B級冒険者ケレン

目を覚ますと、木で作られた天井が見えた。薬の匂いが鼻を通り抜ける。


どうしてこんなところにいるのだろう?


必死に気絶する前の記憶を手繰り寄せていると、大きな声が聞こえた。


「おお、起きたか、ちびすけ。体は大丈夫か?」


声が聞こえると、強面の男性が顔を覗き込んでいた。

気絶する前は、横の断面が衝撃的すぎてわからなかったが、この人、普通の赤ん坊だったら、泣いてしまうくらいの怖い顔をしていた。


「そうだ、ちびすけ。お前どうしてあんな危険な場所にいたんだ?」



心配してくれているのだろうが、より顔がシワが寄って怖くなっていた。


じっと見つめられて答えるのを窮する。

捨てられたというのを正直に言うかどうするか悩んでいた。


その時外から大きな音が響いた。


「ん、何だ魔獣か?」


そう男性は言うと、近くにあったロングソードを手に取り、ドアを開けて飛び出した。

隙間から見えたところ、狼のような生物が何匹も、男性に飛びかかっている。


男性は、狼のような生物たちの隙間を縫い、一撃一撃で正確に仕留めていく。


狼のような生物からは血が流れていたが、あの断面を見たからか、ひるまずに直視できる。

これは後に鑑定してわかったことだが、寝てる間に『精神耐性Lv.1』を獲得していたらしい。


順調に倒していっていると、突然、一匹の狼のような生物がこちらに向かって走ってきた。

男性は慌てたような顔をすると、手を伸ばし、つきでその狼を絶命させた。


何分か立つと、何十匹もいた狼のような生物たちは全滅した。


「異常な量だなあ。」


彼はうーんと唸りながら、こちらへ戻ってくると、ノアの体から漂う黒い靄に気づいた。


「ちびすけ、その靄は何だ?」


俺はそう言われて初めて気づいた。これが魔香の効果なのだろう。



「もしかして…。お前のスキルは魔香か!?」



コクリと頷く。


当たり前の反応だ。助けてもらって相手に迷惑をかける。

気持ちに合わせて、目線が段々と下を向いていく。


「そうか、だからあんなところに捨てたれてたのか。普通の農家じゃ、魔香持ちを養っていくことなんてできないからな。」



なのに、なぜか妙に納得した様子で彼はウンウン頷いている。


「すぐに捨てられて、生き残っているやつなんていないから、俺も実際に魔香持ちにはあったことはないな。こんな感じで魔獣を引き寄せるのか。」


次は興味深げに黒い靄の中に手を入れたり、ほっぺを引っ張ったりしてきた。


なんですぐに捨てないのかわからずに困惑気味に彼を見つめる。


「…あの、なんで俺を捨てないんですか。」


普通だったら迷惑がってすぐに捨てるはずだ。不思議に思って聞く。



「ちびすけ、お前なあ。小さな子供が捨てられるのを当たり前とするんじゃねえ。別に捨てたやつを責めるつもりはねえが、子供を見捨てられるもんかよ。」



本当に俺が不思議そうな顔をしていたのだろう。眉を下げて、彼は困ったような顔をした。

でもそれから、



「あと、『魔香』持ちのやつなんて面白そうだし。うちにしばらくご厄介になっとけ。」


にやりと白い歯を見せて笑った。

はっはっはと大声で笑う彼を見ていると、不思議と笑みがこぼれた。



「そうだな、でも魔獣がたくさん来るのは厄介だな。」



彼はその後少し考えると、そうつぶやき、手から光を生み出した。


聖域サンクチュアリ



彼が出した光の玉は、この家全体に 広がっていった。彼の光の玉は前に見た聖域と同じ色だが、それよりも強く光り輝いていた。


「す、すごいっ!」


助けてもらったとはいえ、俺はどこかで彼を警戒していたのかもしれない。現金なことだが、大丈夫だと言ってもらえた途端安心した。


そして、俺は初めて見る魔法に目は輝かせていた。


「あのっ!俺の師匠になってください!!」



俺は魔法の使い方がわからないが、多分スキルは持っているので使えると思う。

彼は強いし、さっき使った魔法を見る限り、魔法が使える。

しかも、家においてくれると言っているのだ。魔法を教わらないという手はない。


「ん、いいぞ。じゃあお前はこれから俺の弟子だな。」


返事は軽かった。本当に大丈夫なのか少し不安になる。

だが、了承したということは彼はこれから俺の師匠だ。


「これからよろしくお願いします!!…強面の男性さん?」


