第8話 ドラゴンさんがお怒りのようです

 さっきから、どどーん、どごごーん、と地響きが続いている。

 フレイムドラゴン・ロードはかなりお怒りのようだ。私が顔を出さないものだから、壁に向かって苛立ちをぶつけている。


 ダンジョンデバイスのマッピング機能は優秀で、踏破エリアに入ったモンスターをマップ上にドットで表してくれる。


 マップの中央にはひときわ大きな丸がある。これがきっとフレイムドラゴン・ロードだ。そして、それを取り囲むように無数のドットが点在している。

 わかるのは位置情報だけで、個別のモンスターに対して名前や能力がわかるわけではない。


 本来であったら強さに応じてドットの色が違うそうだ。自分より弱いモンスターなら、青、同じくらいの強さなら黄色。そして絶対に戦うべきではないほど実力の差がある場合は赤。さらに討伐不可能なほどの強敵なら紫色。


 このマップは視聴者にも見えている。


■もりもり:赤い点ばっかりですね……ドラゴンは紫……


 私はまだLV2だ。私より弱いモンスターなんていない。このモンスターをどうやって倒していこうか。都合よく粉塵爆発に頼るわけにもいかないし、自爆する危険もある。


 神王装備に守られているとはいえ、気絶してしまうとモンスターから一方的に攻撃される。死は免れない。


 とにかく喫緊の課題は安全地帯の確保である。


■コリント:ちょっといいかな? 【スーパーチャット500DP】


 チャリーンという通知音とともに、コリントさんからのコメントが入った。

 しかも、500DPのお恵み付き。DPはダンジョンポイントの略で、現金と等価で交換することができる。地上の事務局で、だが。


■コリント:この階層のモンスターの動きが明らかに不自然なんだよね


「どういうことでしょうか?」


■コリント:どうもグループ分けされているように思うんだよ ちょっと3D表示にしてもらえるかな?


 私は端末を操作し、ダンジョンマップを2D表示から3Dへと切り替えた。


■3D!? そんな機能あったの?

■え、ダンジョンって平面の地図じゃないの?

■確かに……この階層って道が上下に入り組んでる 3Dじゃないとわかりにくい


 次々にコメントが入る。


■もりもり:春菜さんは新しい発見ばかりですね


「えへへ」


 私の功績ではないのに、褒められたことで照れてしまう。


「いままでの階層って、上下に道が入り組んでいなかったので3D表示の必要がなかったのですね。でもこの212層は上下に入り組んでいて……」


 そこまで話して、私はあることに気がついた。


「ここって……本当に212層なのでしょうか……?」


■どういうことだ?

■なに言っちゃってんの?


「いや……あの……。自分でも何を言っているのかよくわかんないですけど……」


■コリント:あ、そういうことか!【500DP】


 チャリーンという通知音とともに、コリントさんからのコメント。


■コリント:モンスターの動きがなんかおかしいと思ったんだよ。ダンジョン管理協会がモンスターを捕らえて階層移送を試みたけど、できなかったよな。


 ハンター事務局とダンジョン管理協会とが存在することは私も知っている。事務局はダンジョンに入るハンターを管理する。人間を管理すると考えるとわかりやすい。

 一方でダンジョン管理協会は、ダンジョン内部の調査や上層での安全を管理する団体だ。

 ダンジョン外部の仕事が事務局、ダンジョン内部の仕事が管理協会、とも言える。


■アメリア:なるほど! モンスターの階層間の移動は不可能。するとこのモンスターの不自然な動きも説明がつく【500DP】

■桃太郎忍者:よし、おれっちが解析してやる。ちょっと待て。

■みっち:今はAIが使えるから便利だよな。モンスターの動向解析に。

■桃太郎忍者:おまたせ、マーキングしといたよ。モンスターの行動は4タイプ。層をまたいで移動ができないんだよ。たぶん今いるここは212層から215層の4層構造なんだ。【1500DP】


 桃太郎忍者さんのお陰で、私の端末の表示が変わった。マップ上に表示されるドットの形が変わっている。■や▲や♥、●で分かれている。

 つまりここは4層が合わさってできた階層だということだ。212、213、214、215層の4階建て構造となっている。


■そんなん聞いたことねえぞ!

■大発見?

■いや、そんなことよりもだな……


■ハルナっち。経験値増えてねえ? モンスターのドットも時々消えてるし【100DP】


 チャリーンという音とともに、またもやコメントが。

 注目してほしいコメントだとか、発見をしたりだとか、そういうときにスーパーチャットをするようなことにいつのまにかなっていた。


 確かに言われた通り、なぜか経験値が増えている。ドロップアイテムもいくつか入っていた。


「なんでしょう、これ」


 理由もわからず、首を傾げる。


■ドラゴンの周辺でドットが時々消えている。フレイムドラゴン・ロードの八つ当たりなんじゃね?【20DP】


 つまり、私が少しでもダメージを与えたモンスターが殺され、それにより経験値が入ってきているようだ。


 経験値は被ダメージに応じるため、私に入るのはほんのわずか。それに獲得できるアイテムもモンスターを倒した貢献度や討伐者のレベルにも左右されるため、低級ポーションや低級ブレッド(食料用のパン)などだ。


 だけれど、これは漁夫の利というやつでは?

 この階層のモンスターに小ダメージを与えておけば、自動的にアイテムが稼げるのではないだろうか。


 このことをみんなに告げると、なかなか良い作戦だと賛同してくれた。

 そして視聴者の協力により、マップの中で安全そうな場所を探していく。


 モンスターは上下の移動に制限がある。

 すると、道を登って、降りて、という行動がモンスターには不可能ということであり、モンスターが入り込めないというエリアがあることがわかった。


「あるじゃないですか! 安全地帯!」




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