第11話 剣を奪還する

 ダンジョンは立体構造になっている。

 一番高い場所が212層だとすると、一番低い場所は215層だ。

 ドラゴンは215層の場所にいて、4層分もの身長があるのだ。


 真ん中が学校の校庭くらいの広い空間になっている。そこにドラゴンがいて、洞窟の出口がいくつも口を開いている。4層なので、4段の列になってたくさんの穴が空いていた。


「誘い込むにはこの場所が一番ですね」


 私の利点はダンジョンの道筋をほぼすべて把握していること。これはダンジョンデバイスのマップアプリの能力でもある。


 今日までの行動でわかったことは、フレイムドラゴン・ロードはモンスターなどの強者をなんらかの方法で感知しているが、私のようなレベルの低い弱者に対しては反応が鈍いことだ。


 ところが「神王スキル」のような特別な力を使うと、それは感知されてしまう。つまり、私は隠れて隠密行動を取ることができる一方、「神王スキル」でドラゴンの反応を引き出せるということだ。


「まさに、ここしかない。絶妙なこの場所まで誘導します」


 そして行動を開始し、順調に作戦が進む。


「つまり、こういうことなんですよね」


 この時点で計画の第一段階は終わろうとしていた。


 マップを睨みつけるように探したこの場所。神王スキルでドラゴンをおびきよせた。この空間にドラゴンの首がまっすぐに入り、左右に洞窟のような穴が空いている。ちょうどドラゴンの左眼と右眼の高さだ。


 まんまとやつの首がこの場所にすっぽりと収まった。そりゃそうだ。右眼を奪った憎いやつなのだ。その姿を忘れることはないだろう。


 神王スキルを察知したドラゴンは私を視界に捉えようとした。

 ここに首を突っ込み、左眼で捕らえているのは私の姿。ただし偽物だ。


 岩をマネキン状に加工し、神王装備を着せている。

 偽物だと気がつかれる前にすべてを終わらせる。


 私がいるのはちょうどマネキン岩の反対側。ドラゴンの頭の右側だ。こちらの眼には長剣が刺さっているので何も見ることはできない。死角になっていて見えないうえ、弱い存在である私を感知することはできない。


 フレイムドラゴン・ロードの巨大な眼球が今、目の前にある。神王の長剣が刺さっていた。


 ゆっくりと手を伸ばし、柄に手をかけ、一気に引き抜く。


「取り返しました!」


 言うと同時に、私は走り出す。ドラゴンは首を大きくくねらした。 

 私が走る経路にはモンスターがいない。安全な通路を急ぐ。


「モンスターを減らしてしまったことが裏目に出ましたね!」


 そうなのだ。この作戦は他のモンスターがいたら成立しなかった。

 神王装備を脱いだ私は制服姿だ。中学校の制服でダンジョン内を走る。こんな姿でモンスターに襲われたらひとたまりもなかっただろう。


 一方でドラゴンは混乱しながら、神王装備を着せた岩に向かって頭突きを食らわせた。

 神王装備は粉々に砕け散り……


「残念、鏡でーす」


 砕け散ったのは身だしなみを整えるために使っていた大鏡だ。


 私は高らかに笑い声を上げながら、マネキンの元へと戻りダンジョンデバイスに神王装備を格納した。装備している暇などないからだ。


 さらに洞窟の奥へと走る。

 後方ではドラゴンのブレス。


 洞窟が真っ赤に染まる。

 本当は危なかった。

 制服の裾が少し焦げていた。


 まさに間一髪。

 なんとか、かんとか、神王の長剣を取り返し、安全な場所まで避難してから黄金の装備で身を包んだ。


 私は無言のまま、剣を天井に向けて突き上げる。

 神王装備、フルセットが戻った。

 映像に映るのは、全身を黄金の装備で身を包んだ私の姿。

 剣を高らかと上げる、その勇姿。


 コメント欄はとんでもない勢いで流れていた。

 スパチャが次々と入る。


 ドラゴンを倒してすらいないのに、すでにお祭り騒ぎが起こっている。

 一度は減ってしまったチャンネル登録者数だったが、減ったときの勢いが嘘のように、爆上がり。軽く10万人を突破していた。


 コメントが勢いよく流れる。

 わけもわからない内容の発言

 おめでとうなどの賛辞

 泣き叫ぶような声

 単に喚き散らす者

 次々に鳴り止まないスパチャの通知

 外国からの閲覧者も多いようで、さまざまな国の言葉が行き交う


 そんな時、もりもりさんからコメントが入った。


 ■もりもり:それで、例の仕込みはどうなったのですか? よく見えなかったので


「ばっちりですよ」


 私は握りこぶしを作る。

 そう、剣を引き抜くときに仕込んでおいた。


「これからが本番です」


 すべてはドラゴン退治への布石。

 こんなものはまだ序の口に過ぎなかった。



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