セクハラ鎧(アーマー)に鉄槌を

第18話 廊下を歩きます

 完全に景色が一変していた。


 ここまでのダンジョンは自然物で構成されていた。洞窟状になっているダンジョンの壁は土や石や岩でできていた。


 シューターで落ちてきたこの場所には真っ赤な絨毯が敷かれている。廊下のようになっており、ずっと奥まで伸びていた。


 床は磨き込まれた大理石のようだった。壁は白く、装飾が施されている。天井からはシャンデリアがぶら下がり、周囲を明るく照らしていた。


 私が両手を広げて3人分くらいの広さ、少し広めの廊下といった感じだ。ここからずっと真っすぐに、前にも後ろにも続いていて廊下はかなり長い。


 ダンジョンの地下だから、当然のように窓なんてあるはずがないのだけれど、窓のような枠と、ガラスの代わりにはコンクリートを打ち付けたかのような壁がある。


 廊下の左右に扉は見当たらない。部屋があるようには思えず、ただ廊下がまっすぐと続いている。


 ここはお城の廊下をイメージしたような人工的に作られた空間だった。


■ぽんた:こんなの見たことねえぞ

■アクゾー:よくできたフェイクだな……ってフェイクじゃねえのか

■ぽんた:今までとは明らかに違う

■アクゾー:それにしても、216層って


「ぽんたさん、アクゾーさん、おひさしぶりですー。チャンネル登録ありがとうございますー」


■ぽんた:お、おう すまんチャンネル登録忘れてた


「ドラゴン倒したの、見てくれましたかー?」


■ぽんた:見たし、切り抜きも作った。俺っちのチャンネルも5千人増えた


「すごいですね!」


■ぽんた:いや、あんた、60万人やん

■アクゾー:おいらもおこぼれ貰った Thanks


「お役に立てて幸いです」

 その時、チャンネル登録者数の数値に変化があった。


■ぽんた:ほら、チャンネル登録しといたぞ


「ありがとうございまーーす!」

 私はからからと笑いながら、笑顔でダンジョンデバイスに手を振る。


■ぽんた:うわあ 軽いなあ

■アクゾー:もう有名人やな

■ぽんた:おいらの一票なんてゴミのようなもんやな

■アクゾー:わてら自体、ゴミのようなもんですやん

■ぽんた:一票の重みってやつ、もう知ることないかもなあ かなしいなあ


「えー、そんなことないですよー。嬉しいですよ。ありがとうございますー」


■ぽんた:ところで廊下の脇に鎧が何体も並んでるな


 私はぽんたさんのコメントを見て、周囲を見回す。廊下はまっすぐ伸びていて、どちらが右か左か区別が難しい。自撮り棒を持っている左手を目安にする。


 左側には窓のような飾りがずっと奥まで並んでいる。反対の右側には扉がありそうなものなのだけれど、その壁にはなにもない。そして、間隔を開けて、西洋風の等身大の鎧が飾られていた。ずっと奥まであるので何体だろうか。たくさん並んでいる。


■ぽんた:定番パターンとしては、あいつらが動いて襲ってくる

■アクゾー:リビングアーマーってか?

■ぽんた:カクヨムとかの小説でよくある展開?


 私は鎧の近くへ行き、顔を近づける。


「動かないですよー」


 指でツンツンとつついてみた。反応はなにもない。


「じゃあ、ちょっと奥へ行ってみますね」


 すると2人からコメントが入る。


■ぽんた:動いてる! 動いてる!

■アクゾー:見ろ! よく見ろ!


「え?」

 私は振り向く。見ている景色は何も変わらない。


「なんにもないじゃないですかー」


 けたけたと笑いながらダンジョンデバイスを廊下の先へ向けて歩き出す。

 デバイスの撮影は360°カメラだ。

 視聴者は好きな角度で映像を見ることができる。


「じゃあ、いっちゃいましょうー」


 陽気に言いながら、ダンジョンデバイスを持った腕とは反対の腕を振り上げる。

 ちなみに、神王の長剣は背中に盾とともに据えている。


■ぽんた:動いてるじゃねえか! こっち来てるじゃねえか!

■アクゾーた:振り返れ! 振り返れ!


 私はコメントを読んで振り返る。

「ん?」

 やはり何も変わったところはない。

 首を傾げる。


 また前を向いて歩き出す。


■ぽんた:だからー! ちゃんと見ろー!

■アクゾー:見ろって言ってんのよおう


 振り返る。それでも、やはり何も変わらない。

 首を傾げながら、応える。


「何を言ってんですか、さっきから。何も変わっていないじゃないですか」


 私はすぐ横にある鎧を指でつんつんと突く。


「ほら、さっきもこの鎧、ここにありましたし」


■ぽんた:いい加減わかれ! おかしいってよお


「あ、なるほど。そうやって私を怖がらせようと……。何も変わってませんよ。そんなんで怖がるわけないじゃないですか」


 にひひ、と笑った私に。


■ぽんた:お前! 歩いて進んでるじゃねえかよお なんで同じ鎧を突けてんだよお


「あれ?」


 やっと、なにかおかしいと感じて見回す。

 廊下の鎧たちがとてもゆっくりと動いていた。首から上だけを静かに、少しずつこちらに向けている。とても遅い動作で、ゆっくりゆっくりと動いている。

 私はただ、その様子を固まって見ていることしかできなかった。


■ぽんた:鈍すぎだぜよお

■アクゾー:こいつ、ほんとにドラゴン倒したのかねぇ?

■ぽんた:おれっち、チャンネル登録はずしていい?

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