意外な特技

俺が冒険者になると決めた後、ケレンさんに様々な冒険譚を聞いていると、気づけば夜になっていた。

楽しくて、夢中で聞いてしまったようだ。


こんなに一つのことに夢中になったのはいつぶりだろうなと思いながら、ケレンさんに敷いてもらった布団に寝転がる。


すると、途端に眠気が襲ってきた。今日一日の出来事は、この小さな体が疲れるのには十分だった。


前はこの世界に生まれてよかったなんて思うことはなかった。

でも、今は確かに明日から良い1日になるだろうと思えた。



✕✕✕

――翌朝



「―ーい、ノアー!」


耳元で大きな声がし、ガサガサとからだが揺らされる。ぼんやりと目を開けると視界いっぱいに、ケレンさんの顔がうつった。


「っ!」


持ち前の怖い顔が影になって、一種のホラー映像のようになっていた。

何も見なかったことにして目をつむる。


「今絶対起きただろ。朝食だぞ、ノア。」



目を一瞬開けたのがバレて、更に強くからだが揺らされる。


「今起きるから。」



流石B級冒険者だったらしい人だ。グラングランと揺らされ、頭がぼうっとしてきたので、慌ててそういう。 



「おう。じゃあ俺は食事を作ってくるからな。着替えはあそこにある服を使っていいぞ。」



ケレンさんは、悪そうな顔(普通の笑顔)でにやりと笑うと、キッチンの方に歩いていった。朝食を作るのかもしれない。

でも、ケレンさんが調理をしているとこなんて想像できなかった。作るとしても、いかにも男料理といった野菜とか、肉とかがゴロゴロ入ったを作るとしか考えられない。



そんな失礼なことを考えながら、俺は床に敷かれた布団から起き上がると、小さく伸びをした。

いつもなら寝起きが悪いため眠たいが、今日はケレンさんに揺らされたからか、異常にスッキリしている。…100%ケレンさんのせいだと思うけど。


こんなに寝起きが良くなるなら、毎日揺らされてもと思ったが、一瞬で却下した。もうあの感じは絶対味わいたくない。



リビングの布団をたたむと、ケレンさんに貸してもらった服を着る。

俺の服は2枚あり、洞窟にながれていた小さな水源で洗ってたとはいえ、もうボロボロだったからだ。

少し、いやものすごくぶかぶかだが、紐でたくし上げてなんとか着る事ができている。


朝の支度が終わり、さっきまで寝ていたリビングに向かうと、ホカホカと湯気を立てているシチューと黒パンがおいてあった。

鼻をふわと美味しそうな匂いが通り抜ける。


すると、盛大にお腹がなった。

人前で恥ずかしいが、しょうが無い。こっちは2年間ずっと保存食を食べ続けたのだ。



「ぶははっ!いい音だ!」



その音を聞くと、ケレンさんがそういいながら笑い転げた。


訂正。やっぱりめちゃくちゃ恥ずかしい。


というか子供が恥ずかしがっているのに、笑い転げる大人もおかしいと思う。

…まあ前世では大学生だったけど。



笑い転げるケレンさんをジト目で眺めていると、ケレンさんのお腹からも負けないくらい盛大に腹の虫がなった。



「いや~、疲れた疲れた。魔物と戦うのって意外と体力がいるんだよなー。」



するとケレンさんはごまかすようにそう言い、椅子の座って早速朝食を食べ始めた。



「ふふふ。」



おもわず小さく笑ってしまう。自然に肩の力が抜けるのを感じた。

やっぱり人と接するのって面白いなと思う。


前世はどんな場所でも、あの飲み会だって、どこか肩の力が抜けないでいた。そして、いつしか楽しくなくなっていた。


でも、今は楽しい。急だったとはいえ、この世界に来たのはやっぱり良かったのかもしれない。どこか満足したような気持ちになりながら、ケレンさんの向かい合わせに椅子に座る。



笑われたのをケレンさんは気づいていないようだったので、そのままにして俺も朝食を食べ始める。


スプーンで黄色っぽい白色をすくい、一口食べると驚いた。


「美味しい!?」



めちゃくちゃ美味しかったのだ。


いや、見たときから美味しそうだと思っていたけれど、思ったよりも全然美味しかった。


シチューには柔らかいじゃがいもや人参のようなものとなにかの肉?のようなものが入っており、長時間煮込んだのかとても柔らかかった。

そして特にその肉がとても美味しい。噛むと肉汁が溢れでて、独特の風味がするのだ。



じっとケレンさんを見つめる。やっぱり筋肉隆々の強面だ。こんな不器用そうな人が作ったとは到底思えない。内心で首を振って目をそらした。



「おい待て、なんか馬鹿にされた気がするぞ!?」



ケレンさんが視界の端で落ち込んでいるが、視界に移さないようにしながらスプーンをすすめる。

シチューを食べながら、黒パンも食べてみると、これもふわふわで素材の素朴な風味が出ていて美味しかった。


じっくりとシチューと黒パンを堪能していると、ケレンさんがもう立ち直っていた。少し悪かったかなと思っていたが、大丈夫そうだ。



「美味いだろう、美味いだろう。前はコックになろうと思ってたからな!」



そういいながら、自慢げにニコニコ笑っている。これはケレンさんが作ったのか。

そうわかると、さっきのは悪かったなと思いながら少し目をそらした。



「そうだ!ノア、お前何を教えてほしいとかあるか?俺は誰かに教えた経験なんてないから、どんなことを教えてやればいいかわからねえんだ。」




そんなこんなしていると、ケレンさんが突然思い出したかのように聞いてきた。



✕✕✕✕✕


ノアのステータスは前回と変わっていないので省略します。


遅くなり申し訳ありません。同時に2話更新させていただきました。


タイトル変更しました

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