第9話 ゆっくり寝ましょうか

 作るまでもなかったのだ。天然の安全地帯が存在した。


 モンスターの層間移動が不可能だというダンジョンの摂理。


 1層分の高さをあがることができないため、私だけが通ることができる。だけど候補は1箇所だけ。洞窟を登って降りて、その先は行き止まり。そして、念の為に侵入経路は大きめの岩を探して塞ぐ。


 神王の小手の装備により、今の私は力持ちだ。いくらでも肉体労働ができた。


「とりあえず、ここを住居代わりにしようと思います。まずは家造りからです」


 小手の力で岩を掘って、住居としての空間を整える。


 最初に地面を平らにして床のようにする。

 頭がぶつかるほどに天井から長く伸びている岩は砕いてしまう。


 寝るためのベッドを用意し、座るためのソファーを作る。といっても、岩でつくったベッドとソファーだからとても硬い。そのうち布状のものを入手したい。


 テレビはないけれど、ダンジョンデバイスがテレビ代わり。

 ダンジョンチューバーの映像や動画配信を見ることができる。

 これでお菓子さえあれば、何年でも救助を待つことができるのだけれど。


 そして時々外出してモンスターに小ダメージを与えては、ここへと逃げてくる。ほんのわずかでもダメージを与えておけば、そのモンスターが死んだときにドロップアイテムがもらえることがある。


 レベルアップができないので、入ってくる経験値には意味がないが、おこぼれでもらうドロップアイテムで命をつなぐことができる。


 低級ポーションが水がわり。味のしない低級ブレッドを我慢して食べた。


 私の生活は24時間のライブ配信にすることにした。


 家代わりの安全地帯。入口にダンジョンデバイスを起き、何かがあったら視聴者さんに教えてもらう。


 デバイスの遠隔操作でブザーを鳴らすことができる。視聴者さんが担当を決め、見張りをしてくれることになった。


 まあ、こんな感じに、のんびりと3日を過ごした。

 私のライブ配信の視聴者数はうなぎのぼりに上昇。


 チャンネル登録者数3万2千

 閲覧者数18万人

 に到達していた。


「なかなか悪くない暮らしですね。ゆっくりとのんびりいきましょうか……」


 寝ながら視聴者が増えていくという、苦労のない生活。


 ぐうたらしながら、いろいろなドロップアイテムを獲得する。


 アイテムを組み合わせることで、別のアイテムを生成することもできる。

 役に立ちそうなのは爆発玉を作るための材料。これでドラゴンを倒せないだろうか? でも攻撃力が弱くて、無理っぽかった。


 なかには魔物石モンスターストーンなんていうものもある。モンスターをポップ出現してしまう、なんだそれアイテム。まあ、ゴミアイテムなんて呼ぶ人もいる。これを地上に持ち込むとテロに使えてしまうということから、要注意アイテムだ。


 そして、ぶっちゃけ嬉しかったのは生活用品を作る材料。鏡だったり、布団だったり。でもまだ布団を作れるほどには集まっていない。ベッドはあいかわらず石のまま。


「アイテム生成で鏡を作ってみました。私の全身を映せるほどの大きさがあります。ダンジョンチューバーは身だしなみも大事ですからね」


 私は女子中学生だし、見た目には気を使う。


 初めて作った生活用品は大鏡だった。岩の壁に立てかけてある。私の背丈ほどもあってお気に入りだ。


「眠いですね……。寝る時間になったので、お休みします。ダンジョンの揺れがちょうどよいです。ドラゴンさんは怒っているようですが、こっちまでは来れませんしね……」


 地震のような地響きの中、心地よく夢を見ていた。視聴者にはよだれを垂らして眠る私の姿が見られてしまっている。


 変化のない3日のお陰で落ち着いてきたのだが、さすがにフレイムドラゴン・ロードは許してくれなかったようだ。

 

 ダンジョンデバイスのブザーがけたたましく鳴り、私は眠りから叩き起こされた。


■まずいことになっている


 視聴者さんから伝えられた情報によると、モンスターが次々に死んでいき、数がかなり減っているそうだ。

 

