第13話 ここにいる理由

 チャンネル登録者数15万人、閲覧者数は50万人を突破。

破竹の勢いで伸びまくる私のライブ配信。


 いつのまにか『ハルナっち』なんてあだ名もつけられ、ネットの向こう側ではお祭り騒ぎのようになっている。けれど、私は命をかけているのだ。

 もしかしたら、5分後には死んでいるかもしれない。


 だけど、それは私ばかりではない。

 現在ワールドランク1位のミランダさんだって、そして私のお兄ちゃんである筑紫冬夜だって、探索するのは未知の領域。戦うのは、誰も出会ったことのない未発見モンスター。いつだって、命がけだ。


 ドラゴンの倒し方なんて、誰も知らない。

 私だけが特別なんじゃない。

 未踏破領域を突き進むのは誰もが命がけだった。


 ダンジョンチューバーになりたい、そう思う子は多い。もちろん私もその一人だ。

 一昔前は将来の夢がユーチューバーなんて時代もあったそうだ。でもそれはもう、過去のこと。

 今やあこがれの対象はハンター。


 人類のために命がけで戦う、その姿にこそ憧れたのであって、けっしてふざけた動画を配信したいわけじゃない。

 私がなりたかったのは、お兄ちゃんのような存在だ。


 命をかけて未知の領域へと足を踏み入れる。

 誰も戦ったことのない、倒す方法が知られていないモンスターを倒す。


 まさに、そんな憧れの存在になりかけてはいるのだけれど。

 実際にこの場に来てみると、自分が抱いていた夢なんて浅はかだったのだと思い知らされる。


 ほんとうに倒せるのだろうかと不安になる。

 いや、可能性としては倒せるはずがない。

 私はまだLV2だ。覚醒レベルというわけのわからない謎レベルこそ上がっているが、能力としての意味があるわけではないらしい。

 強さとしては、たったのLV2でしかない。


 あまりにも非力すぎる存在。


 いったい全体どうやってフレイムドラゴン・ロードを倒せというのか。

 もちろん作戦はあるにはある。

 視聴者さんが考えてくれた作戦と、私の作戦の組み合わせ。

 これがどこまで通用するか。

 だめだったら、ここで朽ち果てる。

 助けもあてにできず、この場所で絶命する。

 これが現実。

 やるだけやって、手を尽くして、それでも駄目なら、駄目。不可能なものは不可能。

 そうしたら、私は本当に死ぬ。

 本当に死ぬのだ。

 死ぬ?


 ふふふ。


 なんだろう、これ?


 死ぬ気がしない。

 なんで私は自分が死ぬと思っていないんだろう?

 現実逃避?

 いや、違う。


 なんだ? これ?

 なんで負ける気がしないんだ?


 絶対倒せないであろう、討伐不可能とも思える相手。


 フレイムドラゴン・ロード


 マグマの海に浸る巨大な龍。


 そうだよ。

 見たことがあるじゃないか。


 この光景。

 見たことがある。


 あるんだ。


 なんだ、これ?

 なんなんだ?


 私はダンジョンデバイスを通して見ていた。

 かっこいいハンターの姿。

 女性ハンターが、とても倒せないようなモンスターに立ち向かう。

 私はそれを熱狂して、興奮して、没頭して、夢中になって、画面に食いついていた。

 画面の向こう側の、あれは誰?

 誰だったの?

 ランク1位のミランダさん?

 いや、違う。


 違うよ。


 そういうことか。

 そういうことなのか。


 ダンジョンがこの世界に出現した理由。


 そして、人類が滅びに向かっていて、それを食い止めなければいけないこの状況。

 なるほど……。

 私が今ここにいる理由。

 それがわかりかけている気がする。

 

 私の存在理由とダンジョンの成り立ち。

 いったいこのダンジョンはなんなのか?

 誰が、なんの目的で作ったのか? なぜここにあるのか?


 すべてはそのことのためだ。

 お膳立てがされていた。

 私は導かれてここにやってきた。


 なるほど、覚醒レベルってそういうことね。

 口元が緩む。

 思わず顔がにやけてくる。


 フレイムドラゴン・ロード?

 倒してやろうじゃないか。


 さすがに楽勝というわけにはいかない。

 かなり苦戦するはずだ。

 でも、負ける気がしない。


 しかし、条件が悪いよね。『前回』のようにはいかないだろう。

 本当の意味で死と隣り合わせだ。ひりつくようなこの感覚……

 悪……く……ない……


――ブウゥゥーーンン


 高周波のような音が脳の奥で鳴る。

 時間が巻き戻るような感覚。

 がくり、と頭が垂れる。


 大丈夫か? どうしたんだ? と私を心配するコメントが流れる。

 大丈夫、ちょっとぼうっとしてただけ。


 何考えてたんだっけ?

 1,2分の間の記憶が飛んでいた。

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