第40話 シャワーを覗かれました
シャワーを浴び、制服も洗って、鎧も綺麗になった。
アイテム生成で松明を作って燃やし、洗った下着を乾かす。
私の下着はすぐに乾いた。なんの装飾もないシンプルなものなので乾きやすかったようだ。
乾くとすぐに下着を着て、今は私の鎧ともりもりさんの制服を乾かしている。
下着姿なので、まだ配信画面は切ったままだ。
それにしても、もりもりさんの下着は高そうで色気もある。レースや刺繍があしらわれていて。一方で、私はと言えばスポブラにキャラクタープリントのパンツ。
正直言って別の意味で恥ずかしい。
でもさ、ダンジョンに来るのにもりもりさんのようなおしゃれな下着って私には無理だ。動きやすいスポブラがいい。
ダンジョンデバイスの配信画面は切ったままだ。誰に見られるというわけでもないから下着なんて気にしない。
と、思ったのだが。
ぼごっと微かな音がした。
私ともりもりさんはすぐさま音のした方向へと目を向ける。
もりもりさんが魔法で作り出した岩壁、そこに1cmほどの小さな穴が空いていた。穴からは指が一本突き出している。
指の色は、血色の悪さを思わせる紫色じみていた。爪は長く伸び、先端は鋭く尖っている。明らかにモンスターのものだと思われた。
突き出されていた指はすぐに引き抜かれ、代わりにそこから瞳が覗く。
邪悪さを帯びた漆黒の眼球は、こちらをギロリと見据えていた。
「の、覗きです!!」
「こっちを見ています!!」
同時に叫ぶと、もりもりさんはダンジョンデバイスを操作してデバイス解析を行った。
壁の向こうにいるモンスターの情報が表示される。
――――――――――――――――
エンシェント・ヴァンパイア(仮称)
吸血鬼の始祖
未発見個体・詳細解析前
推定レベル160〜163
推定能力・処女の生血を求める・レベルドレイン:対象が処女である場合に効果が倍増
ドロップアイテム・不明
討伐履歴・なし
――――――――――――――――
「ヴァンパイアです!」
ヴァンパイア、すなわち吸血鬼だ。
■おーい、どうした?
■モンスターが現れたの?
■画面つけてよー
■何もみえないよー
様子がわからない視聴者たちは呑気なものだ。
私たちは慌てて戦闘の準備をする。
私は神王の鎧を身に着け、もりもりさんはまだ生乾きだった制服を急いで着た。
■何があったの?
■ヴァンパイアって?
「壁に穴を開けて、こっちを覗いているんです!」
私の声に、視聴者たちが反応する。
■なぬー
■許さん!
■うまやま、けしからん!
■俺たちだって見せてもらっていないのに!
■絶対、倒せ。なにがなんでも、倒せ!
■そうだ! 生かして返すな!
■瞬殺しろ!
■どうでもいいけど、映像が切れたままだよ
■もう、着替え終わったでしょ? 画面つけようよ
その時、どごーんという大きな音と衝撃で岩壁が壊された。
破壊された岩の残骸を踏み越えながらモンスターが入ってくる。
人型のモンスター。
鋭く釣り上がった目をしており、口元からは牙が覗いている。不健康そうに白い肌。全身を黒の服に身を包み、背中には地面まで届くほどのマントを羽織る。
もりもりさんが説明する。
「こいつは吸血鬼。ヴァンパイア、私たちの天敵です」
もりもりさんはダンジョンデバイスの映像をオンにし、私の直ぐ側で配信をしてくれている。
ところが、私たちが何の行動を取る間もなく、ヴァンパイアは右腕を水平に持ち上げ、人差し指を真っすぐ伸ばした。
ただ、腕を上げ、指をこちらに向けただけだ。
その指の先、照準はもりもりさんの肩だった。
――ビュウウンッ
紫色の閃光が走った。まるでレーザー光線を思わせる攻撃はもりもりさんの左肩を貫いた。
「ぐああああ!!」
もりもりさんは叫ぶ。
肩には小さな穴が貫通しており、血がどぼどぼと流れ出す。
健気にも配信を続けながら、苦痛にあえぐ。
明らかに重症だ。それでも片膝を付きながら、痛みを堪えている。
「もりもりさん! 大丈夫ですか!!」
「く……。ううぅ……」
あまりの激痛なのか、もりもりさんは言葉を出すことすらできない。それでも右手に持つダンジョンデバイスは離さなかった。
ヴァンパイアが私たちに向けてしゃべりだした。
「なんだ? その脆さは? なぜ、ろくな装備もなく、こんな深層にいるのだ?」
今度の敵は、最初から流暢に会話をしてくる。おそらく、かなり知性が高い。いままでになく、知的な存在が現れたことを確信した。
■まずいぞ
■いままでの敵とは違うかも
■人間と同等の知能を持っている可能性がある
■俺たちの知能を超えていなければいいけどな……
もりもりさんは左腕をだらりと垂らしている。私はそこへ回復ポーションをかけた。
「もりもりさん! 回復ポーションです! これで回復しませんか!?」
「これだけの傷だと、動かせるまでに数時間……。完全回復には3日ほどかかるでしょう……」
「そんなに!?」
ヴァンパイアは見下ろすように私たちを睨みつけてきた。
「弱い。弱すぎるな。うずくまるお前は処女ではないな。そっちの女には用はない。金の鎧の女。お前はどうだ? 処女か? 私の求める生き血を、お前は提供できる女なのか?」
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