 ダンジョンはモンスターが湧き出てくるポイントがある。


 これはあくまでも推測でしかないのだが、フレイムドラゴン・ロードがモンスターのポップ(出現)と同時に殺していっているようなのだ。


 おそらくはドラゴンのブレスかなんかで、出現ポイントを焼き尽くしているのではないかと思われた。

 けれど、実際はそんな生易しいものではなかった。


 私は調査のために現場に行かざるを得なかった。

 フレイムドラゴン・ロードとの遭遇を避けてモンスターの出現ポイントへと向かおうと思ったのだが、その直前までしか辿り着くことができない。


 その場所は今いる場所のすぐ目前。見えてはいる。

 けれど、私の足元から、その出現予測ポイント。そこまでがマグマの海となっていた。

 ダンジョンデバイスをその風景に向ける。


「みなさん、ごらんの有様です」


■あちゃー

■これがモンスター瞬殺の原因か

■ドラゴンのしわざだね

■ハルナっちはおバカさんだけど、ドラゴンはお利口さんだったのね

■よし、倒そう もうドラゴン倒すしかないね

■特攻?


「生命線が絶たれようとしています。どうしましょう」


 モンスターからのドロップアイテムがなければ、私の食糧は尽きてしまう。まさに、命の危機だった。


「とりあえず、もどって寝ますか……」


 ふわあ、とあくびをする。

 寝ていたところにブザーで起こされたので、眠くて眠くて仕方がない。


「私、思うんですけど。こういうのって心理戦だと思うんです。敵は焦っています。苛立ちをつのらせています。なんとかして私のことを排除しようと躍起になっています」


 しゃべりながら、半分眠っていた。ほんと眠い。まじ眠い。女子中学生はちゃんと8時間寝ないと活動ができないのだ。


「……でもこれは、こちらの思う壺だということです。この勝負は、焦って墓穴を掘ったほうが負けます。余裕のない側が相手の術中にはまって負けてしまいます。だから、こちらは余裕を失ってはなりません。つまり、ブザーで起こされて眠いので私は寝ます。そういうことです。眠いです……」


■お前、自分が寝たいだけだろ

■いや寝るのも大事

■寝たら、いい案が浮かぶかもしれない

■お前ら、思考がハルナっちに汚染されてないか

■ハルナ思考に侵食されてオリマス

■みんな、寝るか

■俺も眠くなってきた


「ということで、私はゆっくり寝ることにします。明日のドラゴン討伐に備えて、まずは休息を取らねば……」


 ふわあああ、とまた大きく欠伸あくびをした。


「戦いの前には十分な睡眠が必要なのです 。明日は最終決戦でございます……中学生は8時間寝なければ戦えないのです……ドラゴンを倒せないのです…………」


 安全地帯に戻るやいなや、私は石製のベッドに横になる。すぐに睡魔が襲ってきた。


■まじか!

■討伐って言った? 戦うって言った?

■キター ドラゴン討伐ー

■おいらのハルナっち! できる子だと思ってた!

■どうせ口だけでしょ

■倒せたら1万円スパチャしてやる

■絶対無理

■作戦はあるの?

■どうやって倒すつもり?

■あれ? 寝てない?

■おーい

■寝るの早! 早すぎだろ!

■即寝の天才

■いびきがかわいい

■寝顔をスクショした

■おい、口を開けて寝るな!

■ベッドから落ちるぞ!!

■顔に似合わず、寝相は悪いな

■だらしない姿が世界中に配信され、そして、ハルナっちの伝説が始まる

■とりあえず、葬式代【100DP】

■寝ている姿を壁紙にさせてもらったのでスパチャ【200DP】

■ドラゴン退治に成功したら、まじで10万、いや100万スパチャする

■ほんとにスパチャするのか? 100万もの大金

■たぶんする

■ほんとか?

■倒せるはずねえじゃん



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