第32話 学びましょう
とにかくこのマッド・スライムとの膠着状態をなんとかしないといけない。
リビングデッドの時はここから一斉に表示が紫に変わったのだ。
絶対に油断はできない。
いきなりスライムが飛びかかってきても対処できるように意識をしておく。背中には盾がある。いざとなったら盾で防ぐしかない。
神王の小手を外し、素肌をさらす。
指先で私の足首を掴んでいる泥の手を触ってみる。
「大丈夫です。肌は溶けないようです」
■勇気あるな、ハルナっち
■指が溶けてたらどうしてたん?
■リビングデッド戦でポーションを獲得したとみた
■泥にダイブできるかどうかの確認?
「飛び込みません!」
別の意味で、何としても泥に埋もれてしまうわけにはいかなくなった。
「というか、マッド・スライムは私を窒息させることが目的なのでしょうか?」
■どうなんだろうね?
■攻撃してこないね
■リビングデッドの時も攻撃はしてこなかったけどね
■なんか、わかんないんだけどさ。もしかしてハルナっちすぐには攻撃されないんじゃない?
「どういうことでしょう?」
■やっぱりその装備だと思うよ。ハルナっちが今している抵抗ってさ、とんでもないパワーなんだよ。だから、モンスターとしても様子を見る必要がある。
■ハルナっちがスライムを観察しているように、ハルナっちも観察されているのかも
■確かに、リビングデッドからはそういう印象が伝わってきた
■このマッド・スライムも、
「なるほど」
片足を上げながら考える、さすがにそろそろ限界が来ていた。
田んぼのカカシじゃないのだ。いつまでもこのポーズをしているわけにもいかない。
「つまり、私の力を認めていると。私を警戒しているのですね」
■装備な
■装備がすごいから
■市場価格84億円だから
「さて、じゃあ、そろそろ私の強さを示しましょうか」
■どうしたハルナっち
■神王装備の威力を見せてくれるの?
「そうではなく。私が意味もなく足を上げ続けたと思っているのですか?」
■おお
■もしかして本当に軍師だったか?
ダンジョンデバイスを操作し、マッピングアプリから表示されているドット数を算出する。1000以上に細かく分裂しているのだ。
「私が足に力を入れた時、マッピングアプリで表示されているモンスターの動きを見ていました。こいつらは、とても細かく分裂しています。そして、一部が動くと全部が連動しています。つまり沼全体で一匹のマッド・スライムなのでしょう」
■なんだかハルナっちが急に賢くなったみたいだ
「私はもともと賢いです。中学校でしっかりと学んでいるのですよ。それで、こいつらは分裂することによって、本当にレベルが2とか4とかになっているんです。ということはですね……」
■ということは……?
「こういうことです!!」
私は神王の長剣を握り、天井に向けて一気に放った。
長剣は飛び、頭上にいたモンスターに突き刺さる。
「私のレベルなんてわかるはずがない。マッド・スライムは知能が低い。そして誰かがどこかで、私のダンジョンデバイスを覗き見ないと、ドットの色なんてわからないんです。つまり、どこかで私のデバイスを見ていた。そして、マッド・スライムを操っていた」
――ギウオオオオオオゥゥゥゥ
天井から唸り声が聞こえてくる。
「動かない点が1個だけあったんです。私はそれを見逃さなかった!」
ダンジョンデバイスを真上にいるモンスターに向ける。
――――――――――――――――
マッド・エイプ(仮称)
猿系
未発見個体・詳細解析前
推定LV 152〜155
推定能力・不明
ドロップアイテム・不明
討伐履歴・なし
――――――――――――――――
マッド・エイプは天井に逆さになって張り付いていた。
かなりの大きさをした猿のようなモンスターだ。
背中には私の剣が刺さっている。
天井にある石を掴みながら、歩行を始める。あまり速い速度ではないが、泥に埋もれているこの状態では追いつけない。
私から遠ざかるように天井を伝っていく。
ようするに、逃げ出したのだ。私の神王の長剣が背中に刺さったまま。
「ちょ、待って。逃げないで……」
泥に足を取られて、追いかけることができない。
まずい。これは、絶対にまずい。
マッド・エイプが視界から遠ざかっていく。背中に垂直に刺さっているのは長剣。そのまま天井の岩を伝って行ってしまった。
「しまった、他の武器は持っていないのに……」
■……やらかした……
■……神王の長剣……ロスト……
■なぜ、同じ失敗を繰り返す?
視聴者のコメントが私の胸に突き刺さる。
■ぽんた:12億円の装備を一発で失う初心者
■アクゾー:これが素人の怖いところ
■ぽんた:コスプレ装備じゃないんだから、武器は大事になぁ
「うーーー……」
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