第33話 マッド・スライムを倒す
私の剣が背中に刺さったまま、マッド・エイプは視界から消えていった。
「うわああああ……! お兄ちゃんに怒られるう……!」
両手で頭を抱えながら、天井を仰ぐ。
私の心は絶望的だった。
この配信のことはお兄ちゃんに知られてしまっている。
いままで怒ったことのないやさしいお兄ちゃんだけれど、さすがにこれはまずい。
結婚が決まったお兄ちゃんに、ちょっと嫉妬心を抱いて持ち出した装備だ。少し困らせようと思っただけだった。
超高額装備だなんて知らなかったのだ。
「なんとしても、神王の長剣を取り返さなければなりません!」
■ぽんた:そんで、あのモンスター、表示は何色だったん?
「紫……です……」
■ぽんた:強敵やのお。お嬢ちゃん、がんばりやあ
「くそお! くそお!」
私は八つ当たりで泥を踏みまくる。
分裂して弱くなっているであろうマッド・スライムは私の敵ではなかった。
司令塔がいなくなり統率が取れていないのだ。
とんでもない力を発揮していたのは連携が取れていたからであり、今のマッド・スライムはただの弱いスライムだ。
ピロン、ピロン、とデバイスからは経験値獲得の通知音。
同レベル前後の敵を倒した扱いになっているらしく、たいした数値ではない。
それでもまた司令塔が戻ってきて連携されてしまってはやっかいだ。
私はできるだけ多くのマッド・スライムを踏みまくっていった。
足元はマッド・スライムと泥とが混ざっている。
泥はとびちり、私の装備に跳ねてくる。
■ぽんた:お嬢ちゃん、泥だらけやでぇ。金色の装備がだいなしや。顔にも泥はねてるで
「わかってますけど、敵を倒すのが優先です!」
私は懸命に泥の上で足踏みを繰り返す。
おおよそ、ほとんどのマッド・スライムの討伐が終わった。
「よし、マッド・スライムめ。私の強さがわかりましたか!」
■徹底しているな……
■初心者がよくやる雑魚いじめ?
■まあ、倒しておくのは戦略的に正しいけれど
なんだか、身体が気持ち悪い。鎧の中がぬるぬるしていた。
泥が装備の中にまで入ってきていたのだ。
「うわああああ。泥が鎧の中にいいいい」
気持ち悪い感触に、思わず身悶えしてしまう。
■そりゃ入るよな
■鎧、脱ぎなあ
■その下って中学校の制服だっけ?
■洗ったほうがいいんじゃないの?
■大丈夫、俺たち、目つぶっとくよ
「脱ぎません!」
私は叫び、ダンジョンデバイスのレンズに飛んだ泥を指で拭った。
とりあえず、マッド・スライム。討伐完了です!
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