第12話 ダンジョンの成り立ち

 これまでドラゴンは未発見種だった。ドラゴンに遭遇した者はいないのだから、討伐する方法は誰も知らない。


 けれど、すべてのモンスターがこれまで同じように新種のモンスターだったのだ。いままでと同じように倒し方を模索し、結果を出し、人類はより深層へと進むしかない。


 ダンジョンが出現してから世界は大きく変わっていた。

 モンスターがドロップするアイテムの研究が行われ、ダンジョンの外でも有用なことが判明した。

 低級ポーションは栄養剤程度の効果しかなかったが、レアポーションに至っては欠損した腕すらも治すことができる。癌の治療にも使われ、地上からあらゆる怪我や病気がなくなる可能性が現実的になった。

 とはいえ、それほどのポーションが得られることは稀だ。

 ハンターが命をかけ、時には本当に命を失い、大怪我を負いながらやっとのことで入手できる。

 当然のことながら、その使用や流通に関しては制限される。

 レアポーションの使用はハンター優先に使われ、一般の市場に流れるときはかなりの高値となった。腕の欠損を治すポーションともなれば値はつり上がっていった。

 もちろん高額なアイテムを求めてダンジョンに潜るハンターも出てくる。

 ダンジョンを管理する『ダンジョン管理協会』が組織され、一攫千金を求めるハンターを統括管理する『ハンター事務局』が生まれた。


 ダンジョンからもたらされる利益はポーションだけではない。マナ鉱石はエネルギー問題を解決する糸口となった。また、ダンジョンから得られるアイテムはマナ因子という未知の構造であることが判明した。

 これは『この世界は原子で構成されている』という我々の当たり前の科学をあざ笑うかのような世紀の大発見であった。


 マナ因子の解析はまだ初歩の段階だ。

 25年で人類が上げた功績は、マナ因子はeMANAと呼ばれる情報体と等価交換が可能だということだった。これにより、ダンジョンで獲得したアイテムに限って、ダンジョンデバイスというデジタル器機への格納・取り出しが可能となった。


 ダンジョンから得られるアイテムは戦いに直接役に立つものとは限らない。例えば今回ドラゴンから長剣を取り返すために使った大鏡。これはアイテム合成で作り出した。特定のアイテムの組み合わせにより、アイテムが新しく生成されることがある。

 その組み合わせに関しては、まだ未知の部分が多い。

 アイテム合成にはダンジョンポイントを消費する必要がある。DP・通称ダンジョンポイントはモンスターを倒したときに時たま得られる。


 こうして、まるでRPGゲームであるかのようなダンジョンが出現したわけだが、その場所は東京都、奥多摩の山中。

 この場所におよそ東京ドームと同じくらいの敷地にダンジョンがある。ダンジョンは地下深くまで続いていると予測されている。ダンジョンは地下1層からはじまり、現在はワールドクラスプレイヤー・ランク1位のミランダ・モリス(Miranda Morris)により165層までが踏破され、ここが人類の到達領域とされている。

 ダンジョンの地上部分には12階建てのビルが建っている。1階から3階が『ハンター事務局』。ここはハンター登録を行ったり、レベルアップの申請を受け付ける場所だ。

 一般の人間が立ち入ることのできない4階から上は『ダンジョン管理協会』となっている。『ダンジョン管理協会』はダンジョン内で得られた情報を広く発信したり、ダンジョンデバイスの開発、ダンジョン内の安全管理、激レアアイテムの管理などを行う。

 世界中からこの日本に一攫千金をねらって人が集まる。

 しかし、ダンジョンから得られるのは利益ばかりではない。

 これはダンジョンと人類との戦いでもあった。

 それが、ダンジョンを攻略する本当の目的だ。

 

 ダンジョンは巨大な筒状の形状をしていると予測されている。そして毎年、わずかずつではあるが、隆起するかのように全体が上にあがっている。少しずつ、ほんの少しずつではあるが、持ち上がっているのだ。


 この上昇がダンジョンを攻略することで遅くなることがわかった。より深く潜り、階層主と呼ばれるモンスターを倒すことで、ダンジョンの上昇が遅くなった。

 だが、人類が10層に到達。10層の階層主を倒したときだった。

 ハンターはとある遺物を発見する。

 それが現在ハンターたちが使っているダンジョンデバイスの原型でもあった。それは人類にとっては未知の科学だった。プリミティブデバイスと呼ばれているその機器にはさまざまな情報が格納されていた。

 マナ因子に関する情報やダンジョンの存在理由も記されていたと言われている。詳細に関しては一部しか公表されていない。しかし、プリミティブデバイスから得られた情報でダンジョン攻略のための技術が飛躍的に向上したことは間違いない。

 プリミティブデバイスは『ダンジョン管理協会』により、厳重に管理されている。


 プリミティブデバイスがもたらした最大の情報は


――ダンジョンを攻略しなければ、人類は滅びる


というものだった。


 なぜ人類が未だに幸福を獲得できていないのか。

いまだに争いを繰り返しているのか?

なぜ戦争がなくならない? なぜ犯罪がなくならない? なぜ、いじめやいやがらせがなくならない? なぜ、家庭での不和がなくならない? なぜ病気になる? なぜ貧困問題が減っていかない? 他にも食糧問題・異常気象。数え上げればきりがない。


 これはあくまでも推測の域を出ていないが、ダンジョンの悪しき魔物から放たれる電波のようなものが原因ではないかという説があった。だが、実際のところはわからない。


 けれど、ダンジョンを攻略していくほどにレアなポーションがみつかり、人類が抱えている問題を解決すると思われるアイテムが発見される。実際に、人類の幸福に貢献してる。


 では、本当にダンジョンを攻略しないと人類は滅びるのだろうか。

 人類が50層に到達したときだった。

 階層主・ジャイアントサラマンダー

 

 LV61のこのモンスターは当時のハンターたちの手に負えるものではなかった。

 30人を超えるハンターで討伐隊を組み、1週間をかけて倒すことができた。

 この時、ジャイアントサラマンダーの反撃と、世界中に起こった災害とがぴたりと符合した。


 つまり、ダンジョンが地上にせり上がり、同じようにジャイアントサラマンダーが暴れたのなら、その影響がダンジョンの外まで波及する。


 これは階層主と地上との距離に比例することがわかっている。

 ダンジョンがせり上がればせり上がるほど、人類の危険が増す。

 だから、人類はダンジョンを攻略しなければならない。

 滅亡する運命から逃れる必要があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る