道を進んでいるのか」

「そんなに複雑な道ではないね」

「4個所に階段があって、中央あたりで合流しそうだね。そこになにかあるか?」

「モンスターすらいないってどういうことなんだろうね?」


 そのまましばらく面白みのない映像が続く。

 すると、通路の先。

 遠方になにか今までとは違う物が見えた。


「お、あれは何だ?」


 ドローンが近づいていく。


「宝箱だ……」


 赤を貴重とし、金色の金属で補強がされている。ダンジョンに時々置かれている宝箱だ。中にはアイテムが入っていることもあるが、空のこともある。

 ドローンでは調べることができないのでそのまま素通りするしかない。


「確か、討伐隊の規定でアイテムは獲得した人がもらっていいんだよな?」

「そうじゃない。『アイテム獲得に貢献したハンター同士で分配』、だぞ?」

「俺達は発見者?」

「違うだろ」


 そのままドローンは進み、5機のドローンが中央にある少し開けたエリアで合流した。


 体育館くらいの広さはあるだろうか。


 その中央に鎮座する緑色をした長方形。垂直に立っている。

 それを目にしたハンターたちがどよめく。


「え、ちょっと待て……」

「これって……。あれだよな?」

「いったいどういうことだ?」

「まだ討伐隊は220階層へ降りていないよな?」

「モンスターもいない。階層主もいない。なのにこれがある……。いったいどういうことだ?」


 ざわめく中、私もデバイスの画面を覗き込む。

 そこにあるのは扉。

 おそらくこれは……。


「階層主を倒したあとに現れる扉……?」


 誰かが呟いた。


 ドローンはその部屋を離れ、別の道を戻る。


「別働隊が220階層へ降りた!」

「筑紫冬夜だ!」

「ミランダとサキュバスも!」

「他のハンターたちもいるぞ!」


 4つある階段。その1箇所から220階層へ、お兄ちゃんたちが足を踏み入れていた。

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