第38話 シューターを探す

「ずっと泥が続いていますねえ」


 私はもりもりさんに話しかける。


「そうですね。どこまでも続いていますね」


 後ろを振り返ると、降りてきた階段がある島がかなり小さくなっていた。


「だいぶ歩いてきましたね」


「今のところ、モンスターの反応はありません。けれど、この足場が悪い状況は私たちに不利です」


■ぽんた:泥の中にシューターがあっても、マッピングアプリには映らんからな

■アクゾー:さすがにわかってるでしょ

■ぽんた:もりもりさんとやらも、ベテランっぽいしなあ


「なるほど、足で探りながら進んでいきます」


「春菜さん、私が先を歩きましょうか?」


「大丈夫だと思うのですけれど……。それより、ここはすごく広いですね」


「そうですね、この広さもダンジョンの罠かもしれません」


「罠? どういうことですか?」


 私はもりもりさんに訊ねる。


「ダンジョンの恐ろしさはモンスターばかりではありません。各所に張り巡らされた罠と、下の階層へと落とすシューターとがあります」


「なるほど」


「ダンジョン管理協会によると、ダンジョン自体が特異な才能を持つものを引き寄せる誘引剤なのではないかという説があります。そのための罠なのではないかと……」


「どういうことですか?」


「ダンジョンは下の階層へ行くほどに魅力的なアイテムがあります。より下の階層へと私たちを導いているのではないか、そしてそれには目的があるのではないかと言われています」


「目的ですか? なにかの理由があってダンジョンが生まれたということでしょうか?」


「ええ、ダンジョンは間違いなく、何らかの意図によって作られています。ここはまるでゲームのような世界。これは優秀な人間を殺すため? それとも……選別? あるいは……」


 もりもりさんは自分に問いかけるように呟いていた。私は彼女に聞き返す。


「ようするに、私たちは下へと導かれているかもしれないということでしょうか」


「わかりません。ですが、217階層のこの状況。モンスターもいなければ下へ行く階段も見当たらない。私たちはこの泥の中からシューターを探さなければならないかもしれません」


「このなかから!? そんなの……とても無理ではないでしょうか。広すぎますよ!」


「これも罠の一種なのかもしれません。私たちが試されていると考えると……」


「ここを突破し、下の階層へといかなければならないことは間違いないですよね。理由が何であれ」


「ええ、そうですね」


「もりもりさん、シューターは人が乗ると重さで開きますよね?」


「その通りですね」


 私はあることに気がついた。


「シューターは泥の重さでも開くものでしょうか?」


「人の重さより重くなれば開くかもしれませんね」


「なら、この脛の高さの泥というのも意味があるのかも。つまり、これより重いとシューターが開いてしまうはずです。だとしたら、私の神王スキルで重力を増加してしまえば……」


「マッド・エイプの時に使っていたスキルですね。重力を操作する」


「ええ、試してみてもいいでしょうか?」


「いけますよ、春菜さん。お願いします」


 私は範囲を拡大し、極大重力エクストリーム・グラヴィティを発動させる。


 すると、ある一角で泥の水位が一瞬だけ下がった。わずかな時間だけシューターが開いたのだ。


「あそこです! 春菜さん!」


 この広大な泥の海でそれは一箇所だけ。

 およそ発見が困難だと思われるシューターの存在。


「かなり遠いです。泥を固めて土にしますので、土の上を走りましょう!」


「はい!」


 もりもりさんが魔法を発動させ、シューターまでの一本道ができた。

 私ともりもりさんはその道を全力で走る。


 シューターがあると思われる場所の真上までやってきた。


「では、もとに戻します。土の状態を解除しますね。泥だらけになるのを覚悟してください!」


「はい!」


 もりもりさんが魔法を解除すると、足場がなくなる浮遊感。泥の中に足先から潜り、そのまま頭まで一気に沈む。


 目をつぶり、息を止め、泥の中に潜る。すぐに泥の圧迫感から開放される感触があり、私たちは218階層へと降り立った。


 頭上からはいっしょに泥が振ってくる。

 泥だらけの身体に、さらに泥をかぶってしまった。


 私も、もりもりさんも、頭から顔から、全身まで、完全に泥どろだった。


「あははは、春菜さん。すごい顔ですよ」

「もりもりさんも!」


 私たちは大笑いした。 


「二人とも、泥だらけです!!」

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