この世界のこと②


何を教えてほしいか、か。



まだまだ知らないこともたくさんあるし、魔法だって早く教えてほしいと思うけど、初めはこの世界の常識を知らなきゃならないと思う。


「まず、この世界について教えてくれませんか?」


「おう、わかった。でもそんなことでいいのか?子供だったら、昨日話した冒険譚とか、魔法とか知りたがるものだろ?」



ケレンさんが不思議そうな顔をして見つめてくる。純粋に不思議に思ってるようだ。


一方俺は内心で頭を抱えていた。


…やってしまった。今の俺は子供なのだ。2歳児ががこの世界について知りたいなどというのはおかしいだろう。流暢に喋っているだけでもおかしいのだ。


でも、転生したなんてしんじがたいだろうし、こんなにしてもらったのに申し訳ないが、俺はまだケレンさんのことを信じきれていない。

なのでちょっと目をそらしながら、苦し紛れの言い訳をする。



「ま、魔法にも興味がありますけど、あの、か、母さんがまずは基本を知ることが大事と言ってました。」


「そうなのか、お前の母さんが。」



捨てられていると思しき俺に遠慮したのか、本当に信じたのか、苦し紛れの言い訳を信じてくれたようで良かった。


…まあ前世の亡くなった祖父が言ってたことだけど。でも、真っ赤な嘘ではないと思う。



「そうかそうか!わかった、じゃあ話してやろう。」



ケレンさんはそう言うと、一拍おいて説明しだした。



「この世界に魔獣っていうやつらがいるのはしってるだろ。まず、魔獣のことから説明しようか。

魔獣は一言で言えば、精霊なんだ。聖獣もだな。あ、これは言ってなかったな。まあいい、順を追って説明しよう。

魔獣は魔族と共存し、人族と敵対することを選んだ精霊だ。だから、人族を攻撃するんだ。そして、特徴としては

凶暴なやつが多く、全体的に暗い色が多くて、目が赤い。

それに対し聖獣は、人と共存することを選んだ精霊だ。よく人と一緒に住んでたりするぞ。特徴は全体的に明るい色が多く、黒い目をしている。

人と敵対するか、共存するかの差なんだ。だから、同じ種族内でも聖獣と魔獣がいたりするぞ。分かれたのははるか昔だから、ちょっと違ってたりはするらしいがな。

また、共通点も多いんだ。例えば、どちらも強い精霊ほど、霊力オーラが強い。そして、霊力オーラが強いほど、その個体の核が色が濃く、大きく、綺麗になっていくんだ。まあ、どんな種族かによって上限と下限はある程度決まるがな。俺が見た中だとドラゴン族とかは上限がないらしいぞ。」


そう言うとケレンさんは、少し言葉を区切ってからまた話しだした。

俺はじっと耳を傾ける。この世界のことは、これから生きていくうえできっと大事なことだ。


「じゃああとは、さっきも少し言ったが、この世界の人族と魔族の話だな。

まず人族ってのは、人間、エルフ、ドワーフ、天使、獣人のことだ。そして魔族ってのは、ヴァンパイア、ハーピー、悪魔、人狼など、これ以外にもまだまだいるが、のことだな。

魔族は人族と敵対している。それぞれに聖獣と魔獣を連れてな。魔族は謎が多く、高ランクの討伐対象になっていることも多々ある。」



ケレンさんはゆっくりとそう説明すると、木片と真っ黒い墨のようなもの、筆を持ってきた。

そして木片をテーブルに置くと、筆で器用に絵をさらさらと描き始めた。



「これがエルフ、これがドワーフ、獣人は色々いるが、これは猫の獣人だ。まあこんな感じって言うだけだがな。」



書き上がった絵に指を向けて、教えてくれる。とても上手とまではいかないが、その生物の形を丁寧に掴んでいてわかりやすい絵だった。


俺は指し示された絵を順に見ていく。はじめに指が指し示されたのはエルフの絵だ。

エルフは思い描いていた通り、長く尖った耳にスラリとした体型をしている。


次はドワーフの絵だった。横に人の絵も描かれている。身長は人の半分くらいで、丸っこい感じだった。あと口元にもじゃもじゃとしたヒゲが生えている。


そして、獣人の絵だった。体が毛の覆われていて、耳と尻尾が生えている。どちらかと言うと、地球にいた動物が足を発達させて立った感じだ。




「あとは魔族だな。さっき言ったのだと、これがヴァンパイア、これはハーピー、これが人狼だ。」



ヴァンパイアは人型だったが、口が大きく裂け鋭い牙が覗いていて、コウモリのような翼が生えていた。


そしてハーピーは鳥と人が合体したような魔族だった。人間であれば手があるところに大きな翼が生え、足は4本指で鋭い爪が並んでいる鳥の足だった。また、鳥の長い尾が生えている。


最後に見た人狼は、簡単に言えば服を着て立った狼だった。耳もとまで裂けた大きな口に、凶悪な牙が並んでいる。手足から生える鋭く長い爪は人間の体など容易に引き裂けそうだ。



「悪魔と天使は描かないんですか??」



一つ一つの絵をまじまじと観察し終えると、俺はその疑問をケレンさんにぶつけた。


ケレンさんが描いてくれたのは、エルフ、ドワーフ、獣人、ヴァンパイア、ハーピー、人狼だ。さっき説明してくれた悪魔と天使については描いていない。


そう聞くと、ケレンさんは少し眉を下げた。



「あー、天使と悪魔か。あいつらはそんなにいないし、もしいるとしても、自分から姿を見せに来るなんてことはねえからなあ。いるとは知ってるが、姿は流石に知らねえなあ。」



まああんまりいないなら知らなくてもいいだろう。ケレンさんが知らないことに文句を言うつもりはまったくない。この世界についていろいろ教えてくれたのだ。本当に感謝しかない。



「ありがとうございます。ケレンさん。」


「いいってことだ。お前を冒険者にしてやるって言ったんだ。二言はねえ。どんなことでも聞いてくれ。」



ケレンさんはそう言うと、ニコニコと笑いながら、俺の頭をなでた。

子供扱いしないでほしいが、今日だけは我慢して大人しくする。


「じゃあ次は稽古だな。何がやりた…。」



ケレンは笑顔のまま次は何をしたいかと聞こうとすると、突然思い出したかのように言葉を途切れさせ、


「そうだ、ノア!鑑定だ!!お前のステータスだ!」


大きな声で叫んだ。


✕✕✕✕✕

誤字があったので変更しました。

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