第7話 バズりました

 よく考えてほしいんだ。

 私は死ぬかもしれない。


 たとえ1しかレベルを上げてくれないとはいっても、使わないで死んだら意味がない。


 相場が1,000億円だって? それは生きて持ち帰ったら、の話だろう。

 だったら、「使う」の1択しかないはずだ。


 私はなにか間違っているのだろうか? いや、間違っているはずがない。

 レベルアップシードの無駄遣い? そんなことはない。


 ちゃんと私の登録者数の爆上げに貢献したじゃないか。


 チャンネル登録者数:8,231

 閲覧者数:32,477


 閲覧者数はいつのまにか1万なんてとっくに超えて3万に到達していた。

 登録者数も1万を目前としている。


 それに……

 

 開示されている私のステータス


―――――――――――――――――――

 HUMAN種

 LV2(レベル)

 HP 7(生命力)

 MP 3(魔力)

 STR 2(腕力)

 INT 1(知力)

 DEF 4(防御力)

 AGI 4(敏捷力)

 LUC 8(幸運)

 EXP 16,522,231(経験値)

―――――――――――――――――――

 などなど。

 もう、こんなものはどうでもいい。


 それよりも、非開示となっている裏ステータス。こちらが問題だ。


―――――――――――――――――――

 称号:ジャイアント・キリング、エクステンド・ハンター、カミカゼ・ガール

 覚醒LV:2

―――――――――――――――――――


 覚醒LVというのはダンジョンデバイスを使って調べてみても、何も情報が得られなかった。つまり、誰もその存在を知らない。


 おそらくレベルアップシードは通常レベルを上げることが本来の目的ではない。この覚醒LVを上げるためのものに違いない。


 覚醒LVはモンスターを倒す経験値とは関係がない。

 いくらモンスターを倒したところで、上がらないレベルなのだ。

 もしかしたら、アイテムでしか上がらない隠し属性である可能性すらあった。


 なぜ、こんなことがわかるかって?

 実のところ、私にもわからない。

 知らないことなのに、なぜだか、頭の中に情報が入っていた。もしかしたらこれが覚醒というものではないだろうか?


 すべての人類がまだ覚醒LV1だ。

 そして、私だけがLV2へと到達した。そのことが、なぜだかわかってしまう。


 覚醒LVが2になったことで、ダンジョンデバイスには今までに表示されていない情報が次々と増えていく。


――――――――――――――――――――――――――――――

 ダンジョンブレイク残存時間:1201day 16:37:23

 ダンジョン攻略率:0.2%

 人類領域侵攻計画:詳細については覚醒LV3が必要です。防衛率0%

――――――――――――――――――――――――――――――


 私だけしか知らないであろう、新規情報。

 ダンジョン探索は未知の領域へと突入していくことになる。


 そうこうしている間にコメント欄が次々と流れていく。


■『痛い子チャンネル』からやってきましたー


 は? 痛い子チャンネル?

 なんだ、それ?


■【相場1,000億円 伝説の『種』を無駄遣いしてLV2になった少女】切り抜き動画が上がっていましたよ

■【死亡確定 ライブ配信 人類未踏の地に無謀に突っ込む女】より。頼む、死なないでくれ

■【フルスペック装備、ロストする瞬間を見逃すな】から来ました

■【未発見モンスター ドラゴン生中継 フェイクではありません】ドラゴンまだ? タイトル詐欺? 早くドラゴン見せてよ


 どうやらどこかの誰かが私のライブ配信を切り抜き動画にしているようだ。切り抜き動画にすることで短い時間で面白いところだけを見せることができる。

 しかし、面白い要素が皆無である私の配信がなぜバズるのか。


 もしかしたら、ぽんたさんかアクゾーさんが面白く編集したり、切り抜いてまとめてくれたりしたのだろうか?

 でも、嘘をついたり、誇張しすぎたりとかはしてほしくないんだよな……。


「えっと、みなさーん。なんか、よくわかんない間にちょっとバズっちゃってるみたいですけれど、私は普通の女の子ですからねー。まずはチャンネル登録者数1万……の前に、なんとか生き残る手段を考えようと思います」


 そう、とにかく生き残る手段なのだ。

 先ほど安全地帯を探すと言ったのはそのためだった。


「みなさんには否定されちゃったんですけれど、なんとか安全地帯を探そうと思っています」


 なぜ、安全地帯を探すのか。

 確実にモンスターに襲われない場所を見つけ、そこでキャンプを張り、上級ハンターの助けを待つのだ。

 私もハンターたちのライブ配信をいくつかみてきた。やはり人気だったのはピンチからの脱出だが、パターンとしては絶体絶命の中、救助を待つというものだった。


■もりもり:もしかして、救助を待つという作戦ですか?


「あ、もりもりさん。はい、そのつもりです」


■もりもり:212層まで到達すること自体が困難ですので、救助はあてにできないかなと


「ですよね……」

 うん、私もそう思う。けれど、あらがえる限りは抗わないと。


「あと、時間的余裕も作って作戦を考えたいですし」


■もりもり:作戦ですか


「安全地帯については私に考えがあるんです」


■もりもり:考え?


「はい、私にはこれがありますので」


 腕を曲げ、力こぶを作るような仕草をする。全身が黄金の鎧なので、もちろん力こぶなんて作れない。


「神王の小手を使って、安全地帯を作るんです」


■もりもり:作る……ですか……


「今、このライブ配信はバズっています。閲覧者数もうなぎのぼりでもうすぐ4万、登録者数は9千を超えています。みなさんのお知恵を借りて、なんとかこの窮地を脱出したいと思います。どうか協力してください」


■もりもり:もちろん協力しますよ


 もりもりさん以外のコメントも、協力してくれるという内容が多い。とんでもない速さで流れるコメントの中には否定的な意見も混ざってはいる。いまだにフェイクを疑う人も少なくはない。


 この状況に陥ったことが、自業自得なんて言う人もいる。

 確かにその通りだ。自業自得なんだ。

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