幼なじみととりあえず(KAC20246)

しぎ

とり、あえず

「誕生日おめでとう、みどり」


 俺が玄関のドアを開けると、私服姿のみどりが立っていた。


「ありがとう、海。じゃあ、お邪魔します」

 みどりはまるで自分の家のように手慣れた様子で靴を脱ぎ、俺の家の廊下を平然と歩いていく。

 彼女の長いスカートは多少たなびいても、下着を全く見せてくれない。


 全く、こういうところは真面目なのだ。それが良いのだが。



「……? どうしたの?」

 思わず俺は振り返り、目が合ってしまう。


「……みどり、もうちょっとおしゃれしても良いのに。せっかく今日はお前が主役なんだから」

「なにそれ、この格好が不満足ってこと?」

「別にそんなんじゃないけどさ……クラスの女子はほら、化粧とかもっとたくさんしてるし」


 まあ、持ち込み禁止の化粧道具みたいなのを先生に取り上げられるみどりは見たくないけれど。そういうのは、丸い眼鏡の向こうで細めの瞳を向けるみどりらしくない。


「だって化粧ってさ、すごい時間かかっても、見た目に対して得られる効果ってあまり無いんだもの。ギャルみたいにやり込めば別なのかもしれないけど、あそこまでは学校じゃできないし」


 みどりはこういうことを言う。

 俺の誕生日にプレゼントを箱に入れて選ばせてきたり、どこか変わったやつだ。


 よくこんなやつと幼馴染やってられてるな、俺。




 ……ダイニングテーブルの椅子に座るみどりをキッチンから眺めると、変に緊張してきた。

 別に去年も同じことしたはずなのに。


「で、今年は何を作ったの?」

 ニコニコしてるな、本当。


「……とりあえず、これを」


 俺は冷蔵庫を開けて、用意していたものをみどりの前に運ぶ。



「……やった、ささみ!」

「ささみを焼いて潰した梅干しをかけたんだ」


 箸を渡すと、みどりは目を輝かせてささみに手を付ける。



「美味しい……」

「よしよし、今年も作ったかいがあったってものだな」


 みどりの誕生日には、俺が料理を振る舞う……そんなのが、ここ最近の毎年の恒例行事だ。


 みどりの誕生日は夏休み。共働き家庭の俺の家には、昼のうちから俺とみどりの二人だけ。


「どうすれば料理ってできるの?」

「別にそんな難しいものじゃねえよ。これだって、ささみも梅干しもそこのスーパーで買ってきたやつだし。それに、俺は親の帰りが遅いから、やらなきゃいけない必要性もあったし……」



 ……でも、時間はかかったな、と思う。

 普段俺が自分で食べるために作る料理よりずっと。


「じゃあ、全然とりあえずなんかじゃないね」

「え?」

「海は、作る必要があったからこの料理を作ってくれた。それはとりあえずじゃないよ。そんな軽い気持ちじゃないでしょ?」


「みどり……」



 そりゃあ当たり前だ。


 ……幼馴染の誕生日に、真面目に取り組まないやつがいるか。



「とりあえずなのは、この料理だけだね。トリ和えず……なんちゃって」


 その言葉に脱力しつつ、俺はもう一度みどりを眺める。



 ――本当に、なんて美味しそうに食べるのだろう。

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幼なじみととりあえず(KAC20246) しぎ @sayoino

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