第61話 ミリアを示す青いドットが消える
ミリアの元へと走りながら、動画を見て状況も把握しなければならない。
〝A〟の正体は不明だが、配信者を締め出すことができている。いつのまにか〝A〟は消え、そのかわりに閲覧者数がいっきに数十万へと増えていた。
どうやら視聴者は一時的な通信障害でも起こっていたと思っているようだった。
もりもりさんが甲高い声で叫ぶ。
「ミリアが襲われます!」
配信画面に映るのは見たことのないモンスター。
蟻とカマキリの合成キメラがミリアと戦っている。
ダンジョンシミュレーターで見た未来がこれなのだろう。
このあとミリアが死んでしまう感覚が残っている。間に合わない。どんなに走っても、ミリアとキメラの戦いは終わってしまう。
〝A〟はミリアからアイテムをだまし取り、能力を奪った。
キメラを操っているのは〝A〟だ。
マッピングアプリには紫の点。私たちではとても太刀打ちできないほどの強敵。それがミリアのものと思われる青い点に襲いかかり、ドットが重なる。
交錯する紫と青のドット。
ミリアを示す青いドットは動きが鈍い。
配信画面で戦いを注視する。まだミリアのいるところまでは時間がかかる。
戦闘は熾烈を極める。
ダンジョンデバイスは落ち、画面には地面だけが映る。
激しい戦闘の音。
やがて戦いが終結を迎える。
青のドットが突然に消える。あとに残るものは何もない。
ミリアを示す青いドットがそこにはなかった。
ダンジョンデバイスを強く握る。
マッピングアプリ上には青いドットがない。ということは、それが意味することは明らかだった。
もりもりさんは立ち止まり、複雑な顔を浮かべる。
「春菜さん、ミリアが……。ミリアが……」
もりもりさんもわかっているようだ。
このダンジョンにはミリアは存在しない。ミリアはいない。
ダンジョンデバイスがアップグレードされているからこそ、表示されているのは正確な情報だ。
かろうじて起動させたダンジョンシミュレーター。
未来を知ったとしても、ミリアのところまで間に合わないのだから、直接に助けることはできなかった。
代わりに私が取った行動。
――デバイスの遠隔操作
ダンジョンシミュレーターで体験した未来から感じ取った感覚だけで動いていた。
〝A〟はミリアからアイテムをだまし取っていた。
私のデバイスに格納された帰還石。
デバイスの遠隔操作でアイテムを実体化。帰還石を発動。
ミリアはモンスターに殺されたわけではない。
私がこの場から消したのだ。帰還石を使って。
◆ ◆ ◆
ミリアがいた場所へとやって来た。もりもりさんは一歩下がった場所で待機している。
目の前には蟻とカマキリの合成モンスターであるキメラが立っていた。
「なぜ知っている?」
キメラが私に話しかけてくる。ミリアを帰還石で地上に送ったことを意味しているのだろう。
「このままだと、どう見てもキメラに殺されるだけだったから」
殺されてしまうくらいなら、ミリアに生きていてほしかった。当然、そう解釈するものと思っていた。
「そうではない。お前はこの先の展開を知っていた。だからこそ、帰還石を使った。生きているモンスターに帰還石を使った事例はない。人間であればレベルが0になり、ダンジョンとの関わりを持てなくなる。しかし、モンスターを送ったらどうなるのか。そんな賭けにでられるはずがない」
そう、私がミリアを地上へ送ったのは命を助けるためだけではない。さらなる展開を予知していた。
「お前はこの先の展開を知っていた?」
私は静かに盾を構える。キメラの腕は二本とも鎌状だ。警戒すべきはその鎌だった。
「別に未来が見えるわけではない。ただ、私の直感がそうさせただけ」
「たいした直感だ」
「ありがとう」
感覚でわかる。目の前のキメラは〝A〟が操っている。これは〝A〟の本体ではない。
剣を握りながら、キメラとの距離を詰める。
地面に落ちていたダンジョンデバイスが目に入った。私のデバイスだ。
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