第67話 220階層の調査を開始する
「うむ。筑紫春菜のかわいい顔がまったく見えぬ」
ギガント重装鎧を着ている私は中学生の女の子とは思えない体型になり、兜も外せない。
けれど、呪いを解けば装備は外せるらしいし、ダンジョンから出るだけで呪いは消えるとのこと。
「兜の前がバイザーのように上にあがるよ。これなら顔が見える」
「配信中はその状態がよいなあ」
「それにしても、みんな、この階層に来るの早かったね」
「ミリアちんが活躍したので、210階層から上は帰り道が確保できてんのじゃ。つまり、210階層までみんな大集合したのじゃ。そうしたら、ミリアちん。突然に絶対魅了を一気に発動させてしまって、大混乱んんんー。大勢の目がピカピカ光りだして面白かったぞ! そうして集団でここまで来たってわけだあ!」
周囲を見る。
それにしても目をピカピカ光らせているハンターの多いこと。
ほぼすべての男性ハンターがミリアの支配下にあるんじゃないかというくらいだ。
いったいこの場に何人のハンターが来ているのだろうか?
「今回の討伐は1200人くらいと聞いているぞお」
かなりの大人数でここに来たようだ。この219階層は人で溢れている。
とんでもないことになっているな、と苦笑する。
「そんで、211階層から下は帰り道がないから、なんとしても220階層の階層主を倒さんとならんのだあ」
「うん! 絶対に倒そう!」
「だが、何日かかることか。あるいは何年か?」
「そんなに!?」
「210階層までは道が確保されてるのじゃ。物資は補給されるし、ハンターが死んでも補充されるから、何年でも戦えるぞお」
「あの……。私、呪われてるんだけど。装備、外せないんだけど」
「呪いの装備なんて、数年に一度しかドロップしないぞお。筑紫春菜! 運がいい! しかもその装備。ミリアちんの防御力を超えるかも! すごい防御! 運がいい!」
親指を立ててサムズ・アップしてくるユカリスさん。
完全に人ごとだった。
「倒そう。1日も早く倒そう。ダンジョンを出よう……」
私は独り言のようにつぶやき、決意を固める。
お兄ちゃんには来なくていいと言われたけれど、もりもりさんやミリアにこんな姿を見られたくもない。
現在、219階層は大渋滞だ。そこかしこにハンターがいて、気をつけていないとユカリスさんとはぐれてしまう危険もある。
「じゃあ、筑紫春菜はユカちんといっしょに配信ーー。はじめるぞおー」
「はいー」
「みんな、見てるう? 今は219階層。筑紫春菜を確保したぞー」
「確保されましたー」
私はユカリスさんのデバイスに向かって笑顔で手を振る。もちろん兜のバイザーは上げている。
配信画面に映るのは、ごちゃごちゃと装飾の多い装備のユカリスさんと相撲取りのように巨大な私の姿だ。
■誰これ?
■筑紫春菜だって
■神王装備は?
■お兄ちゃんに返したんじゃない?
■ユカちんといっしょに配信してるんだ
■なんて呑気な
■まあ、階層主の討伐は長期間に及ぶしな
背景にはダンジョンの風景だけでなく、何人ものハンターが映り込んでいる。
大渋滞という言葉しか思いつかないほど、人で溢れかえっていた。
これほど人口密度の高いダンジョンはいまだかつてなかったのではないだろうか?
「じゃあ、今からユカちんは玉玉玉玉玉を220階層に送り込むぞお。史上初、世界初の映像じゃあ」
「階層主を倒しますよー」
「筑紫春菜は兄に来なくていいと言われたんじゃ」
「まあ、レベル2ですからねー」
「しかし、冬夜隊長より先に220階層を調査するのじゃ。出し抜くのじゃ」
「有益な情報をもたらしたら、褒めてくれるかな?」
「もちろんじゃ。褒めてもらうためにやるのじゃ」
「よし! じゃあ、調査開始ー」
私は元気よく腕をあげる。
相撲取りみたいに巨体な私。全身を映すと、顔はとても小さくなる。
アップグレードされたダンジョンデバイスのマッピングアプリは他のハンターの情報も共有される。
219階層は人が溢れているため、すべてのエリアのマッピングが終わっていた。
220階層へ降りるには階段を通る必要があるが、 階段は4個所もあった。
この巨体、階段を通るには本当にぎりぎりだ。
ぎりぎり……。
通れるんだよね?
たぶん、大丈夫だろう。
「勝手に階段を降りないように、監視がついておるぞ」
「まあ、これだけ人が多いと変な行動を取る人も出てきますからねえ」
「まったく、迷惑な話じゃ。常識というものを知らん大人が多い」
「ですねえ」
「ほら、あそこでも配信をやっておるぞ」
ユカリスさんが
確か迷惑系ダンジョンチューバーではなかろうか。
これだけの人数がいると、誰よりも先に220階層の配信をして閲覧数を稼ごうとする人も出てくる。
「これは、人の管理も大変だのお」
「ほんとだよ」
「自分のことしか考えていない配信者が多いぞお」
「まったく」
「ユカちんはチームBのリーダーとして、階段を監視せねばならん。冬夜隊長にそう命令されていた気がする」
「そうなんだ」
「ユカちんは命令をすぐ忘れちゃうので、裁量権があるぞお。制御不能だと、いつも冬夜隊長から褒められてる」
「たぶん、それ、褒めてない」
「でも、ユカちんはなぜか、いつもいい結果に終わるぞお。だから自由に行動させてもらっているんじゃ」
「結果は大事だからね」
ユカリスさんと私は階段の前まで歩いていく。
「皆のもの。ちゃんと統率を取るのじゃ。許可が出るまで階段を降りてはいかん。このギガント鎧が階段の見張りに立つのじゃ」
「立ちます!」
私は階段の前に仁王立ちする。
ユカリスさんが私の背後、階段の入口でこっそりとささやく。
『そのままユカちんを隠すのじゃ。玉玉玉玉玉を220階層に送り込むのじゃ』
5機のドローンが静かに階段を降りていく。私の巨体がそれを隠しているため、他のハンターに気づかれることはなかった。
「でけえ」
「なんだこの巨体は」
「階段を封鎖するには、これほどの適任者はいない」
「というか、こいつ。階段を降りられるのか?」
「けっこうぎりぎりだな」
「こんなでかい身体のハンターいたか?」
注目を浴びている。
恥ずかしいので兜のバイザーをそっと閉める。
『筑紫春菜。ナイスじゃ。玉玉玉玉玉を送り込むことに成功』
もしかして私にギガント重装鎧を着せたのはこのため?
自分の行為を隠すためだったのではないか?
そんな疑惑を抱きつつ、220階層の光景が楽しみでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます