第14話 戦闘開始

 フレイムドラゴン・ロードの巨大な眼球が私の目の前にある。

 眼球に刺さった神王の長剣にゆっくりと手を伸ばし、柄に手をかけて一気に引き抜く。


「取り返しました!」


 長剣を引き抜くと同時に、眼球の傷に魔物石モンスターストーンを押し込む。そう、これこそが作戦のための仕込み。しっかりと奥にまで差し込んだ。

 地上に持ち込んだらテロにも使われてしまう危険性のある魔物石。モンスターを生み出すこの石がドラゴン討伐のための鍵となる。


 剣を取り返した私は、急いで逃げる。

 制服姿の私は襲われたらひとたまりもない。

 すぐにこの場を離れ……。


 ん?

 気のせいか? 前にもこんな経験をしたような。


 安全地帯まで逃げ、神王装備で全身を包む。

 私は神王の長剣をみごとに取り返した。頭上に高く掲げる。


 お祭り騒ぎで、きっと登録者数があっという間に15万なんていっちゃうんだろうな、と思っていたらその通りに軽く突破した。


 もりもりさんからのコメントが入る。


 ■もりもり:それで、例の仕込みはどうなったのですか?


「ばっちりですよ!!」


 私は握りこぶしを作る。フレイムドラゴン・ロードの眼球に魔物石をねじ込んだ。

 これからが本番だ。

 私の生息域をおびやかしやがったフレイムドラゴン・ロードを討伐してやる。


 もちろんLV2の私が倒せる可能性は低い。それは限りなく低いだろう。

 けれど、このままではここで死ぬだけだ。

 たとえ無理でも、抗えるだけ抗わなくてはならない。

 私が勝つ可能性は1%にも満たないだろう。

 おそらくはここで死ぬ可能性が高い。

 死ぬのが早いか、遅いかの違い。いつ死ぬか、どうやって死ぬかの違いだけだ。

 だけど、死を待つのだけは嫌だ。

 そうするくらいなら、ドラゴンに立ち向かう。

 だから、私は戦うのだ。


 神王の長剣は取り返した。

 あとはどれだけドラゴンにダメージを与えることができるのか。


 眼球のような柔らかい部分は剣が刺さるだろう。だが、皮膚はどうだろうか。

 マグマの海に浸っていてなんともないのだ。かなり頑丈だろう。

 まずは4層構造の一番下、215層でドラゴンの足元が見える場所まで移動する。


 私は叫ぶ。

 神王スキル、『発動イグニッション! 空間収縮ユニバース・リジェクト!』


 超高速移動でドラゴンの足元へと飛び、剣で切りつけた。

 右足の後側。アキレス腱と思われる箇所。

 当然のようにカキーンと弾かれ、与えたダメージはゼロ。


 フレイムドラゴン・ロードは足元にたかった蝿でも追い払うかのように、尻尾をふるった。あたりにはそこら中にマグマの海がある。マグマが大波となって襲いかかってくる。

 私は慌てて戻り、上層へつながる通路へと逃げ込んで、上へ上へと走る。


 ここでも使うのは神王スキル。

 空間収縮ユニバース・リジェクトを何度も使い、今度はドラゴンの左肩が見える場所へと移動。


 短時間でドラゴンの対角線へと移動したことになる。


 これほど速い速度で移動できるとは思うまい。

 ここで使うのは羽付きモンスターからドロップした『飛翔翼』。3秒間の飛行が可能だ。


 3秒の滞空時間プラス私の空間収縮ユニバース・リジェクトを使ってドラゴンの左肩に降り立ち、垂直に神王の長剣を突き立てる。


 ガキィッ!! と激しい音がするが、やはりダメージはゼロ。硬い。硬すぎる。

 ドラゴンの首がこちらを向くように動く。やつの視界に捉えられる前に、私は離脱。


 素早く反対の右肩が見える場所へ移動。

 同じように肩に降り立ち、剣を突き立てる。

 そして同じように弾き返され、ドラゴンの首がこちらを向く。


 予想通り。

 右眼が見えないフレイムドラゴン・ロードはこちら側の反応が鈍い。


 神王スキルにこそ反応しているが、基本は視界による情報が主体なのだ。

 ドラゴンにとっては右側半分が暗闇。

 ここから私はドラゴンの右側を中心に攻撃を繰り返す。

 カキーン、カキーンと金属音が繰り返される。

 私なんてドラゴンから見たら、うっとおしい蝿か小虫にしか見えないだろう。

だが、そのうっとうしさが極限までやっかいなものだったとしたら。

 ただでさえ、何日もイライラさせられていたのだ。

 怒りが極限にまで達していてもおかしくない。


 ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。

 ブレスの前触れだ。

 洞窟ごと、私を丸焼きにするつもりだろう。

 

――ゴアアアアアッッッ!!!!


 咆哮とともに、ドラゴンの口から豪炎が放たれる。

 だが、私はそこにいない。


 少し離れた場所、ドラゴンからは視界になっているであろう別の洞窟の出口からその様子を見ている。ドラゴンの目の前の壁が真っ赤に染まっている。


 灼熱の炎にあぶられ、壁が丸焦げになった。


 ドラゴンはブレスを繰り返す。


――ゴアアアアアアアッッッ!!!!


 このブレスにいつかは巻き込まれるであろうことは間違いない。

 今、私が生き残っているのはたまたまかもしれなかった。


 ドラゴンは私の生死を確認するためか、その頭の左側をこちらに向ける。巨大な左眼と視線が交錯する。

 目を合わせている暇なんてない。私は洞窟の中に引っ込む。後ろを向くと、出口に見えるのはドラゴンの喉。


 やつめ。洞窟の入口にその大きな口を押し付け、ブレスを流し込む作戦のようだ。やばい、これだけはやばい。

 

 私がいるのは212層部分。目の前には下の層へと落ちるシューター。

 急いでシューターに飛び込む。


 逃げた私をドラゴンは補足できていないようで、やみくもに洞窟内へブレスを送り込んでくる。

 洞窟はどこもかしこも火の海だ。いったいいつになったらブレスが途切れるのか。

 さすがに永遠に攻撃できるなんてことはないだろう。絶対に休まなければならない時が来るはずだ。


 洞窟内にはあちこちに低級ブレッドを配置してある。これは安全な場所を確かめるためのものだ。


 ドラゴンがブレスを洞窟内に注入するということは、ブレスが届く範囲の限界を見極める必要がある。ブレッドが丸焦げということは私が丸焦げになる可能性がある場所だということだ。


 ブレスが奥の奥まで届くのならば、もう私に勝ち目はない。それこそ不可能な戦いということでしかない。

 洞窟はくねくねと曲がりくねっている。ブレスは私達が想像していたよりも、奥には入ってこない。

 どうなんだ? これは?

 勝つ目があるということか?


 あとはやつに致命傷を与えることができるかどうか。その手段。


 ドラゴンの右眼に埋め込んだ魔物石。

 私がしかけた罠。

 

 さあ、どうだ?


 お前はどう行動する?

 うざい私をどうやって殺そうとする?


 知恵比べで人間様に勝てると思うなよ。チャンネル登録者数は現在15万人。

 こっちは15万の頭脳で戦っているんだ。

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