第19話 実は怖いのが苦手です
廊下の片側が窓のような装飾。
反対の右手側に鎧がぞろっと並んでいる。
さっきまではただの飾り物としか思っていなかったのに、もう得体のしれないものがぞろっと並んでいるようにしか思えなくなっている。
ぞろぞろと並んだ西洋風の鎧。
身体はまっすぐに反対の壁を向き、頭だけが全部私の方を向いている。
つまり、首だけをこちらに向けている状態。
とりあえず、見なかったふりをして、ゆっくりと歩きだすと、何が起きていたのかがわかった。
鎧たちは歩いて動いていたのではない。
まるで床の上をスライドするかのように、私の移動と合わせていた。
音もなく、滑るように動いていたから、映像の中では止まっているかのようにも見える。鎧が止まっていて、廊下が動いているとも錯覚された。
いやあ、不気味だ。
ぽんたさんたち、よく気が付きましたね。
それで。
ずっと、まっすぐ先まで鎧が続いております。
後ろもずっと鎧です。
まるで無限に続いているようです。
とんでもない数がいます。
鎧は私の歩調に合わせてきています。
スライドするように滑りながら、ついて来ます。
同じ鎧がずっと右側にいます。
えっと。
どうしましょう。
走って逃げる?
どこに?
廊下はまっすぐ続いております。
前に逃げても、そこには鎧がいます。
もちろん後ろにもおります。
これって、いっせいに襲ってくるパターンですか?
■ぽんた:いつ襲ってくるだろか
■アクゾー:ワクワクが止まらない
■ぽんた:おいらも
■アクゾー:いやあ、安全な場所から見てるワレ
■ぽんた:高みの見物とはこのことですなぁ 飯うま
ぐわああああ。
他人事だと思ってーーー。
こいつら、こいつらはあああ。
どうしたらいいのか、案だせよ。案をーーー
■ぽんた:ちょっとトイレ行ってきていい?
■アクゾー:いってら
■ぽんた:大きいほうやで
■アクゾー:わら
お、お、お、おまいらあ
ウンコなら後でしろ! あとで! こういうときは我慢すんだよおお!
■ぽんた:いいとこ見逃したくないので、トイレで観ることにした
■アクゾー:我慢するよりええな
■ぽんた:どっちを?
■アクゾー:トイレを我慢するのはよくないわ
■ぽんた:うんこしながらエンタメ鑑賞 いい時代やわ
■アクゾー:ほんまやねえ ダンジョンデバイスがある時代に生まれてよかったわ
私はもうコメントを見ないことにした。コイツラは当てにならない。
そもそも、ほら。まだ鎧が敵だとは決まっていない。
ここは人類未踏の地。何が起こるかわからないし、誰も予測なんて不可能だ。
まだ襲ってきていないのだ。
私は何も考えることができず、機械のように歩き続けた。
自分でなんとかするしかない。
でも、できるのか?
なにごともまずは現状把握から。
えっと、歩きながら私のすぐ横に鎧がおります。右の壁際におります。
ずっと滑るように横をついて来ます。
まだ襲ってきません。
真横にいますので、体も顔も、こちらを向いております。
兜の奥はどうなっているのでしょう?
視線の端で捕らえていて、横を向く勇気がございません。
でも、気の所為でしょうか?
なんだか、鎧の兜との距離が近づいているような。
えっと、迫ってきていません?
横をついて来るだけじゃないの?
そんなに顔を寄せないでくださいませ。
兜は今にも私の頬に触れそうなくらいに近い。
ぐぐっと顔を寄せてきます。あと数センチの距離。
えっと。
あのね。
私、女子中学生なんです。
14歳の女の子なんです。
こんな年端もいかない女の子の顔に迫るって、あの……。マナー違反なんじゃあないでしょうか?
顔が近い。近いですよ。
ほら、それ、犯罪ですよ。
斬っちゃっていいですか?
神王の長剣で斬っていいですか?
鎧は首から上だけをぐぐぐっとこちらに伸ばしてくる。
私の顔に兜がくっつきそうだ。
触れたら犯罪ですからね。
触ったら死刑にしちゃいますよ! 一刀両断しちゃいますよ!
横目でそっと見てみます。
兜の奥。眼のような2つの光が見えます。
何かがおります。
この中には何かがおります。
こちらを見ております。
じっと見ております。
不気味に光ってます。眼が光ってますよぉぉぉ。
怖いです。
おしっこをちびってしまいそうです。
お化け屋敷だってなんともない私が、まじでびびっております。
遊園地にある、あれは作り物じゃないですか。
ここはまさに、本物のリアル。
恐怖がすぐ横にいるのです。
あまりの恐ろしさに、漏らしてしまうことって本当にあるのかもしれません。
おしっこが1滴でも漏れたら、そこで配信は中止となります。どうかご了承ください。すぐさま配信は切ります。即、切断です。ご理解ください。
女子中学生がお漏らしした姿を世界中に流すわけにはいきませんから。
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