第15話 ドラゴンの最期

 逃げて、逃げて、逃げまくる。

 ドラゴンのブレスは、計12回。12回でいったんは打ち止めということだ。

 次のブレスまでの時間はわからない。

 そして洞窟の奥に引っ込んだ私に対して、何もできないドラゴンのイラつきは頂点に達しているだろう。


 まあそうだよな。

 わざと怒らせているのだもの。

 ドラゴンは思いっきりマグマを口に含み、上層から流し込んでくる。

 だけど、きっと喉の奥まではマグマから保護されていないだろう。


 さすがのドラゴンも必ず弱点がある。

 どこもかしこも硬いなんてことは絶対にありえない。あったなら、勝つのは不可能だ。

 しかしまあ、誤算というか、予想通りというか。

 このフレイムドラゴン・ロードはロードの名を冠しているだけあって知力が高い。


 フレイムドラゴン・ロードのいる場所はマグマが貯まっていて、その周囲が壁になっている。壁には洞窟の入口が何個も口を開けている。

 その口をドラゴンは最初に岩で塞いだのだ。

 そして、今は上層からマグマを注ぎ込んでいる。

 すると、まずは215層がマグマで満たされるだろう。次に、214層、213層が沈む。

 最後に212層。

 時間こそかかるが、私が移動できる範囲は完全になくなる。


 どうやらマグマはさらに下の層から湧き出ているらしい。ドラゴンがマグマを汲み上げたところで、その分は補給される。


 私はドラゴンに見つからないように、こっそりと顔を出す。

 ダンジョンデバイスをドラゴンに向ける。

 なるほど。

 マグマをめいいっぱい口に含んでいるだけあって、ドラゴンも無傷で済んでいないようだ。


 HPは99.4%、99.3%、99.2%と若干だが減っている。つまり、喉はマグマに耐えることはできず、当然、飲み込むなんてありえないだろう。マグマを飲んでしまうと致命傷になりかねないはずだ。硬い皮膚の内側は弱いのだ。

 もちろん、私が魔物石を埋め込んだ右眼もね。


 マグマを飲み込ませるのは難しいだろう。狙うのは右眼だ。ここしかない。


 フレイムドラゴン・ロードがマグマに頭をつけないことはわかっている。右眼からマグマが入ったら致命傷になる。だからこそ、私はやつの頭を下げさせ、マグマに沈めなければならない。


 作戦はうまくいくだろうか。

 そもそもこの作戦が成功する保証なんてどこにもない。


 私の罠が発動し――。

 思惑通りにドラゴンの頭を下げさせ――。

 そして、傷を負った眼球にマグマを注ぎ込む――。

 そんなことが可能なのだろうか?


 魔物石を使って?

 ドラゴンがマグマを注ぎ込むことを予期して?

 洞窟の入口を塞ぐことを見越して?

 そして、いつでも破壊できるようにしかけをして?

 やるだけのことはやった。もう、あとは見守るしかないのだ。


「では、カウントしましょうか」


■その前にどういう作戦か説明してよ

■ハルナっちの邪魔しちゃだめだよ

■さっき見始めたばかりで状況がわからない

■誰か 説明plz


「5」


■アイテム生成で爆発玉を作った

■爆発玉を洞窟の出口全部に置いた

■それじゃ、モンスターすら倒せないよ

■別にいいんだよ 岩を割るだけだから


「4」


■魔物石は? ドラゴンの右眼に埋め込んだやつ

■あれ、使えねー。ゴミアイテムじゃん

■モンスターをポップするやつ?

■ポップ数は乱数だったよね? でも最低10匹は湧く

■ああ、そういうことか

■そういうこと

■頭いいね


「3」


■ドラゴンに、通路をマグマで満たしてもらったんだ

■それを一気に放出ってことか なるほどね


「2」


■でも意味なくない?

■ドラゴンの右眼を狙える?


「1」


 着火……


 私は212層の高さから、フレイムドラゴン・ロードを見下ろす。

 マグマはじゅうぶんに貯まっていた。

 215、214、213層の洞窟の出口が次々と爆発し、ドラゴンに向かってマグマが放出される。

 その時だった、フレイムドラゴン・ロードの頭部が強力な力で押さえつけられたかのように、マグマの海に沈んだ。

 やつの右眼の中では215層で出現するモンスターがポップしている。当然ながら、モンスターの層間移動はできない。ドラゴンの頭ごと、215層の高さで固定されたのだ。

 頭を上げようとするフレイムドラゴン・ロード。見えないなにかに押さえつけられるかのように、首が上がらない。

 その間にもマグマがやつのもとへと流れていく。ドラゴンの体が頭ごとマグマに埋もれていく。

 グ、グオオオォ……

 くやしそうにドラゴンは声を漏らす。

 右眼にマグマが触れる。

 グギャガガガ……………………

 それと同時にポップされたモンスターも死んだのだろう。少しだけドラゴンの首が上がった。けれど、すぐに次のモンスターが産み出された。

 がくっとドラゴンの首が落ちる。

 マグマはドラゴンの右眼へ流れ込む。

 グギャガガガ……………………

 グギャガガ……………………


 215層のモンスターは上層に運べない。これはドラゴンをしても不可能なことだ。ダンジョンの摂理には何者も逆らうことはできない。よって、フレイムドラゴン・ロードは頭を持ち上げられない。

 奴が死ぬのが先か、魔物石の効果がなくなるのが先か。

 ドラゴンの右眼の中で、モンスターが生まれては死んでいく。


 グギャ……………………

 グギグ……

 グ……


 フレイムドラゴン・ロードが動かなくなった。


 おそらくはマグマは脳へと達しただろう。脳を焼き、フレイムドラゴン・ロードは絶命した。

 終わってみるとあっけない。


 見下ろしている一面はマグマの海。

 そこに沈むは巨大な龍の死骸。


 ダンジョンデバイスをフレイムドラゴン・ロードへ向ける。

 残存HP0%


 私は勝利した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る