早速意気揚々と挨拶しようとすると、名前がわからないことに気づいた。



「そういえば、名乗ってなかったな。俺はケレン。B級冒険者だ!ちびすけ自分の名前わかるか?」


彼は自信たっぷりに笑い、俺に名前を聞いた。



「ノアです。ちびすけじゃありません。」



俺はちびすけじゃない。俺は精神年齢でいえば20歳以上のバリバリの成人だ。体は2歳児だけど。


「あの、B級冒険者ってなんですか?」


興味を持って聞いてみる。

B級冒険者と彼、改めケレンさんが言っていたが、この世界にも冒険者と言う職業があるのかな?



「そうだ!!ちびす…ノア!B冒級険者だ!!ちび…ノア、冒険者に興味があるのか?」



ちびすけと言いかけたところを、俺に睨まれて改める。

自分の職業に興味を持ってくれたことが嬉しいのか、自慢げに笑っていた。


「はいっ!」


返事をする。俺は冒険者という職業に興味があった。やっぱり憧れるのだ。


「そうかそうか。じゃあどこから始めようか。」


うーんとケレンさんは考え込むと、突然思いついたかのように話しだした。


「まず、冒険者は世界を冒険する職業だ。俺も冒険者だった頃は、世界の様々なダンジョンや古代遺跡、アーティファクトを冒険したものだ。

冒険者は誰でもなれるし、やっていることの幅が広い。だから冒険者をやっている人が、一番多いんだ。

そして、冒険者にはランクというものがあってな。そのやっていることの危険度を区切るのがランクってわけだ。ランクはFからSSSまである。まあ俺は、その中の中堅くらいってわけだ。SS、SSSランクなんて見たこともないけどな。

だが、冒険者にはいつも危険が伴う。これは絶対に認識しておいてほしいことだ。

ランクが低い依頼はそうでもねえが、ランクが上がっていくに連れて危険度も上がっていくんだ。正しく自分の実力を把握しないで、無謀に上のランクの依頼に挑んだやつは、ほぼ100%と言っていいほど死んでる。」


ケレンさんはそう言うと、じっと俺を見つめた。いつもの親しみやすい雰囲気からは、考えられないほど真面目な顔をしていた。


「冒険者のやることの大体は、魔獣と呼ばれる生物と戦うことだ。あいつらは本気で俺達を殺そうとしてくる。お前も魔獣を見た、というか襲われてただろ。あいつも魔獣だ。」



あの熊のような生物、あれが魔獣。

あの魔獣に襲いかかられたとき、本当に命の危機を感じた。


「冒険者は、命の遣り取りをする職業だ。」


一拍おいて最後にそう言うと、ケレンさんはふと表情を緩めた。


「でも、それを加味しても楽しいぞ、冒険者は。」



俺はじっと目を瞑って考える。


さっき魔獣に襲われたばかりだから、その怖さをはまだ鮮明に覚えていた。

だから、本当に命の遣り取りをするということもわかっていた。命の遣り取りは、日本で生きていたときには絶対になかったことだ。


でも、やりたいと思った。ケレンさんが言っていたように、この世界を冒険してみたいとこの世界を生きていて思った。


こんなことを思ったって、今の俺はきっと本当の命の遣り取りをしたとき、怖くてたまらなくて、戦うことなんてできないだろう。でも、今やりたいことはこれだと間違いなく言える。やらなくて後悔するくらいならやったほうがきっといい。



「なりたいです、冒険者。」


目を上げてケレンさんの目をじっと見つめる。ケレンさんはどこか驚いたかのように眉を上げると、嬉しそうに目を細めて大声でいった。


「よし!俺がお前を冒険者にしてやる!」


✕✕✕✕✕

#<名前>ノア(家名なし)


<HP> 120/120

<MP> 300/300

<筋力> 120

<体力> 50

<瞬発力>40


:レベル 10

:固有スキル "魔香"

:効果 "魔獣を引き寄せる"(※聖域では効果なし)


<スキル> 『超強化Lv.1』〈『魔力制御Lv.10』『気配察知Lv.10』『身体強化Lv.10』〉


『鑑定Lv.19』『闇魔法Lv.1』『光魔法Lv.1』『言語理解Lv.1』『精神耐性Lv.1』#




✕✕✕✕✕


文章が長くなり申し訳ありません。


小説のフォロー、応援、レビューありがとうございます。


少し変更がしました。よろしくお願いします。

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