第42話 レベルドレイン

 もりもりさんはダンジョンデバイスをしっかり握っている。ヴァンパイアに血を吸われる私の姿がライブ配信されていた。


■ハルナっち……

■顔から血の気が引いている……

■さすがにこれは……

■過去の悲劇が繰り返されるのか……

■ああ、ハルナっちが……

■ヴァンパイアの毒牙に……


 もりもりさんはとても小さい声で呟く。


「大丈夫です、春菜さんなら、大丈夫です……」


 私の基本ステータスは視聴者にも開示されている。

 現在のレベルがみんなに見えていた。


■ハルナっちのレベルが……

■ヴァンパイアの特殊能力、レベルドレイン……

■レベルをダウンさせる能力か……

■ハルナっちのレベル、1になっちゃったよ

■あああああ、ハルナっちぃぃぃぃ

■レベル1になっちゃったよおおぉぉぉぉ

■ハルナっちのレベルが1に戻っちゃったあああああ


 首を掴んでいたヴァンパイアの手が開かれる。

 どさっという音とともに、私は地面に落ちた。


「春菜さん!」


 倒れ込む私。駆け寄ろうとするもりもりさん。

 しかし、こちらに駆けてこようとするもりもりさんに対し、私は手で制した。

 こちらに来なくていいと合図する。


「げほっ、げほっ」


 反対の手で喉を押さえて咳き込む。

 首を強く締められていたからすぐには声が出ない。


 大丈夫、こっちに来なくていい、そう目で伝えた。


 ヴァンパイアは満足そうに、私のことを見下ろす。


「はあっ、はっはっはあっ! レベル1ですか!」


 洞窟中に響き渡る高い声で笑った。


「レッサーヴァンパイアはせいぜい現在のレベルから1か2を減らすだけ。一方で、エンシェント・ヴァンパイアである私にかかれば、一気にレベル大幅ダウン! どうですか、私の能力! 私が吸い上げたEXP経験値はおよそ11億ほどでしょうか……。人間にしては、まずまずといったところですね。もとのレベルはいくつだったんでしょうね? これであなたもレベル1。さぞや絶望していることでしょう。無力な存在に成り下がったことでしょう! レベルはいくつ減ったのでしょうね?」


 私は片膝を付き、長剣を杖代わりにしてなんとか起き上がる。剣を前に構えて、エンシェント・ヴァンパイアを睨みつける。


「いいですね、その顔。その顔が好きなんですよお。その顔を見たかったのですよお

。絶望ですか? 諦めですか? ん? おや? あなたの目はまだ死んでおりませんね? おかしいですね。元のレベルが高いほど、絶望するはずなのですが……」


――土の拘束アース・バインド!!

――残像光速移動イリュージョン・ムーブ!!


 もりもりさんの魔法と私のスキルの発動が同時だった。


 ヴァンパイアの下半身は石膏のような物体で固められ、動けなくなったところを私の水平切りが煌めく。


 勝負は一瞬だった。


 ヴァンパイアの首が飛ぶ。


 何が起こったのか、わからない眼。ほうけた表情。

 スローモーションのように見え、そして首が放物線を描き、地面に落ちる。

 ゴトッ。

 ゴロゴロッ。

 地面を首が転がる。


 これで決着したと思い、私は手を緩めてしまった。感が鈍っていたのだ。


「春菜さん! まだです! まだ生きています!」


 もりもりさんの言葉で理解した。私の覚醒レベルもリセットされている。エンシェント・ヴァンパイアによりレベルドレインされているのだ。


「大丈夫です! ヴァンパイアを倒せば、春菜さんのレベルも元に戻ります!」


 そうか、そういうことなのか。


 私がフレイムドラゴンを倒せた理由。

 リビングデッドを倒せた理由。


 そして……

 もりもりさんがここまで来れた理由……


「うあああああああああ!」


 私はなんとしてもこのヴァンパイアを倒さなければならない。

 覚醒レベルを取り戻す必要がある。


 もりもりさんの魔法により、拘束されたままのヴァンパイア。

 私は両腕を切断。

 両脚をも切断。

 切断面からは、粘性の高い液体が流れ出す。紫色の血液。


 だが、覚醒レベルが戻る感覚はない。まだヴァンパイアは死んでいないのだ。生きている。


 ヴァンパイアが油断したところを急襲した。私ともりもりさんの連携は完璧だった。

 最後のとどめを刺そうとしたところ、ゆっくりと、もりもりさんがこちらに歩いてくる。


「よくやりました。春菜さん。終わりです。最後は私が……」


――巨大な土爪ジャイアントアースクロー


 もりもりさんの魔法により、彼女の腕はごつごつした岩に変わる。その指先には鋭い爪が伸びる。


「よ、よせ……。やめろ……。やめろおおおお!!!」


 地面に落ちた首が叫ぶ。首だけになりながらも、まだ生きているヴァンパイア。

 牙をむき出しにしながら、大きく口を開けて命乞いをする。


 それを無視し、もりもりさんはヴァンパイアの体へ向かった。胸のあたりに、突き刺し、心臓を引きずり出す。


「これを潰せば……」

「や、やめろおぉぉぉ……」


 もりもりさんが心臓を握りつぶす

 ぐしゃり、と鈍い音がした。

 覚醒レベルが戻る感覚。

 ヴァンパイアの絶命を知る。


 それと同時に、別の覚醒者との繋がりが戻る感覚。


 もりもりさんが無言でこちらを見つめてくる。

 私もその目を見つめ返す。


 覚醒者同士の、言葉のない意思疎通。


 そして、もりもりさんが口にした言葉。


「ようやく、帰れますね……。地上に……」


 もりもりさんは自分のデバイスをこちらに向けた。


 私たちはエンシェント・ヴァンパイアを倒した。

 もりもりさんのデバイスには獲得したアイテムの一覧が表示されていた。


 その一番上に表示されてたURウルトラレアアイテム……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る